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塩 インタビュー2022

2022年7月21日号 塩特集

鈴木社長
株式会社天塩
代表取締役社長 鈴木恵氏

株式会社天塩(鈴木惠社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や今後のビジョンについてインタビュー。鈴木社長は熱中症対策が日常的になる中、1日三食の中で適正な塩分摂取を行うことなど改めて塩の大切さを訴えていく必要性を示した。
(藤井大碁)
◇   ◇
‐直近の塩の動き。
 「コロナ初期にあった巣ごもり需要は縮小し、家庭用の塩の消費はやや減少傾向にある。だが極端に落ち込んでいるわけではなく、一部では伸びている商品もある。弊社でも海洋深層水を使用した平釜塩など競合が少なく付加価値の高い商品については伸長している。コロナをきっかけに、以前より料理素材にこだわる人や健康に気を遣う人が増えていると推測できる。また単身世帯の増加などにより1キロサイズなどの大容量製品は引き続き厳しい状況で、700gや500gの製品が売れている。人口減少が続く中、塩だけでなく食品全体の需要は何もしなければ年々減少していく。長期的な見通しを立て対策を練っていかなければならない」
‐梅干し向けの塩の需要。
 「梅干しメーカー向けの出荷については、各メーカーが昨年の在庫をまだ持っているようで、昨年より動きが悪い。また一般消費者向けについても、様々な食品が値上がりして節約志向が高まる中、梅干しを漬ける人が減っているのか苦戦している。最近のトレンドとしては、通販で梅を購入して梅干しを漬ける人が増えている。こうした消費形態の変化にも対応していく必要がある。今年は梅雨明けが例年よりだいぶ早かったので、今後の巻き返しに期待したい」
‐塩の需要を高めるために。
 「最も大切なのは根底から塩の重要性を訴えていくことだ。近年、熱中症対策が日常的になってきているが、1日三食の中で塩をしっかりとることが重要であるということを改めて訴えていきたい。特に夏場は、塩飴で少量ずつ塩分補給を行うより、三食の中で適正な塩分摂取を行う方が、経済的であるし効率的な対策が立てられる。自分で料理を作り、どのくらいの塩分を摂っているのか把握することが大切ではないか。そうした基本的な塩の知識を発信していくことが重要だと考えている」
‐特殊製法塩協会の会長を2年務め、今年の総会にて任期満了で退任された。
 「2年間にわたり会長を務めさせて頂いた。コロナ禍によりPRイベントなどリアルの活動を実施することは難しかったが、HACCP制度化に伴い、業界として作らなければならなかったHACCP手引書を作成し、会員に配布した。協会会員以外からも参考にしたいという声があり、協会ホームページから自由にダウンロードできるようにしている。安全安心な塩づくりのために是非ご活用頂きたい。特殊製法塩協会は今期よりマル二の脇田社長が会長に就任された。私も副会長として引き続き会長をサポートし、塩の重要性を訴える活動に力を入れていきたい。来年は食育推進全国大会へ協会として出展することも検討していく」
‐今後について。
 「消費者の節約志向は高まっているが、付加価値の高いものについては、高くても売れる傾向にある。そうした商品を開発し、価値をしっかり伝えながら販売していくことが大切だ。長期的には人口減少が進む中、塩だけでなく塩と関連する新規事業の立ち上げにも力を入れていきたい」
【2022(令和4)年7月21日第5100号12面】

