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「梅」インタビュー2024

7月21日号 梅特集

中田食品株式会社 代表取締役社長 中田吉昭氏

史上最悪の凶作で3割作 秋冬向けから価格改定
 中田食品株式会社(和歌山県田辺市)の中田吉昭社長にインタビュー。今年の紀州梅の作柄や漬け込み状況、販売動向などについて話を聞いた。中田社長は今年の作柄について「史上最悪の凶作」と指摘し、価格改定が急務であると明言。価格改定は秋冬向けの棚割りから実施する予定で、販売数量の減少も想定。売場の確保については中国産でカバーする考えだ。国内外の原料不安や価格改定、梅干し離れといった課題を抱える中、全体のバランスを考えながら対応していく意向を示した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の作柄は。
 「史上最悪の凶作となってしまった。過去にも凶作と言われる年はあったが、ここまで悪い状況は初めての経験だ。私がこの業界に入る前の時のことも調べたが、昭和39年は平年比の50%、昭和44年は同49%だった。4年前の令和2年の時も数十年に一度の凶作と言われたが、今年は平年比3割作の見通しで、原料状況が一変する事態となった」
 ‐凶作の要因は。
 「農業試験場などの見解によると暖冬が一番大きな要因のようだ。暖冬の影響によって開花が早まり、めしべが発達しない不完全花が増加した。着果数は平年より大幅に少なかった。その後、3月20日に田辺市とみなべ町の広範囲に雹が降ったことで秀品率もかなり低下した。木に栄養が足りず、休眠期間も少なかったということだった。対策としては夏から秋にかけての施肥などが有効とのことで、毎年のように異常気象が続く中、しっかり対策していかなくてはならない」
 ‐梅の漬け込み状況について。
 「塩の出荷量は前年比44%の4680tだったが、出荷された塩が全部使われず、2割近く残していると思われるが、平年の塩の出荷量が1万tということを考えると、平年の4割以下ということになる。青果向けに出荷された量は例年より少なかったので全体でも3~4割作と見るのは妥当な線だ。漬け込まれた梅も雹による障害果が8割以上と品質も最悪の作柄だった」
 ‐今後の販売について。
 「誰も予想しなかった作柄となってしまったが、来年の夏まで今年の原料でつなげなければならないので価格改定は避けられない。途中で在庫が切れることがないように秋冬の棚割りに合わせて価格改定のアナウンスを行っている。具体的な価格提示はこれからだが、相場が出てからでは遅いのでスピード感を持って対応していきたいと思っている」
 ‐梅干し売場の変化について。
 「6月は多くの問屋やバイヤーに産地に来ていただき、現状を把握していただいているが、消費者が納得してくれるかは別の問題だ。紀州梅の数量は落ちると想定しているが、その代わりに中国梅の商品で棚を補充して売場を作っていきたいと考えている。過去に紀州梅が不作になった時は中国梅で売上を作っていた。今年の中国梅はやや不作となっているものの原料価格は大きく上がっていない。だが、紀州梅の動きを見て強気でオファーしてくる可能性もある。中国梅は原料価格が上がっていなくても円安の影響が大きいので本来ならば価格改定が必要だ。まずは紀州梅の価格改定を優先し、中国梅の価格改定も来年には要検討となるだろう」
 ‐夏の需要について。
 「今年の夏は昨年以上の猛暑になると予想されており、需要は増えると見ている。すでに6月から売れ始めており、暑くなれば売れ行きがもっと加速すると思っている。原料面で不安は残るが、売れるということは必要とされている、ということなので非常にありがたく思っている。ニーズにしっかり応えて商品を供給することは我々メーカーの使命だ。ただ、今年は特に秀品率が低くA級が少ないので、特選マークの商品は一時休売せざるを得ない商品が出てくると思っている」
 ‐昨年度の決算について。
 「昨年度の売上は93億円で増収となった。昨年は暑い夏だったこともあり、夏場に良く売れたことが大きかった。2018年にテレビ効果と猛暑が重なって梅干しブームが起こったが、全体的にはコロナの3年で少しずつ需要が落ちていった。それでも、昨年は猛暑と10月までの残暑の影響もあり、需要は下げ止まったという印象だ。だが、値上げが実施されれば梅干し離れにつながる恐れもある。今年は原料と売上のバランスを見ながら慎重に販売していく1年になる」
【2024(令和6)年7月21日第5168号2面】

