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塩 インタビュー2024

9月21日号 <クローズアップインタビュー>

一般社団法人日本塩協会 代表理事副会長 西田直裕氏

“塩の価値”改めて訴求 「国産塩」安定供給へ4社連携
 イオン交換膜製塩4社(日本海水、ダイヤソルト、ナイカイ塩業、鳴門塩業)は4月1日、一般社団法人日本塩協会(野田毅代表理事会長)を設立した。同協会代表理事副会長には国内塩最大手企業である日本海水代表取締役社長の西田直裕氏が就任。カーボンニュートラルへの対応や国産塩のPRといった協会の活動テーマに沿って、取組をスタートしている。西田副会長は、近年ウクライナ侵攻などにより地政学リスクが高まる中、食料安全保障の観点からも、会員4社が連携することで、国産塩の安定供給に取り組んでいく必要性を強調した。(藤井大碁)
-協会設立の経緯。
 「ロシアによるウクライナ侵攻などにより地政学リスクが急激に高まる中、国産塩の安定供給のため、イオン交換膜製塩4社が連携し、活動していくことが必要ということで各社の認識が一致した。エネルギー価格上昇の他、物流2024年問題、SDGsへの対応など、業界には様々な課題がある。我々メーカー4社はコンペティターではあるが、協力できるところは協力して、古くから続く国産塩を守り抜いていかないといけない。そのために、国産塩の重要性を国民の皆様に正しくご理解頂くと共に、時代が求める様々なニーズに対応するため、会員4社でスクラムを組んでやっていく」
-国産塩の重要性。
 「国内で消費される塩は、国産塩と輸入塩に分けることができるが、地政学的なリスクが高まる中、有事になった際に、輸入塩が国内に入ってこなくなる可能性がある。そうした場合に、国産塩がなければ、どのようなことになるか。パンやマヨネーズ、醤油など様々な食品のベースは塩だ。塩の供給が滞ることは、食料の供給が滞ることに等しい。国産塩がなければ、食料安全保障の観点からも危機的状況になることをご理解頂きたい。私自身、ウクライナ侵攻などの海外情勢を見て、日本が巻き込まれた時のことを考えると恐ろしくなった。足元では米不足により、一部で買いだめなどの混乱が起きているが、塩がなくなったらどのようなことが起こるか想像して頂きたい。そのようなことにならないよう、4社で連携し安定供給に努めていく」
-国産塩の特長。 
 「国産塩は、不純物が全く入っておらず、“世界一安全安心な塩”。昔は工業製品というイメージを持つ人もいたが、最も純粋な塩を生産しているのは、我々会員メーカーである。また生産地と消費地が近く、地産地消であることも大きな特長だ。会員4社が国内に5工場を有しており、地元の雇用を多く創出している。その他、塩を製造する時に出る苦汁(にがり)も様々な産業で使用されている」
-協会の活動内容について。
 「主な活動内容は、カーボンニュートラルを始めとする塩業界に係る諸課題への対応と国産塩の安全性や優位性、必要性についての広報活動の2点だ。それぞれ、カーボンニュートラル分科会と国産塩分科会を立ち上げ、今後の活動内容について協議している。カーボンニュートラルへの対応は、多額の設備投資が必要なため、誤った判断を下せば取返しのつかないことになる。間違った方向に進まないよう、会員間で正しい情報を共有し、2030年目標に向け取り組んでいく。また国産塩分科会では、国産塩の特長や重要性をどのように国民の皆様にお伝えするべきか、知恵を出し合って、その方法やタイミングを考えていく。協会ホームページもリニューアルする予定だ」
-その他の活動。
 「製塩に関する必要な情報の収集や共有、分析の他、関係省庁に対して様々な陳情要請も行っていく。また、塩は身体にとって必要なものであることを訴求し、塩全体の消費拡大につながるよう取り組んでいく」
-他団体との連携。
 「日本塩協会の立ち上げを機に、会合などで他団体の会員と会う機会が増え、団体間の対話が進んでいることも業界発展にとっては意義あることだ。塩業界には様々な団体があるので、しっかりと連携を図っていく。輸入塩各社もコンペティターではあるが、物流面などで協力できることがあれば、積極的に協力していきたい。厳しい環境が続く中、塩業界全体で一丸となり、継続的に様々な対策を打ち出していかなければならない時期にきている」
-塩の価値。
 「前述したように、塩の重要性を改めて訴求していくことが、価値向上につながると考えている。サラリーマンの給与を指す“サラリー”の語源は、もともと“ソルト(塩)”からきている。ギリシャ時代に労働の対価として、塩をもらっていたことがその由来とされている。当時はそれぐらい、塩が貴重で価値のあるものだった。日本国内においても、『敵に塩を送る』という言葉があるように、歴史的に、塩の価値はとても大きなものだった。改めて原点に立ち返り、そうした価値を発信していきたい」
-日本海水では様々な面でSDGsを推進している。
 「赤穂工場では2015年にバイオマス発電を開始し、石炭からバイオマスに燃料を切り替えた。讃岐工場は現在、石炭を使用しているが、2029年頃までにはバイオマスに転換し、カーボンニュートラル2030年目標に対応できるよう取り組んでいる。またバイオマス原料を使用した製品パッケージの採用、物流効率化などを実施しSDGsへの対応を進めている」
-新商品の導入も進んでいる。
 「塩だけでなく、塩に関連する領域で事業を拡大していきたいと考えている。最近では、若手社員のアイデアから生まれたふりかけの新商品“まぜこみチュモッパ”が好調だ。若手の意見も積極的に取り入れ、時代のニーズに対応していきたい」
【2024(令和6)年9月21日第5174号2面】

