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漬物JAS・全国漬物検査協会2024

<全漬検 令和6年度通常総会> 全漬連との連携を強化

宮尾会長
大羽副会長
野﨑副会長
真野専務理事
西村顧問
佐藤専務理事
岩田理事
遠藤会長
吉川理事
佐久間理事長
全漬検の通常総会
JAS格付数量1・7%増
 漬物の登録認定機関及びJAS格付のための依頼検査機関である一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は7月30日、東京ガーデンパレス(東京都文京区)にて令和6年度通常総会を開催した。総会では各議案を慎重審議し、今年度の事業計画を決定した。我が国の食品業界の大多数を占める中小企業では、世界的な紛争の影響によるエネルギー高騰、天候不良による原料高、円安による資材高等を価格転嫁できないデフレ構造となっており、厳しい経営環境が続く。中でも漬物業界は、年々高まる消費者の安全・安心へのニーズに、いかに応えて行けるかが課題だ。それらについて技術面から支援してきた全漬検は、全日本漬物協同組合連合会(中園雅治会長)との連携をさらに強化し、各種試験制度、認定制度、漬物グランプリ等の事業への協力も推進してきた。業界を取り巻く環境はHACCP義務化、漬物製造業の許可制度移行など大きく変化し、法令遵守の取組が求められている。
◇    ◇
 JAS格付のための依頼検査実績は、1349件、2万3351t(5月確定分)で、前年度実績に対して件数は55件減少したが、数量は408t(1・7%)増加した。目標とした検査数量の2万500tを上回る数量となっている。
 依頼検査規程に基づく検査は9件で、その内訳は成分分析検査3件、放射能検査6件であり、韓国向け輸出梅干しの放射能検査証明の発行も行った。
 昨年度、全漬検には会員や会員外企業等から、表示(46%)、品質(17%)、法令等(12%)の問い合わせや相談があり、年間65件(会員77%、会員以外の漬物企業等から23%)について丁寧かつ的確な対応を行った。
 同会の一部を借用し発足した宮尾漬物微生物研究所において、漬物企業の1名に対し令和5年11月に延べ5日間の微生物研修が行われ、同会はその各種利便を提供、協力した。
 教育研修事業では、平成3年度から開催している第32回「漬物技術研究セミナー」を2月28日に開催し、約80名が参加した。
 会員の異動については、加入会員4(一般会員)、脱退会員5(JAS会員4、団体会員1)の異動があり、令和5年度末(令6年5月31日)現在の会員数は、JAS会員61、一般会員39、団体会員17の計117会員となっている。
(左から)木内理事長、宮尾会長、渡部専門官、戸谷会長
格付検査数量2万3351t
 常食量で食塩相当量表示へ
 通常総会は佐藤惠専務理事の司会進行で開会。大羽恭史副会長が開会の辞で「この夏も命の危険を伴うほどの酷暑が続き、天候不順や不穏な世界情勢など変化の激しい時期だ。このような時には、我々にできる取組をしっかりと進めていくことが大切」と述べ、総会の進行に協力を求めた。
 続いて宮尾茂雄会長が挨拶に立ち、業界関連の法律改正について触れた後、会長自身が関わってきた経験からの私見として「一般消費者や医師、栄養士にある“漬物は塩分が高い”という意識の刷り込みを無くすため、漬物業界の主力であるJAS企業自らが発信するパワーが必要だ。また、食卓で通常食べる常食量での食塩相当量の表示を適切に行うことが、消費者の正しい理解につながる。ぜひ実行をお願いしたい」と会員企業への要望を示した。(挨拶別掲)
 来賓出席の農林水産省大臣官房新事業・食品産業部食品製造課基準認証室の渡部英悦規格専門官、農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の木内岳志理事長、日本農林規格協会の戸谷亨会長、全日本漬物協同組合連合会の真野康彦専務理事が紹介された。
 宮尾会長が議長に就いて、次の議案審議に移った。
 ▼①令和5年度事業報告及び収支決算承認▼②令和6年度借入金最高限度額承認▼③令和6年度会費及び徴収方法承認▼④役員報酬の最高限度額承認▼⑤その他▼報告事項=令和6年度事業計画及び収支予算。