中田食品

紀州みなべ梅干協同組合 理事長 殿畑雅敏氏

秋冬から価格改定待ったなし 今年は守りの1年に
 紀州みなべ梅干協同組合理事長の殿畑雅敏氏(株式会社トノハタ社長)にインタビュー。今年の作柄や在庫状況などについて話を聞いた。今年は過去に経験したことがない作柄となり、原料価格は高騰する見通し。早期の価格改定の必要性を訴え、来年の夏まで安定供給することが重要だと強調した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の作柄について。
 「今年は4割作。梅の塩漬けに使用される塩の出荷量は4680tで過去10年平均の1万600tの44%に留まっている。その中で出荷された塩がどれだけ使用されているか、3月の雹害によって傷が入り家庭用梅干し商品にならないものも多く、実際に梅干しとして使える量は30%程度だと見ている。2020年は7割作で数十年に一度の凶作と言われたが、今年はもっとひどい状況で経験したことがない作柄となった」
 ‐原料価格について。
 「量が少なく、青梅の価格が高騰したことを考えても原料価格は相当上がるだろう。秋冬からの価格改定は待ったなしで、ズルズルと年明け、来春と言っている余裕はない。このまま消費が進むと来年の夏に定番商品が売場からなくなる可能性もあり、値上げして出荷にブレーキをかける必要がある。売上も大事だが、秋以降はいかに来年の需要期に定番商品を供給できるかということが最も重要なことだ」
 ‐価格改定の課題は。
 「流通の方々には今年の状況を伝えているので理解をいただいているが、感触としては温度差がある。百聞は一見にしかずで産地視察に来ていただいた方は農家の話も聞くなど現状を把握しているので、ある程度の価格改定は仕方がないが安定供給をしてほしい、という声が多かった。我々は切羽詰まっている状況で、今のことだけではなく、これからのことについて真剣に伝えていかなければならない。来年の作柄が例年の倍以上にならない限り、この状況は落ち着かない。来年の新物まで原料がタイトになるので、各メーカーは新物の購入意欲が強く、スタートから高値で推移することが予想される。例年の倍の作柄というのは基本的にはあり得ないことで、落ち着くまでに少なくても2、3年は要するだろう」
 ‐梅干しの売れ行きは。
 「6月に入って売れ始めているが、夏本番の7月~9月は例年より暑くなると予想されており、出荷量は昨年以上に増えると見ている。秋冬の棚割りのタイミングで多くのメーカーが価格改定に動くと思うので、駆け込み需要も想定される。昨年まで良い作柄が3年続き、原料に余裕はあったことは事実だが、4、5年に1回か2回は不作の年があるので、原料があるからといって叩き売りのような商売をしていては農家の収入が減ることにもつながり、業界も産地も続いていかない」
 ‐梅干し売場について。
 「紀州産の供給に不安があるので、今年は中国産に活躍してもらい、売場の商品もシフトする流れになると思う。中国産の作柄も悪かったが、十分な量が漬け込まれているようだ。為替の影響が大きく価格は上昇傾向にある。当初、中国産の価格改定も秋冬からという空気だったが、紀州産の状況を受けて来春からという空気に変わってきた。いずれにしても今年は梅干しの売場をいかに維持するか、守りの1年になる」
【2024(令和6)年7月21日第5168号3面】