石井氏と青木氏
鳴門塩業株式会社
専務取締役 石井英年氏
取締役営業本部長 青木貴嗣氏

 鳴門塩業株式会社(安藝順社長、徳島県鳴門市)は、年間最大20万tの製塩プラントを有する国内製塩大手であり、㈱大塚製薬工場へ医薬品原薬の塩を供給してきた経緯から国内製塩メーカーでは初めて医薬品製造業許可を取得し局方塩の生産を行うなど、万全の体制下で国産塩を製造している。石井英年専務(左)と青木貴嗣本部長(右)は、石炭価格を筆頭にコスト上昇が自助努力の範囲を超えていることを指摘。安全安心な国産塩の供給には、適正価格の追求が必要であると話す。(小林悟空)
◇   ◇
‐価格改定を進めている。
 青木本部長「今年4月より、㎏当たり10円以上の値上げを行った。決定したのは昨年11月、石炭高騰が主要因だった。製塩にかかるエネルギー費や物流費、人件費が塩の値段を大きく左右することになる。中でもエネルギー費用は大きな割合を占めており、企業努力による吸収は不可能と判断しての価格改定だった」
‐その後も石炭価格は上昇している。
 石井専務「この状況が続くなら第2次値上げも現実味を帯びていく。ロシア産石炭の使用が世界各国で禁止された結果、インドネシア産石炭やオーストラリア産石炭に需要が集中し高騰している。昨年の上昇幅よりさらに大きい。円安やその他の諸コスト増も続いており、前回の価格改定が完了してもなお、全く利益が出ない状態になってしまった」
‐カーボンニュートラルへの取組も求められている。
 石井専務「高騰しているとは言え石炭が最も安価であるし、他のエネルギー源へ切り替えるとなれば新たに莫大な設備投資が必要であり、現状としては難しい。別の方法で環境負荷軽減を図っている。まず石炭を使うボイラーは、硫黄酸化物、窒素酸化物の排出が少ない流動床ボイラーを使用している。ボイラーの蒸気から自家発電をするコージェネレーションシステムの採用、ボイラーで発生した灰は路盤材として有効活用している。その他エネルギー源の活用についても、業界団体などで企業の垣根を超え研究している所だ。この他、持続可能な開発目標(SDGs)に賛同し実現に向けた積極的な取組を進めている」
‐塩の製法について。
 青木本部長「膜濃縮製塩法を採っている。これは目に見える異物は勿論、海水中に含まれる環境ホルモンやダイオキシン、ヒ素などの物質も分子レベルで除去し、非常に品質の高い食塩を作ることができる。万が一、海が汚染されていたとしても安全だということ。この製塩法は日本が生み出したものであり、世界に誇れる技術だと言える」
‐国内製塩他社との差別化は。
 青木本部長「安全衛生管理という面に強みがある。塩は金属を侵すためサビ等の異物混入が大敵で、設備や商品のチェックは万全の体制を整えている。当社は2002年に医薬品製造許可を取得し、医薬品GMP管理のもと、日本薬局方塩化ナトリウム(医薬用原薬)を生産している。医薬品の製造は食品よりさらに厳しい管理が求められる。この経験が食品製造においても意識を高め、衛生管理レベルは格段に向上した」
‐品質面での違いは。
 青木本部長「製塩における『加工助剤』の大半を当社では使用していないことが特徴。基本的に製塩工程の中で無害化されるため『使っているからダメ』という訳では決してないのだが、当社は医薬品製造工場としての責任上からも、たとえ助剤といえども使用しないほうが望ましいとの考えで、使用を廃止している。根本から断っているため、それらの成分が混入することは万に一つもないと言える」
‐今後の方針は。
 石井専務「人間にとって必須である塩は安定供給・品質維持は最重要事項であるので、エネルギー相場等見極めながら、柔軟に対応していかなければならない。勿論、流れに身を任せるだけではなくて、効率化や環境負荷軽減などやるべきことにも取り組んでいく。全社員から常に改善策を募っており、年間100以上の意見が出て、中には数千万円規模のコスト削減に繋がることもある。製造から物流、事務作業まで、まだまだ改善できることはありそうだ」
【2022(令和4)年7月21日第5100号13面】

2022年3月21日号 塩特集

日本特殊製法塩協会
会長 鈴木恵氏

 塩の魅力伝える場所増やす 家庭料理が持つ価値を訴求
「特殊製法塩」及び「塩特定販売業」の各社が集まる、日本特殊製法塩協会。青い海、天塩、伯方塩業、日本精塩、マルニの5社が発起人となり2015年に設立され、現在37社が加盟している。同協会では“塩の正しい知識の発信”を主な目的として取り組んでいる。鈴木恵会長(天塩社長)にコロナ下の塩の動向や今後の方針などについて聞いた。(藤井大碁)
  ◇     ◇
 ‐この一年間を振り返って。
 「昨年の塩の需要は、一昨年とほぼ同じような動きを示した。業務用が引き続き落ち込む中、一昨年のコロナ初期にあった巣ごもり需要が縮小し、家庭用の塩の消費はやや減少した。だが極端に落ち込んでいるわけではなく、一部では伸びている商品もある。弊社でも海洋深層水を使用した平釜塩など競合が少なく付加価値の高い商品については伸長している。コロナをきっかけに、以前より料理素材にこだわる人や健康に気を遣う人が増えていると推測できる。また業務用においても粒形や成分などで差別化を図ることができるオーダーメードの塩のニーズは増えてきている。一方で、単身世帯の増加などにより引き続き大容量製品は厳しい状況だ。今後は国内人口が減少していく中、これまで以上にマーケティングに力を入れて商品開発を行っていきたい」