 5年度事業報告では、JAS格付依頼検査実績が、前記の通り約2万3351tで1・7%増加したことを報告した(前文参照)。
 全漬連との協力連携については、各種問い合わせや技術的な相談への対応、漬物製造管理士制度、発酵漬物認定制度、4月開催の漬物グランプリ等への協力を行った。
 収支決算については、川勝恵一監事より「適正である」との監査報告が行われた。令和6年度における重点事項としては、①JAS制度関係業務②依頼検査関係業務③教育研修関係業務④その他、漬物の食品表示に関する相談への対応、全漬連事業への協力連携の継続などについて報告した。
 理事の選任(後任)については、大曽根洋佑理事の辞任意向を受け、大曽根史典氏(丸イ食品社長)の就任を発表し承認。その他の役付理事に変更はない。
 来賓挨拶では渡部専門官が“食料・農業・農村基本法”の改正について「食料需給の変動を加味し、環境と調和の取れた法となった。食品産業が連携した、適切な食糧システムの構築が新機軸。数多い社会課題がある中で、伝統食品である漬物の製造をぜひ継続していただきたい」と述べた。
 FAMICの木内理事長は「食品製造業者にとって当たり前の事である製造工程の管理を確実に続けることが重要。JASは信頼の証であり、会員の皆様は自信を持って製造していただきたい。世界に誇れる発酵食品である漬物を世界の“本物”を求める人々に伝えてほしい」と語った。
 全漬連の真野専務理事は「頻発する地震や天候不良、円安などの影響で原料や物資が高騰し、業界ではその対策が急務。若年層の漬物消費量の減少や、宮尾会長の話にもあった塩分相当量に対する誤った認識の是正などに、今年は『実行の年』として全漬連として取り組んでいく」と語った。
全漬検の懇親会
 総会は滞りなく終了し、その後、別室にて懇親会が開催された。野﨑伸一副会長が開会の辞で「猛暑と高温多湿の天候の中、熱中症やコロナ、インフルエンザなどの猛威で、厄介な状況となっている。今日は免疫力を高められるような食事をとって、懇親を深めていただきたい」と述べた。
 来賓挨拶で、日本農林規格協会の戸谷会長は「世界的な和食ブームは続いており、インバウンド客も増加している。日本を訪れた外国人には“本物の日本食”に触れてもらいたい。漬物はその和食の中でも重要な食材であり、これから益々発展してほしい」と期待感を示した。
 乾杯発声を前会長の西村信作顧問が務め、「世界でも国内でも課題は山積しているが、健康でなければ会社経営や団体活動は成り立たない。全員、健康に留意し、変化に立ち向かっていきたい」と挨拶し、高らかに乾杯の音頭を取った。
 互いに懇親を深める中、日本漬物産業同友会の遠藤栄一会長、全漬検の吉川絵美子理事、新潟県漬物工業協同組合の佐久間大輔理事長が近況報告。
 遠藤会長は「宮尾会長のお話にあった常食量表示を10gで実行していきたい。輸入原料を扱っている同友会会員は、円安で大変厳しい状況。だが、先ごろ生まれた私の孫が『家業を継ぎたい』と言ってくれるような、キラキラワクワクの業界にしていきたい」と理想の将来像を語った。
 吉川理事は「円安で築地でもインバウンド客が増えており、当社の店舗にも外国人客がよく入って来てくれるようになった。外国人に漬物の製造方法などを説明すると喜んでくれるので、これからも漬物を世界にアピールしていきたい」と抱負を述べた。
 佐久間理事長は「10月から始まるNHK朝ドラは『おむすび』で、漬物業界にとって追い風。35年前、滋賀で修業していた時代に『京ふたり』が放映され、千枚漬が飛ぶように売れた。それに負けないくらい、業界の応援歌になってほしい」と期待感を示した。
 宴もたけなわのうち、岩田孝逸理事が中締めで登壇し、「暑い夏は、漬物での塩分補給が一番。工場見学に来てくれる小学生にも、健康で過ごすため漬物を食べてほしいと勧めている」と取組を紹介し、三本締めの音頭を取ってお開きとなった。

【宮尾会長挨拶】

食品の安全・安心対策を徹底
 JAS制度の更なる普及に期待
 今年の世界を見ると、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃の戦闘が続き、深刻な対立と分断が見られる。また、各地の猛暑、豪雨などの異常気象が頻発している。