紀州みなべ梅干協同組合 https://wakayama.tsukemono-japan.org/list_minabe.html

若梅会 会長 濱田朝康氏

今年も音楽イベントでPR 新たな加工品生み出す
 株式会社濱田(濱田洋社長、和歌山県田辺市)の濱田朝康専務取締役にインタビュー。同氏は紀州田辺梅干協同組合(前田雅雄理事長)と紀州みなべ梅干協同組合(殿畑雅敏理事長)を合わせた青年部組織「若梅会」の会長を務めており、今年1月に2期目(1期2年)を迎えた。若梅会は6月6日の「梅の日」に東京や京都で梅干しの配布を行い、8月には昨年に続いて音楽イベントに出店予定。梅干しの需要開拓を目標に積極的なPR活動に加え、両組合で共通販売できる商品の開発も進めていくことを明言した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の梅の作柄は。
 「当社の農園は平年の約半分。産地の作柄としてはみなべの方が悪いようで、全体としては3割程度だと見ている。ここまで悪い作柄は初めての経験で、今年は特に秀品率が低い。当社はA級を扱っているので原料の確保は大きな問題だ」
 ‐対応策について。
 「今年の凶作は本当に良いことがない。農家は収穫が少ないので価格が上がっても絶対的な数量が少ないので収入は増えないし、メーカーも価格改定をすることは簡単ではなく、全体としてはダメージが大きい。従来より梅はそのまま食べることはせず、塩漬けやアルコールにつけて加工することを前提として作られてきた。このピンチの時に新たな加工品を生み出すことがメーカーとしての打開策につながると思っている。ピンチに臆することなく積極的に新しいことにチャレンジしたい」
 ‐6月6日の梅の日に若梅会もPR活動を行った。
 「今年は『梅の日』を盛り上げようと、紀州梅の会と一緒に京都中央郵便局、渋谷郵便局、新宿SL広場で梅干しの配布を実施した。また、トレンド入りを狙い、『梅の日』と『お中元には梅干しを』にハッシュタグを付けて一斉配信も行った。梅干しの配布はお中元の起源が梅を贈る、というものだったこともあり、『御中元』のラベルを貼った2個をセットにして1個は自分に、1個は大切な人に贈ってほしい、という願いを込めた。初めての試みだったが、これまでの3倍以上となる約3000セットを配布し、興味を持ってくれる人も多かった。また、期待していたトレンドも上がっていた」
 ‐今年の活動について。
 「今年も8月17日と18日に大阪で開催される音楽イベント『サマーソニック』に出店する予定。昨年はニュースでも取り上げられ、今年も参加したい、というメンバーが多かった。昨年はうどんの評判が良く、今年は昨年の内容をベースにしながらプラスしていきたいと考えている」
 ‐両組合で共通販売できる商品について。
 「2年越しになる案件だが、田辺とみなべの両組合から共通して販売できる商品開発について依頼を受けている。共通販売できる商品のメリットは大小の企業に関係なく、同じ価格で販売することができ、どの企業がPRしてもみんなに恩恵がある、ということ。みなべの組合と和歌山高専が以前に開発した梅酢ゼリー『梅アクティーボ』のリニューアルも含めて早急に対応していきたいと思っている」
【2024(令和6)年7月21日第5168号4面】