 ‐様々なコストが上昇する中、食品業界では値上げが続いている。
 「塩業界も製法によっての差はあるがエネルギーコストや物流費の高騰により大きな影響を受けている。今回価格改定を実施するメーカーもあると思うが、弊社では2019年に価格改定を実施しているため現時点では値上げの予定はない。足元では消費者の節約志向が強まっており値上げにより消費者の塩離れを招く恐れもあるため量目調整による値ごろ感の確保など各社が慎重に対応していく必要があるのではないか」

 ‐日本特殊製法塩協会の取組。
 「塩の魅力を伝える場面を作り、塩の正しい知識を消費者に発信していくことを目標に活動している。2020年には特殊製法塩の製造におけるHACCP手引書を作成し会員に配布するなど安全安心な塩づくりのための取組も行っている。今年はコロナ前に実施したサンマ塩焼きと塩サンプルの配布など、コロナの状況を見極めながらPRイベントや食育活動を積極的に実施していきたい。また塩業界全体で足並みを揃えて、こうしたイベントを開催していく必要性も感じている」

 ‐貴社では料理教室や食育イベントを頻繁に開催している。
 「本社併設の天塩スタジオができたことにより積極的にBtoCの取組ができるようになった。梅干や味噌などの料理教室を通して塩の魅力を伝えている。その他にも、マルシェの開催やキッチンカーの展開なども行っている。4月1日には『天塩 塩むすびの日』(4月6日)に合わせて、オンライン食育料理教室を開催する予定で、100組の親子をご招待している。塩について楽しみながら学んで頂ける場になればと考えている」

 ‐今後について。
 「家庭で作る料理の価値を改めて訴求していくことが重要だ。料理に使う塩の需要はコロナ初期に瞬間的に増加したものの、その後は再び減少傾向にある。冷凍食品や惣菜製品など簡便性の高い食べ物の存在もあり、料理を作る人は減少している。このままの状況が続けば、10~20年後に料理ができる人は少なくなってしまうのではないか。簡便性の高い食品は包装資材を多く使用しゴミの増加にもつながる。便利さの追求ばかりに世間の注目が集まりがちだが、健康面や環境面を考えても、家庭で作る料理の価値をもう一度訴求していく時期に来ているのではないか。弊社では、エコ輸送の実施や包装資材の再利用などSDGsを推進しながら、様々な取組を通して料理を作る楽しさや塩の魅力を発信していく」
【2022(令和4)年3月21日第5088号8面】



伯方塩業株式会社 代表取締役社長
石丸一三氏

天日塩の付加価値向上へ エシカルやSDGsにフォーカス
2023年に創業50周年を迎える伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の石丸一三社長にインタビュー。石丸社長は2019年度からの中期経営計画の中で、10年ビジョン「世界で1番有名な塩メーカーになる」を掲げている。その本質は、社員が誇りを持って働ける会社を目指すことであり、その実現のため人事制度改革や売上拡大、そしてSDGsへ取り組んでいることを話した。(小林悟空)
◇   ◇
 ‐10年ビジョン「世界で1番有名な塩メーカー」について。
 「対外的な広告宣伝を拡大して知名度を上げたいということではなく、1番の核は『社員が自らの仕事に誇りを持ちイキイキと働ける会社を目指そう』ということ。このビジョンに向かって取組を進める過程や結果を通して、顧客サービスの向上や地域社会への貢献を達成し、周囲からの評判が上がり、自然と伯方塩業というブランドが認知されるようになっていくことを目指している」

 ‐10年ビジョン実現への取組。
 「5か年の中期経営計画を立て、取り組んでいる。一つが人事制度の改革。イキイキと働き、努力する人が報われる仕組へと変更し、運用が始まっている。一方営業面では、2020年度からコロナにより外食産業が停滞し、売上目標達成に遅れが出ているのが正直なところ。ただ、新規顧客の獲得は進めているので、コロナが落ち着き既存顧客の売上が回復してくれば達成できる見込みとなっている」