 このため我が国では電気料金やすべての原料・資材等の価格が値上がり、また慢性的な人手不足にある。その上に急激な円安が加わり、厳しい生産・製造状況によってあらゆる物やサービスがインフレ状態だ。
 国内の天候は、6月後半からの各地の酷暑と豪雨災害が発生。漬物原料の農産物の生育、収穫に心配が尽きることはない。原料確保は重要な課題であり、夏以降の天候の安定と秋冬野菜の豊作を祈るばかりだ。
 漬物では、過去に札幌市の白菜浅漬けを原因とした0157食中毒により8名の死亡事件があったが、漬物業界への大きな警鐘となり、その後は10年間以上、漬物企業の製品に起因する食中毒の発生は起こっていない。従業員の日常の手洗いと消毒の徹底、マスク・帽子着用などの服装は、コロナ感染対策にも大いに効果があったと聞いている。
 しかしながら、消費者の食品の安全、安心のニーズは強く、企業がそれに応えるには、コンプライアンスの徹底はもとより、食品の安全・安心対策をこれまで以上に徹底する必要があると考える。
 厚生労働省は食品の衛生管理を主軸にした食品衛生法の大改正により、HACCP手法を義務化した。この法改正は漬物製造業を新たに営業許可業種とし、本年6月から各都道府県の許可がなければ営業ができなくなった。加えて衛生管理責任者の配置も義務化しており、これからの漬物製造業全体の衛生管理の水準が向上するものと思われる。
 また、農水省は今年の通常国会で25年ぶりに「食料、農業、農村基本法」を改正し、食料の安定供給の確保を中心に施策展開を図ることとし、また農水産物や加工食品の輸出にも力を入れている。2020年の目標額は1兆円だったが、昨年2023年は1・4兆円をはるかに上回った。数年前に改正したJAS法にも輸出振興のための対応がされている。なお、その改正JAS法の第71条はJAS規格の活用を図る施策として、農水省やFAMICはJAS制度の普及に努めるべきとされ、最近の農水省やFAMICのHP(ホームページ)には普及推進情報が掲載されるようになったが、私どもは農水省やFAMICが率先してJAS制度の更なる普及を進めることを期待している。
 今回の総会は、昨年の令和5年度の事業を報告することと、決算等の承認及び新たな理事の補充選任をして頂きたいと思う。本会の経営基盤となっているJAS格付依頼検査数量は、一昨年は5%減となったが、キムチ、刻み漬等の増加により、昨年度は1・7%增となった。またコロナのために混乱したJAS工場監査調査計画もほぼ順調に実施できるようになり、その他の諸事業も、計画に沿って概ね終了できた。
 申し遅れたが、昨年7月の創立50周年にあたり、皆様の御支援、ご協力のお蔭を持ち、記念式典を挙行できたこと、更に創立50周年記念誌を発行できたことは喜ばしく、御礼申し上げる。
 なお、昨年の暮れに本会の設立時から、多くの漬物企業に対する技術上の教授とご指導を頂いた宇都宮大学名誉教授、本会の顧問理事の前田安彦先生が、享年92歳にて御逝去された。今回の機会をお借りし、深く感謝申し上げるとともに、ご冥福をお祈りしたい。
 私は、東京都の研究機関において食品や微生物の研究、そして東京家政大学では主に食品加工学の講座を持ち、管理栄養士や栄養士の養成に取り組んだが、その中で漬物との関わり、そして漬物業界との付き合いは、大変長いものになっている。この度の全国漬物検査協会総会の挨拶とは別に、漬物に関する私見を述べさせていただきたいと思う。
 漬物は、脳卒中や心筋梗塞、そして高血圧の原因になるような、特に塩分の高い食べ物なので、食事では控えるようマスコミや教育機関を通して話がされている。漬物の塩分は半世紀前の約10%弱から、現在は皆さんの努力により、ほぼ4%以下となり、他の食品とは変わりない。食に関わる人たちはこの事実を知っているが、消費者一般、そして医者や栄養士にも、漬物は塩分が多い食べ物、高血圧の敵という、「刷り込み」がある。その「刷り込み」を無くしていくには、本日ご出席の漬物業界主力メンバーであるJAS企業の皆さんが、自ら発信するパワーが必要かと思う。
 食卓で通常に食べる量を常食量と言うが、漬物ではそれほど多くはなく30g程度と言われており、この中の塩分量は僅か。他の食品の常食量の塩分と比較ができるよう、漬物の商品に表示している栄養成分表示で、食塩相当量の表示を適切に行っていくことが、多くの消費者の正しい理解につながると考えている。