若梅会
https://wakaumekai.com/

紀州田辺梅干協同組合 理事長 前田雅雄氏

過去にない値上げ幅へ 安定供給が一番の課題
 紀州田辺梅干協同組合の理事長を務めている前田雅雄氏にインタビュー。今年の作柄状況などについて話を聞いた。今年は平年の3~4割作で過去に経験したことがない作柄となり、価格改定は待ったなしの状況だと訴えた。価格改定の上げ幅は過去にないものとなると指摘し、消費者の梅離れも懸念される中、来年まで原料をつなげて梅干し売場を維持するために価格改定は急務であることを強調した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の作柄状況は。
 「今年は青果向けにどれだけの量が出たのか正確な数量はまだ分からないのだが、例年よりも確実に少なかった。また、漬け込みされた量は出荷された塩の量からある程度計算できるのだが、今年は出荷された塩が全部使用されず、かなり残った、という話も聞く。これらの話を総合すると良くても平年の4割、悪いと3割といったところが妥当だと考えている。いずれにしても大凶作で過去にこのような作柄は経験したことがない」
 ‐産地在庫について。
 「昨年まで3年続けて良い作柄だったので、産地在庫としてはそれなりの量があると思っている。だが、近年は加工メーカーが梅を漬けるメーカー漬の量が増えるなど、見えない部分が多いので確実なことは言えない。これまで通り1次加工までを行う農家も収入を増やしたいので、昨年産の原料を抱えていても安値で出すことはなく、高騰することが予想される今年と同じ価格で売りたいという気持ちが強い。そのため、現在は原料が出回ることがなく、多くのメーカーが原料不安を抱えている」
 ‐今後の課題は。
 「過去に例がない収穫量を背景に原料相場が大幅に上昇することは確実で、製品の価格改定は避けられない状況となる。メーカーはヒネ在庫と新物で来年の秋までつないで売場を維持しなければならないので、秋冬の棚割りからの規格変更、価格改定を業界全体で進めざるを得ない状況だ。そうなると販売数量が落ち込み、売上も下がることになるが、原料不安を抱える状況では他に手段がない。価格改定を行って数量を落とさず、売上も確保する、という都合の良いことはできない」
 ‐価格改定の動きは。
 「原料の在庫状況は各社で異なると思うが、中小企業はそれほど多くの在庫を抱えず、秋冬から新物を使い始めて次の年までつなげる、という企業が多い。そのような意味では値上げは待ったなし。今年は特に秀品率が低いこともあり、すでにA級の商品を出せないところもある。今年の青梅の価格は昨年の2倍以上になっているので、本来ならば製品価格が2倍になってもおかしくはないのだが、それは現実的ではない。それでも原料価格が高騰することは確実な状況なので、価格の上げ幅は過去にないものとなるだろう。価格だけ上げるやり方だと割高感が出過ぎてしまうので、量目を下げて価格を上げるやり方が多くなってくると見ている。消費者の梅離れも懸念されるが、メーカーによっては出荷調整を余儀なくされる可能性もあり、安定供給が一番の課題になる」
【2024(令和6)年7月21日第5168号5面】

紀州田辺梅干協同組合 https://kishu-tanabe-umeboshikumiai.com/
紀州うめまさ http://www.umemasa.co.jp/

山梨県漬物協同組合 理事長 長谷川正一郎氏

業務用4年連続値上げへ 甲州小梅が安くなることはない
 小梅の生産量日本一を誇る山梨県。特産品ブランドとして著名な〝甲州小梅〟の作柄や原料状況、販売動向などについて、山梨県漬物協同組合理事長の長谷川正一郎氏に話を聞いた。当初は8割作程度と見られていたが、暖冬の影響などもあり6割作に留まった。原料在庫は新物を含めても年間を通じて安定供給できる状況ではなく、業務用、市販用ともに価格改定が実施される見通し。産地には多くの課題があり、甲州小梅の価格が安くなることはない、と明言した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の甲州小梅の作柄と在庫状況は。
 「春頃は8割作と予想されていたが、カリカリ用は半作、小梅干し用は7割作で全体的には6割作程度に留まった。暖冬の影響で開花が早く、開花期は3週間だった。開花が早いとめしべが育っていないことが多く、ミツバチの活動時期ともずれてしまうので開花期は長かったものの授粉が進まなかった。山梨の東部は木から梅を落とす専門の業者がいるのだが、成りが悪いと人件費の方が高くついてしまうため、収穫に入らず、放棄された畑も多かった。不作の年はさらに収穫量や漬け込み量が減る流れになっている。各企業の漬け込み量は、前年からの繰り越し在庫と新物を合わせても7~8割程度。サイズはSサイズが少なく、Lサイズが中心。昨年と同じ量を販売していたら来年の新物までつながらない可能性もある」
 ‐対応策は。
 「仮に来年の作柄が大豊作になったとしても余裕を持って1年間販売できる量にはならない。その中でもSサイズが極端に少ないため、Sサイズは終売にしてLサイズを業務用として販売することを考えている。ただ、購入する側は価格が上がって粒数が減る、ということになり、扱いにくく小梅離れがより一層強まることを懸念している。今年も業務用の価格改定を実施すれば4年連続となり、ユーザーがさらに離れていく可能性もあるが、我々が得意先に伝えたいことは、価格は上がるがそれでも甲州小梅の価値やブランドを認め、必要であれば使用していただきたい、ということ。様々なコストが上がっていることに加え、消費者も生活費が上昇して節約志向が高まる中、使い切れない、という判断が出てくるのは致し方がないこと。ただ、農家の高齢化や人手不足など産地には多くの課題があるため、甲州小梅は今後、安くなることはない、ということも伝えたい。原料を来年の新物までつなぐために価格を上げる流れになるだろう。ここ数年を見ると、各社の市販用の値上げのタイミングはバラバラだったが、今年は全体的に実施されると見ている」
 ‐生産と市場の維持について。
 「生産者の収入面を考えても小梅の生産を増やすことは非常に難しいのだが、昨年は木を110本植えてくれた人がいた。当社は昨年からJAと連携し、JAを通して苗を購入すれば当社が半額補助する取組をスタートした。それまでは新たに木が植えられるのは年に2、3本程度だったのだが、昨年は100本以上増えた。自然減も含めれば毎年数%ずつ生産量が落ちており、このままでは小梅市場を維持することができなくなる。減っていく流れを止めることはできないので、増やす努力というよりも減らさない努力を継続していくことが重要だと考えている。このような努力を続けながら今の商売を少しでも長く続けていきたいと思っている」
【2024(令和6)年7月21日第5168号6面】