 ‐新規顧客の獲得は。
 「塩は美味しいからと言って食べる量を増やせるものではなく、他の業界よりも同業者間の競争はシビア。日経POSセレクション2020年の食塩カテゴリーでは『伯方の塩1kg』が1位、『伯方の塩500g』が2位とコアなファンに選ばれているが、売場を見て決める浮動層もいる。そこを如何に取り込むかが重要。昨年はスタンドパック200gをリニューアルし販促をかけた成果が出た。また中外食へは個包装の『味香塩(あじかおるしお)』が徐々に評価を頂いている」

 ‐既に抜群の知名度を誇る中、今後の発信について。
 「『伯方の塩』はテレビCMをきっかけに知名度が上がったが、最近は若い世代がテレビCMを見なくなっているため、Webでの発信にも力を入れている。属性により配信ターゲットを細かく設定できるWebCMでは、単に『伯方の塩』の宣伝だけでなく塩そのものへの理解、関心を引き出せるよう、今まで以上に戦略的な発信を模索している。そして海外への発信はまだまだなので、同時並行で進めている」

 ‐海外での展開は。
 「海外売上は現在全体の1%程度しかなく、拡大の余地は無限にあり、今後の成長の柱になっていくと考えている。海外では塩の違いが意識されることは少ないように見受けられるが、日本で塩にこだわる人が増えたのは我々が長年発信してきたからだと考えている。日本の塩は異物混入や汚染がなく世界トップクラスの安全性であること、その中でも当社はこだわりを込めて作っていることを発信していけば海外でも結果は付いてくるはずだ」

 ‐塩業界で値上げが相次いでいる。
 「当社の場合、2019年に価格改定を実施していることから、未だその判断はしていない。しかしロシア問題でこれからさらに燃料価格が上がるのは必至で、柔軟に判断していかなければならない」

 ‐脱炭素が課題となっている。
 「自然塩存続運動から生まれた当社にとって、環境保護への取組は重要課題。2019年に大三島工場に新工場を建設した。既存の工場と新工場のボイラーを統合すればボイラーの設置数を減らすことができる。また使用する燃料をA重油からもっとCO2排出を減らせるものに代えることも計画中だ。さらに工場の太陽光発電を増設するなど、様々な観点からCO2排出削減を図り、世界に誇れる塩メーカーを目指す」
【2022(令和4)年3月21日第5088号9面】






ナイカイ商事株式会社
専務取締役 井上仁志氏

異物混入許さぬ製法 国産塩で安全安心を提供
ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は国内製塩大手の一つである。年間20万tもの生産能力を有し、業務筋へ供給するほか塩化カリウムなど海水由来の化成品も広く扱う。グループ企業の日本家庭用塩株式会社(岡山県玉野市)は「瀬戸のほんじお」で著名だ。今回、商社機能を持つグループ企業のナイカイ商事株式会社(東京都港区)の井上仁志専務にインタビュー。井上専務は、石炭価格の高騰に伴い製品の価格改定を実施するが、安全性や物流面といった強みを生かして、食のインフラである塩の安全安心を打ち出す方針を語った。(小林悟空)
◇   ◇
 ‐ナイカイ塩業の塩の特徴。
 第一に、当社の塩は最も安全安心な塩であると自負している。というのも当社の製塩方法では、海洋プラスチックなどの海水中の混入する危険が極めて低い。海水をイオン交換膜に通すことで塩度の高い「かん水」を作り、それを石炭で加熱し水分を飛ばすことで食塩ができる。このイオン交換膜の工程で、異物が除去される。また海外の塩で添加されているヨードの過剰摂取などの心配もいらない。
 また、国内製塩であるため、万一問題が発生しても、原因究明やクレーム対応などすぐに対応できる。さらにこのコロナ禍で、輸入が滞る心配のない国産品の良さが認識された。塩はあらゆる食品に含まれるインフラ的存在であるため、安全安心を提供できることが何より大切だと考えている。

 ‐ナイカイ商事では他社の塩も扱われている。
 用途や価格の要望によっては他社製品の方が適していることも起こりうる。他社製品を扱うことで提案の幅が広がればお客様にメリットがあるのはもちろん、当社にとっては事業領域の拡大が物流面の強化に繋がるなど間接的な恩恵も得られている。近年、物流費が上昇する中、この強みは特に生きている。

 ‐化成品の事業について
 海水から塩をとる技術を応用して始めた事業であり塩化カリウムや炭酸マグネシウムなどを扱っている。主な顧客は食品業界でなく工業系なのだが、物流面の強化や経営の安定など、塩と相乗効果をもたらしてくれている。