 栄養成分表示は義務表示だが、100g当たりの栄養成分表示をしなくてもよく、「1食(30g)当たり」「5切れ(30g)当たり」「1皿(30g)当たり」「1粒(10g)当たり」などの食塩相当量を示していくことをお勧めし、是非、その実行をお願いしたい。
 本会は、全漬連事務局と事務室を同じくし、各々の業務を行っているが、全漬連が取り組んでいる諸事業との連携を密にして、技術面の対応を積極的に行い、漬物業界の発展に協力して参りたい。
 最後に、本会のようなJAS法の登録認証機関としての認証業務や検査業務を実施するものとしては、食品に対する安全・安心の消費者ニーズに的確に対応する責務は重いものと認識しており、その責務を十分果たすことができるよう、また理事会、総会で決定を頂く諸事業が円滑に実施されるよう関係者のご指導、ご支援を重ねてお願いする。
【2024(令和6)年8月1日第5169号1,5面】

<全国漬物検査協会> 第32回漬物技術研究セミナー

宮尾会長
大羽実行委員長
第32回漬物技術研究セミナー
9名による講演と研究発表
 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は2月28日、東京都江東区の森下文化センターで第32回漬物技術研究セミナーを開催した。当日は、宮尾会長、実行委員長である大羽恭史副会長をはじめ約70名が出席、4つの講演と5つの研究発表が行われた。
 講演では、株式会社クレオサニテーション事業本部の内田樹香氏、宝化成株式会社代表取締役の小暮始氏、農林水産省大臣官房政策課企画官の加集雄也氏、全漬検会長で東京家政大学大学院客員教授の宮尾茂雄氏が講演。
 研究発表では、株式会社新進品質保証部係長の澁川寛行氏、東海漬物株式会社漬物機能研究所要素技術開発課の宝田美月氏、遠藤食品株式会社工場長の堀江裕介氏、茨城県産業技術イノベーションセンターの岩佐悟氏、株式会社新進生産本部購買部課長で土壌医の五十嵐学氏が発表を行った。
 開会挨拶で宮尾会長は「セミナーが初開催されてから、30年以上が経つ。業界の皆様の積極的な研究発表や、先生方のご講演、昨年他界された前田先生の功績も非常に大きかったと思っている。色々な方々に支えられて今日までやってくることができた。本日のセミナーも成功裡に終わるようご協力お願いしたい」と述べた。
 大羽実行委員長は、「32回目のセミナーということで、多くの皆様にお集まり頂いたことに感謝申し上げる。円安が進み、3度目の150円台に乗った。海外原料に依存する食品業界にとっては痛いこと。これを乗り切るには、値上げを進めていかなければならない。だが、単に値上げするのではなく、新しい商品を開発して、新しい価格で売っていくことが理想。そのためには技術者の皆様のお力が必要なので、本日のセミナーでヒントを得て新商品開発にお役立て頂きたい」と話した。
 会場では、昨年の研究発表者へ宮尾会長から表彰状が贈呈された後、講演がスタート。昼休憩を挟んで行われた研究発表では、宮尾会長が座長、高崎健康福祉大学農学部生物生産学科教授の松岡寛樹氏がアドバイザーとして進行役を務めた。登壇者は多様なテーマで発表を行い、セミナーは漬物に関する幅広い見識を身につける機会となった。
 発表の概要は次の通り。
[洗浄と衛生管理] ▼内田樹香氏
 株式会社クレオサニテーション事業本部の内田樹香氏が「洗浄と衛生管理について」というテーマで講演。
 食品の安全安心への関心が高まる中、食品工場は多くの課題を抱えている。特に深刻なのが人手不足。人手不足が深刻化することで、作業ミスが起こり、品質や安全性に関わる重大な問題に発展する可能性もある。生産性を向上させ、安全な食品を製造するために作業の効率化を図ることが必要不可欠になっている。
 作業の効率化を図る上で重要になる衛生管理や洗浄性の向上に向けたポイントを紹介。①洗いやすい環境を整える、②洗浄手順の確認、③マニュアルの整備・現場教育、④洗浄の4要素~TACT~、⑤洗浄の効率化(機械化・泡洗浄)の5つの項目に分けて、その施策を説明した。