山梨県漬物協同組合
長谷川醸造株式会社

3月21日号 梅特集

中田食品株式会社 代表取締役社長 中田吉昭氏

若い世代にアプローチ
産地ブランドを守る
中田食品株式会社(和歌山県田辺市)の中田吉昭社長にインタビュー。今年の梅の開花状況や梅干しの売れ行きなどについて話を聞いた。業界の課題でもある若い世代へのアプローチとしてSNSの活用やキッチンカーのイベント出店など、新しい需要を開拓するための取組を推進して梅の魅力を広く発信していく方針を示した。(千葉友寛)
◇   ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「開花は10日か2週間くらい早かった。花が早く咲くと養分が花に届かず結実が良くない、と言われており、開花が早い年は不作になる年が多い。これからの天候にもよるが、作柄の見通しはあまり良くない」
 ‐梅干しの売れ行きは。
 「全体で見ると、10月までは前年と比べても良かったが、年末と年明けは少し落ちている。当社の12月と1月の数字は103%と好調で、紀州梅の定番商品が安定した動きを見せている。価格訴求型の商品も出てきており、競争は厳しくなっている。色々なものの価格が上がっている中で一番削られやすいのが食費。その中でも梅干しは単価が高いので手に取ってもらう数が減ってしまう可能性がある。そのような中でも当社の商品が支持されていることには大変ありがたく思っている」
 ‐需要の開拓について。
 「当社では若い人に日々の食事の中で取り入れてもらうための提案をSNSを活用して行っている。そのまま食べるだけではなく、料理素材や味のアクセントなどとして利用してもらえれば需要が増えると考えている。梅味が好きだという若い女性も多いので、まだまだ伸び代はあると思っている。2月に初めて開催されたおにぎりサミットでは、当社もバレンタインに梅を使用した『バレンタインおにぎり』を提案した。おにぎりは誰でも作れるし、大切な人との縁を結ぶ御結びにもなる。今後もおにぎり協会と協力して梅の魅力を発信していきたいと考えている」
 ‐昨年8月に組合の青年部組織である若梅会が音楽イベントに出店して梅をPRした。
 「今年もサマーソニックに出店する予定だと聞いている。若い人が集まるイベントなので紀州梅干し普及の良い機会になると思う。当社としてもイベント等にキッチンカーを出して梅干しをPRしたいと考えている。カレーやうどんのトッピングの他、梅を素材にしたケーキやスイーツのソースなど、食べ方提案を行って裾野を広げたいと思っている。イメージとしては梅の宣伝カーで、現在は当社社員を対象に考案したレシピの試食やオペレーションのテストを行っている。このような取組を通じて少しでも梅が普及してくれれば嬉しい」
 ‐間近に迫った物流問題について。
 「早めに出荷を行うなど、計画的な発送が求められる。運べる量や時間の制限がある中で、計画生産、計画出荷を行うため、迅速に対応しなければならない。お客様のニーズを早くとらえて、必要とされるところにそのタイミングで届けられるように準備しておくことが重要だ」
 ‐6月から漬物製造業が許可制になる。
 「梅干し業界にも影響があると思っている。梅干しも農家の方が商品をパックに詰めて販売しているケースがあるが、基準を満たした衛生的な施設や設備で漬物を製造しなければならなくなるため、製造許可が下りない事業者も出てくると見ている。そうなると、道の駅や直売所などで販売されている商品がなくなる可能性もある。産地ブランドを守るという意味でも、食品安全は食品メーカーが守らなければならない一番の責務。組合加盟企業はすでに大半の企業が製造許可を取っているが、その時代その時代で要求されるものに対応できなければ事業を継続することができない。我々としては法令を遵守し、お客様に満足していただける商品を提供し続けていくことが大きな課題だ」
【2024(令和6)年3月21日第5157号2面】