 ‐4月から8円/kg以上の価格改定を発表されている。
 井上 塩の原料は海水であるため無限だが、製塩には莫大な費用がかかる。イオン交換膜でかん水を作った後は石炭が必要で、当社の場合、製品原価の約3分の1は石炭代だ。物流費や包装資材などの価格上昇には耐えてきたのだが、今回石炭価格が急上昇し、企業努力で吸収することは不可能な段階に至ったと判断した。
 昨今の環境保全の流れから石炭の供給は今後絞られていく可能性が高い。現状、塩メーカーの大半は最もコストが低い石炭を使っている。脱炭素への対応をどうするか、その場合塩の価格はどうなるのか、業界共通の悩みとなっている。

 ‐今後の方針は。
 減塩政策によって日本人の塩摂取量は減り、連動して国内製塩量も減ってきた。そんな中で、製塩の各工程でコストが上がり価格改定しなければならないことは苦しい判断だった。
 当社としては、イオン交換化膜製法による安全性、国内メーカーの対応力、他事業との相乗効果を引き続き活かして、食のインフラである塩の安定供給を実現し信頼を勝ち取っていきたい。
【2022(令和4)年3月21日第5088号10面】


株式会社ソルト関西 代表取締役社長
山本博氏

燃料代転嫁へ理解求める CO2は収支ゼロを目指す
株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして一昨年設立された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めており、元売企業と業界団体両方の立場から、塩の価格改定へ理解を求めるとともに、脱炭素実現のアイデアを語った。(小林悟空)
◇   ◇
 ‐塩の出荷状況は。
 「今冬は非常に降雪が多く融雪塩の出荷が増えた。一時は融雪塩が足りなくなる心配をしたほどで、当社としては前年を上回る売上となった。しかし食品用に限って見れば、縮小傾向に歯止めがかからない。減塩化政策と少子高齢化で、塩の出荷はここ十数年右肩下がりに減り続けており、コロナ禍でさらに加速した感覚がある。外国人旅行者が入らなくなり胃袋の総量が減ったこと、そして食の重心が外食から内食へ移ったことでフードロスが大幅に減ったことが背景にある」

 ‐御社の対策。
 「残念ながら塩の一人当たりの消費量を増やすことは難しい。そのため塩以外の調味料や資材関係などの扱いを増やしている。取引先様にとっては、仕入れのスリム化というメリットに繋がっている」
 ‐国内製塩大手4社を中心に価格が改定される。
 「企業、製品により多少の差はあるものの、概ね2割以上の大幅値上げとなった。一番の原因は石炭、LNGなど化石燃料の高騰。国内製塩で主流な海水塩を作るには莫大なエネルギーが必要であり、その燃料費が塩の価格のかなりの部分を占める。もちろん物流という面でも影響している。燃料費高騰を価格転嫁しなければ事業の継続すら難しい状況になっていることをご理解いただきたい」

 ‐燃料費は相場制で、下がることもある。
 「勿論、安値で定着するなら値下げの議論も出ると思うが、今後長期的に見れば上昇傾向となるのは間違いないというのが共通見解。現在の高騰は新型コロナウイルスによる海上輸送費の高騰、さらに脱炭素が世界的課題となっているため、投資の対象から離れた化石燃料価格が逆に高騰したもの。今回の価格改定には折り込んでいないが、昨今のロシア情勢もあり、現在も相場は暴騰を続けている」

 ‐脱炭素実現のアイデアは。
 「製造面で言えば、クリーンエネルギーを使い発生するCO2を減らすには新たな設備が必要で時間も費用もかかる。当面は、発生したCO2を炭酸マグネシウムなど別の物質に変換して活用する、また発生するCO2を相殺する植樹に投資する、など収支をゼロへ近づける方法が現実的と考えている。各企業任せにするのでなく、懇話会を通じて研究機関や塩事業センターから知恵を借りるなど取り組んでいる。また、共同配送等による物流面での改善も検討していきたい」

 ‐塩の情報発信については。
 「塩が身体に必要不可欠であることは『くらしお』運動を通じて少しずつ知られるようになってきたと思う。味や製法の違い等は各社各様に取り組まれているが、塩そのものの重要性をより社会に発信するため業界団体としてどう取り組んでいけるか模索中だ。また少子高齢化への対策として、海外市場の開拓も視野に入れる必要がある。日本の塩は異物混入や汚染がなく、世界トップレベルの品質を持つことを主体的に発信していけるよう議論を進めていく」
【2022(令和4)年3月21日第5088号11面】






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