 また、省人化、原料・資材の高騰、SDGsへの対応といった課題がある中、その解決に向け、問合せが増えている同社商品として『タイマー付き自動洗浄システム「CS-01」』と『安定型過酢酸製剤「パーサン MP2-J」』を紹介した。
 内田氏は、「作業の効率化と衛生度の向上を実現するには、洗いやすい環境を整えること、そして機械化や泡洗浄の導入が有効。そのためには現状把握とコスト比較が重要」と語った。
[輸入野菜原料の現状] ▼小暮始社長
 宝化成株式会社代表取締役の小暮始氏が「輸入野菜原料の現状と課題」というテーマで講演した。
 小暮氏は冒頭、輸入野菜の歴史について説明。1960~70年代は台湾、1970年~80年代は中国・タイ、1980~90年代はベトナム、ミャンマー、ラオス、インドネシア、フィリピンなどに原料産地が変遷してきた歴史を振り返り、近年はベトナムの存在感が高まっていることを挙げた。また、中国産塩蔵原料産地について、キュウリやナスを例に紹介すると共に、漬物原料について、常温流通からチルド流通に変わってきたこれまでの流れを説明した。 
 輸入原料の課題として、安心安全リスクや為替リスクなどを挙げる一方で、年間契約で質・量が安定することや加工度の高さなど、そのメリットを説明した。 最後に、自社で取り扱う中国産ザーサイやベトナム産メンマなどを紹介。「塩蔵、冷凍、乾燥野菜など幅広い海外原料を取り扱っているので、原料に関わるご要望があれば是非ご相談頂きたい」と講演を結んだ。
[食料・農業・農村政策] ▼加集雄也企画官
 農林水産省大臣官房政策課企画官の加集雄也氏が「食料・農業・農村政策について」というテーマで講演した。世界的な食料情勢の変化に伴う食料安全保障上のリスクの高まりや、地球環境問題などへ対応するため、「食料・農業・農村基本法」の改正に向け取り組んでいることを説明。穀物の国際的な価格高騰、物流2024年問題、食料品アクセス困難人口の上昇といった日本の食料安全保障上の課題を指摘した。 
 国内の野菜市場について、内食から中食への食の外部化が進展し、生鮮食品から加工食品へ需要がシフトしていることを説明。漬物について、米の消費量の減少に伴い消費量は減少傾向にあるとしながら、海外輸出の拡大など、今後への可能性に触れた。
 また、農業従事者の高齢化などによる労働力不足を重大な課題とし、農作業委託によるスマート技術の導入などをその対策として挙げた他、環境に配慮した持続可能な農業を実現することの重要性を示した。
 加集氏は、「農業だけでなく食品産業全体で持続可能な取組を行っていく必要がある。様々な課題がある中、そのための取組を進めていきたい」と話した。
[つけもの―健康力―] ▼宮尾茂雄会長
 全漬検会長で東京家政大学大学院客員教授の宮尾茂雄氏が「つけもの―健康力―」というテーマで講演。 女子短大生を対象にした漬物の嗜好に関する実態調査で、回答者の3割が漬物の塩分が高いと認識している結果がでたことを紹介。実際は企業努力により漬物の食塩濃度は年々低下していることや、食品群別食塩摂取量によると漬物から摂取している塩分比率は全体のわずか4%に過ぎず、思っている以上に漬物から摂取している塩分量が少ないことを指摘した。
 また野菜に多く含まれるカリウムにナトリウム(食塩)を排出する機能があることを説明し、野菜を塩漬けや糠漬けにすることで、生野菜よりカリウムが増えるケースを紹介した。
 さらに、長寿県として知られる長野県民が食塩や味噌と共に、野菜をたくさん摂っていることを挙げ、ナトリウムとカリウムのバランスである「ナトカリ比」の重要性を強調した。
 宮尾氏は農水省の「漬物で野菜を食べよう!」の取組を紹介。「1日350gの野菜摂取が目標とされているが、現状は280gで70g不足している。漬物にして食べると35gで不足分が補える。塩は漬物からという固定観念を払拭し、漬物を食べることで野菜不足を解消していけることをPRしてほしい」と話した。
[ESCOEVOの活用] ▼澁川寛行係長
 株式会社新進品質保証部係長の澁川寛行氏が「ESCOEVO 情報一元管理システムを活用した防虫管理」というテーマで発表。 ESCOEVOはアース環境サービス株式会社が提供するWEB上で報告書の閲覧やデータの共有が行えるサービス。必要な情報にいつでもアクセスできるため、衛生管理の情報共有やデータ分析に活用できる。 新進では2021年よりESCOEVO導入による防虫管理を実施している。導入前は、防虫対策委員会で対策を確認後に改善活動が始まるため、対応が遅れていた。しかし導入後はESCOEVOへ改善指摘レポートが更新され次第、すぐに改善活動を開始することができるため、迅速な対応が可能となった。