中田食品

紀州みなべ梅干協同組合 理事長 殿畑雅敏氏

組合のメリットは情報提供
産地一体で市場拡大へ
紀州みなべ梅干協同組合殿畑雅敏理事長(株式会社トノハタ社長)にインタビュー。梅干しの売れ行きや産地の在庫状況などについて話を聞いた。6月に漬物製造業の許可制度が完全施行となるが、組合に加盟していれば情報が提供されて準備することができると加盟のメリットを強調。また、全ての問題を解決する有効な手段として市場拡大を掲げ、将来に向けた取組を行っていることを明かした。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「3週間くらい早い。昨年は6月の台風で梅が落とされて漬け込み量は平年並みだったが、作柄としては豊作傾向だった。開花が早い年は気温が上がらず、交配も進まないので実がつかない。3月下旬から4月上旬にかけて着果状況を見ないと分からないが、今年の作柄は良くないとの見方が多い。ただ、不作になるにしても、どこまでの不作になるかはこれからの天候次第。5年前は半作に近い凶作となった。それが1割減、2割減で収まるのか、現時点では分からない」
 ‐梅干しの売れ行きは。
 「昨夏は猛暑で残暑も長かったので売れ行きは堅調だった。秋以降も大幅には落ちていない。中国梅も比較的堅調に動いた。コロナの3年で需要が増えたものや逆に減ったものもあるが、梅干しにおいては変化がなかった。梅干しの需要は急に拡大したり、縮小したりするものではなく、安定した市場だと言える」
 ‐漬物製造業の製造許可制度が完全施行となる。
 「組合に加盟している企業は組合を通じて事前に告知されているので、すでに準備している。組合に入っているメリットの一つとして、法律や衛生規範などが変わる時、行政や関係団体から情報が提供され、会議等で集まった際にレクチャーしていただける、ということがある。事前に情報が入れば理解を深めることもできるが、組合に加盟していない事業者は情報が入ってこない。保健所も人手不足なので全ての事業者をフォローすることは難しいだろう。組合に入っているのと入っていないのとでは大きな差がある」
 ‐物流問題や原料の確保など多くの課題がある。
 「農家の生産意欲を維持するためにも原料価格を安定させる必要がある。その他、様々な課題があるが、それらの課題を解決する最も有効な手段は市場を拡大させること。一社の力で市場を拡大させることは困難だが、団体や業界が力を合わせれば大きな力になる。和歌山にはみなべと田辺でそれぞれ梅干組合があり、それに行政、JA、生産者も加われば一体となって市場拡大という大きな目標にチャレンジすることができる。梅干しの場合、輸出は難しいので目指すのは国内市場。梅干しは日本人の生活に広く浸透しているが、まだまだ食べていない人も多い。特にこれからの需要者となる若い人へのアプローチが重要なのだが、明確な購買動機がないと中々購入にはつながらない。梅干しは体に良さそう、というイメージがあるのは良いことだが、自分の体や健康を意識する年齢の方でないと健康機能性を訴求しても効果が弱い。我々は薬事法の関係で健康機能性をPRすることが難しいのだが、薬事法に抵触せずその認知を広める活動を考える必要がある。和歌山県漬物組合連合会では毎年、小学生を対象に『梅干しで元気!!キャンペーン』を実施し、食育活動を行っている。子供の時に梅干しを食べたり歴史を学ぶ機会を作ることで、20年後、30年後にお客様になる可能性が出てくる。地道な活動ながら今後も産地を上げて取り組んでいく」
【2024(令和6)年3月21日第5157号3面】

紀州みなべ梅干協同組合 https://wakayama.tsukemono-japan.org/list_minabe.html

紀州田辺梅干協同組合 理事長 前田雅雄氏

「一日一粒」テーマに
販売面で生産者の不安払しょくへ
紀州田辺梅干協同組合の前田雅雄理事長にインタビュー。今年の梅の開花状況や販売動向などについて話を聞いた。紀州では昨年まで3年続けて良い作柄が続いており、原料面は安定している。その一方で農家は原料価格などに不安を抱えており、生産意欲を維持するためにもメーカーが販売を強化していくことが重要と強調。今後も「一日一粒」をテーマに活動していく方針を示した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「今年は開花が例年より10日くらい早かったのだが、その後は寒い日が続いて受粉が進まなかった。梅林によっては開花期がずれて予定より早く梅まつりが終わったところもある。紀州では開花が早い年は不作になると言われており、作柄においては不安要素が多くある」
 ‐梅干しの販売状況は。
 「年々減少している印象だ。特に若い人の梅離れ、漬物離れは強く感じている。私は一日一粒をテーマに取り組んできたが、これからもその方針を継続し、青年部組織である若梅会と協力しながら若い人に食べてもらったり、梅のことを知っていただく機会を作っていきたいと考えている」
 ‐産地在庫は。
 「メーカーが抱えている原料と農家が抱えている原料があり、昨年まで3年連続で平年作以上の作柄だったことや昨今の売れ行きなどを見ても、それなりの在庫が残っていると見ている。農家が漬けている原料は大粒で等級の良いもので、メーカーが漬けているのは小粒傾向で普及品の原料。サイズや等級によっても異なるが、全体的にタイトになっている状況ではない。昨年の収穫が終わった時に農家の方から、今年も引き続き梅を買ってくれるのか、と質問された。これまで購入していた業者が買い切れなかったケースもあるようだ。農家も収入や将来のことについて不安を持っている。我々としては農家の方が安心して梅を生産できるようにしっかりと販売につなげて良い循環を作っていくことが重要だ」
 ‐梅干しの需要は。
 「日本は人口が減少し、少子高齢化も進む。年を取ったら自然に食べるというものでもなく、若い時から食べる習慣を作ることが将来の需要につながるため、情報を発信するだけではなく、実際に食べる機会を作ることが重要だ。昨年8月に若梅会が音楽イベントに出店して梅のPRを行い、多くの関心を集めた。今年も出店を予定しているので期待している。また、田辺市では梅酒で乾杯条例を制定して10年が経った。今後も海外を含めて幅広い活動を行っていく方針で、我々も協力して盛り上げたいと思っている」
 ‐今後の見通し。
 「コロナが明けて不調だった業務用や土産関係が戻りつつある。昨夏は記録的な猛暑で残暑も長く販売面においては好機となったが、期待していたほどの売れ行きにはならなかった。長期予報では今年の夏も暑くなるとのことで、梅は塩分補給や熱中症対策として浸透しているイメージを追い風にできればと思っている。梅を毎日食べ続けていただければ市場の土台が大きくなり、将来の需要開拓にもつながる。生産者、加工業者、行政が協力して地道ながらもPR活動を推進しつつ、安定した産地作りと梅の更なる普及に向けて尽力していきたい」
【2024(令和6)年3月21日第5157号4面】