 またサイト内がクラウド化されているため改善レポートへの同時アクセスも可能となり、防虫業者だけでなく、工場を良く知る内部からも改善指摘レポートを作成することができるようになり、外部・内部両面から改善活動を行うことが可能となった。 
 その他にも、改善日数短縮による虫捕獲数減少効果、過去データとの比較検証ができることなど様々な導入メリットがあった。
 澁川氏は「今後もESCOEVOを活用して、防虫衛生活動のレベルアップを図っていきたい」と話した。
[“漬ける”の優位性] ▼宝田美月氏
 東海漬物株式会社漬物機能研究所要素技術開発課の宝田美月氏が「調理野菜の水溶性ビタミン含量と“漬ける”の優位性」というテーマで発表。
 野菜を様々な調理加工法で処理した時のビタミン含量を測定・比較し、漬物のビタミン含量を明らかにすると共に、漬けることの優位性を示すことを目的として研究を行った。漬物によく用いられる4種類の野菜(きゅうり、キャベツ、大根、白菜)を使用し、生、水浸漬、ゆで、浅漬、ぬか漬など7種類の調理法を用いて、各調理野菜の水溶性ビタミン量を測定。その結果、浅漬やぬか漬には水溶性ビタミンが多く残存していることが分かった。
 ぬか漬にはビタミンB1が生の3~6倍、ビタミンB2が1~2倍含まれていた。また、浅漬にはゆでや炒めよりも多くの水溶性ビタミンが残存していることが分かった。
 宝田氏は「漬物はビタミンなどの栄養素を効率良く摂取できる食物であり、漬物のナトカリ比は惣菜やサラダと比べても、同程度または、より低い。“漬ける”は優れた調理法であり、適切に摂取することで漬物は栄養源となる」と話した。
[DXを見据えて] ▼堀江裕介工場長
 遠藤食品株式会社工場長の堀江裕介氏が「システムによる生産効率向上~DXを見据えて~」というテーマで発表。過去から現在の業務変化や、現状の同社におけるシステム事例、今後検討していく取組や業務について説明した。
 同社では受注業務について、従来の電話から、メールやFAXへの切り替えを案内することで、電話での注文がほぼ無くなった。最終的にはペーパーレス化を目指している。
 在庫管理については、工場と倉庫を往復して在庫を確認していたが、現在はシステムを構築し、製造効率の向上が図られている。在庫を一元管理し、社内で共有することで、社内連絡時間の削減に繋がっている。また受注から製造計画についても、在庫や受注状況が一覧で閲覧できるようになり、製造効率が向上した。
 一方、食品ロスの観点から、定番商品の適正在庫数を明示することが望まれるが、商品の動きが変動するため現状は難しく、季節や時期的に注文が多い商品の認識(経験)がデータだけでは伝わりにくいことなども課題となっている。
 堀江氏は、「変化に対応できないと生き残っていけない。DX化をさらに進めて漬物文化を次世代に繋げていけるよう取り組んでいきたい」と話した。
[乳酸菌の社会実装] ▼岩佐悟主任
 茨城県産業技術イノベーションセンター技術支援部フード・ケミカルグループ主任の岩佐悟氏が「茨城県が開発した乳酸菌の社会実装に向けた取り組み」というテーマで発表した。
 第28回漬物技術研究セミナーで発表した「乳酸菌は発酵漬物の香りをコントロールできるか?」の研究結果をもとに、香りの特徴を大きく変化させることが可能な乳酸菌5株(IBARAKI-TS1~TS5株)を発見。菌株の選択により、発酵漬物の香りをデザインすることが可能であることが分かった。
 その後、これら乳酸菌を特許化し、企業への提案と製品化支援を実施。多くの企業に知ってもらうため、学会発表や業界紙での発表など、幅広く周知を図った。
 個別企業への提案も行った結果、茨城県内の2社が乳酸菌使用の胡瓜発酵漬物や発酵甘酒を製品化した。
 岩佐氏は、「今後に向け、香り以外の健康機能性の解明や発表による高付加価値化や、さらなる製品化に向けた支援を行っていきたい」と述べた。
[塩類集積改善] ▼五十嵐学課長