紀州田辺梅干協同組合 https://kishu-tanabe-umeboshikumiai.com/
紀州うめまさ http://www.umemasa.co.jp/

若梅会 会長 濱田朝康氏

「梅と広報」など3つのテーマ
共通販売できる商品を開発
株式会社濱田(濱田洋社長、和歌山県田辺市)の濱田朝康専務取締役にインタビュー。同氏は紀州田辺梅干協同組合(前田雅雄理事長)と紀州みなべ梅干協同組合(殿畑雅敏理事長)を合わせた青年部組織「若梅会」の会長を務めており、今年1月に2期目(1期2年)を迎えた。今期も引き続き「梅と食」、「梅とスポーツ」、「梅と広報」をテーマに、それぞれのグループに分けて活動を行う。2025年大阪・関西万博も視野に入れながら梅の魅力を広く発信する方針だ。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年1月に2期目のスタートを切った。
 「1期目は、梅の情報を発信するプラットフォームの構築とイベントへの参加及び実施に注力した。昨年は8月に大阪で開催された音楽イベント『サマーソニック』に出店して梅を使ったうどんやおにぎりを販売して盛況となった。今年もサマーソニックに出店する予定で、若い人にアプローチする。予算面についても紀州梅の会からサポートしていただけることになった。今期も新しい3人の副会長が今期の活動のテーマとして掲げた『梅と食』、『梅とスポーツ』、『梅と広報』の3グループのリーダーとして、それぞれの活動を行う。また、2年後に迫った大阪・関西万博に出展する和歌山県ブースでも何か関われないかという話もあるので、引き続き梅のPRに力を入れていく」
 ‐ニーズが多様化している。
 「若い世代もイベントや特別感のある売場では価格を気にせず購入してくれる。ライトユーザー向けに入りやすい価格帯の商品も必要だが、シーンによっては高付加価値商品も支持される。そのような意味では、業界は消費者のニーズを探れていない部分があると思う。大事なことは消費者の声を聞きながら対応していくことだと思っている」
 ‐具体的な取組について。
 「みなべと田辺の梅干組合から、加盟している全組合企業が共通して販売できる商品の開発を依頼されている。たくさん開発をして数を打つのではなく、年代、価格帯、どのような売場で販売するかなど、ターゲットを定めることが重要。そこから新しい需要を開拓していきたいと考えている。以前に紀州みなべ梅干協同組合と和歌山高専が梅酢ゼリー『梅アクティーボ』を共同開発したのだが、商品のポテンシャルの割にはあまり売れていないように感じている。開発までは良かったが、商品のブランディング、広報が不足している。過去、梅業界は広報しなくても注文が入ってくる良い時代があった。その良かった時代の受け身の姿勢がまだどこか残っている気がしている。個人的には良い商品だと思っているので、マーケティングをしっかり行ってこちらから仕掛けていくなど、『梅アクティーボ』を売るチャレンジをしたい。それが若梅会会員のマーケティングの勉強になればと思っている。共同商品のPRがうまくいけば会社の規模に関係なくその商品を扱う全ての会社にメリットが出てくる。スポーツの大会やイベントなどで提供するなど、テーマの一つである『梅とスポーツ』の活動で取り組んでいきたい」
 ‐梅と広報について。
 「間もなくホームページができる。今行っているSNSなども連携し、広く梅の情報を発信していく。また、以前に農家の方が梅を生産する様子がテレビで放映されて大きな反響があった。私たちも梅干しができるまでの様子を動画で見られるようにして、関心を持っていただくためのツールにしたいと考えている」
【2024(令和6)年3月21日第5157号4面】

濱田
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