 株式会社新進生産本部購買部課長で土壌医の五十嵐学氏が「レタスハウスでの塩類集積改善」というテーマで発表した。
 農業法人のハウス栽培で2作連続でレタスが収穫出来ないという話を2021年1月に聞き、現場を訪問し状況の聞き取りを行った。原因の仮説を立て、堆肥を使った微生物の多様性の改善を行ったものの収穫までには至らなかった。
 その後、土壌分析を行ったところ塩基飽和度、EC等が高く塩類集積であることが判明。灌水ホースで約3日かけて約20時間散水。緑肥ハウスにはソルゴーを使用し、播種後約60日間成長させてから圃場へ鋤き込みを行った。灌水除塩ハウス、緑肥除塩ハウスとも一部生育の良くない所もあったものの、4年目にして初めて収穫ができて、さらに無施肥によるコスト削減も実現できた。その後、2作目となる今年も順調に生育している。 
 五十嵐氏は「良い土が作れれば、美味しい野菜が育つ。良い野菜が採れれば、美味しい製品を作ることができる。本日ご参加の皆様に土壌医の存在を知ってもらい、良い土づくりに繋がれば嬉しく思う」と話した。
【2024(令和6)年3月11日第5156号1、10面】

<全国漬物検査協会> 2月28日に漬物技術研究セミナー 各社調査研究等も発表

 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は、2月28日に東京都江東区の森下文化センターにて、第32回全漬検漬物技術セミナーを開催する。
 ▼名称:第32回漬物技術研究セミナー
 ▼日時:2月28日(水)9:30~16:45
 ▼会場:江東区森下文化センター(東京都江東区森下3‐12‐17)
 ▼内容
 ○講演(講演順は未定、敬称略)
 ・内田樹香(クレオサニテーション事業部)「洗浄と衛生管理について」
 ・小暮始(宝化成社長)「輸入原料の現状と課題について」
 ・農林水産省(担当官)「食料・農業・農村政策について‐食料・農業・農村基本法の見直し‐」
 ・宮尾茂雄(東京家政大学大学院客員教授)「つけもの‐その魅力と健康力‐」
 ○研究発表(発表順は未定、敬称略)
 ・東海漬物 宝田美月「調理野菜の水溶性ビタミン含量と〝漬ける〟の優位性」
 ・新進 澁川寛行「Escoevo情報一元管理システムを活用した防虫管理」
 ・遠藤食品 堀江裕介「システムによる生産効率向上~DXを見据えて~」
 ・新進 五十嵐学「レタスハウスでの塩類集積改善」
 ▼申込〆切り:令和6年2月23日(金)申込み100名超の時は〆切りとする。
 ▼申込方法:
 ①本協会に電話、FAX、E‐mailにてセミナー案内、申込書を請求。
 ②申込書に氏名、社名、電話、FAX、E‐mail、懇親会出欠の有無を記入して参加申込み。
 ③申込み後の参加費の確認次第、「参加証・会場案内」をFAX、メールで送信する。
 ▼参加費用:1人1万円(別途、懇親会費3500円)
 ▼振込先:みずほ銀行深川支店 普通預金=1098946 一般社団法人全国漬物検査協会
 ▼連絡先:一般社団法人全国漬物検査協会 03‐3643‐0461、FAX03‐3643‐0462、E‐mail(aaz13340@nyc.odn.ne.jp)
【2024(令和6)年2月1日第5152号1面】

<全国漬物検査協会> 2月28日に漬物技術研究セミナー

 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は、2月28日(9時30分~16時30分)に東京都江東区の森下文化センターにて、第32回全漬検漬物技術セミナーを開催する。
 研究は発表5~6題。漬物関係者による研究発表の募集を行っている(2月初旬まで)。
 講演は2~3題(予定)。「洗浄と衛生管理について」、「輸入原料の現状と課題(仮題)」、「食が変わる(食料、農業、農村基本法の見直し)(仮題)」。
【2024(令和6)年1月11日第5150号15面】
株式会社食料新聞社
〒111-0053
東京都台東区浅草橋5-9-4 MSビル2F

TEL.03-5835-4919(ショクイク)
FAX.03-5835-4921
・食料新聞の発行
・広報、宣伝サービス
・書籍の出版
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