日本塩協会

7月21日号 塩特集 インタビュー

株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏

塩の価値最大限に高める “クラフトソルト”外食へ提案
 株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」や「天海の塩」の食用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩作り”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。
(藤井大碁)
◇    ◇
‐現況は。
 「5月、6月は和歌山を始めとした各産地で梅が不作、凶作となった影響を受け、塩の売上が減少した。生梅の数量が少ないことに加え、価格が上昇したため、毎年この季節に必ず梅干しを漬けている人でも、今年は漬けられない人も多かったようだ。近年、異常気象や自然災害が続いており、来年以降も梅の作柄がどうなるかは分からない。そうしたリスクに備え、新しい売上を作れるよう新規事業に取り組んでいかなければならない」
‐新たな取組。
 「将来的に人口減少が進む中、塩業界は価格訴求から価値訴求へ転換していくことが求められている。そのためには塩の付加価値を最大限高めていかなければならない。弊社ではその取組の一環として、“クラフトソルト”の提案をホテルや外食産業向けにスタートしている。クラフトソルトは、赤穂の海水を使用し、天日で結晶させた国産天日結晶塩。高くてもこだわりの塩を使いたいという料理人やシェフのニーズがある。赤穂化成が販売するサツキマスや油揚げといったこだわりの食材と共に売り込むことで、塩によって料理の味わいが大きく変わることを体験してもらっている。ベースの塩を弊社から提供し、店舗内で、抹茶や梅、ワインなど様々な食材とブレンドすることで個性豊かなアレンジ塩を作ってもらうことも可能だ。一流料理人やシェフの創作意欲をかきたてるようなこだわりの塩を提供し、塩の価値を高めていきたい」
‐塩飴の動き。
 「7月になって高温が続き、塩飴の動きが活発化している。今までは梅雨が明けなければ夏にならず、夏にならなければ熱中症対策アイテムが動かないという認識が一般的であった。だが近年は、梅雨が明けないうちに気温が上がり始め、湿度も高いため熱中症リスクが上昇する“梅雨型熱中症”と呼ばれる症状へ注意する必要が出てきた。こうした気候の変化にも柔軟に対応していかなければならない。昨年も10月頃まで残暑が続いたので、猛暑が予想される今年も販促を長期的に強化していく」
‐塩作り教室や味噌作り教室などを積極的に開催している。
 「塩の魅力を伝えるためには体験を通して知ってもらうことが大切だ。塩を使って簡単手軽に美味しい料理が出来上がることを小さい頃から体験してもらう。また手軽に作ることができるメニュー提案にも力を入れていく。今年5月には、『東京新聞』に全面カラー広告を出稿し、手軽に漬けられる梅干しのレシピを紹介した。出稿を通して、読者の意見を知る貴重な機会にもなった」
‐塩輸出の可能性。
 「日本の塩をそのまま海外に持って行くのではなく、パッケージを海外向けにアレンジし、海外の人にダイレクトに価値訴求していくことが必要。日本で唯一、塩の歴史をテーマに日本遺産に認定されている赤穂が世界的に有名になれば、フランスのゲランドのようなブランド化が図れるのではないかと考えている」
‐今後に向けて。
 「2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。現在は、それに向けて、様々な方に赤穂に来てもらい、赤穂化成の工場や天日塩製造施設『天のハウス』などを見てもらいながら、“赤穂の塩作り”の啓蒙活動に力を入れている。人口減少が進む中、これまでと同じことをしていても塩の消費量は減退していくだけだ。塩の価値を伝える新たな取組を通して需要拡大を図っていく」
【2024(令和6)年7月21日第5168号10面】

天塩
https://www.amashio.co.jp/

ダイヤソルト株式会社 代表取締役社長 熊野直敏氏

CO2削減試験を実施 「戦略物資」としての素材活用
 ダイヤソルト株式会社(福岡市博多区)は、三菱鉱業株式会社(現‥三菱マテリアル株式会社)における多角経営の一環として設立。製造拠点である崎戸工場は、長崎県西海市崎戸町にあり、周囲を五島灘の海に囲まれた自然豊かなこの地から、海の恵みである「塩」を最高の品質で、安定的に供給することを使命と捉えている。昨年3月より三菱マテリアルグループを離れ、新株主であるIAパートナーズのもとで事業をスタートさせた同社代表取締役の熊野直敏氏に、同社の現状と課題、将来への取組などについて、話を聞いた。(菰田隆行)
◇   ◇
‐カーボンニュートラルの取組について。
 「政府が掲げている、温室効果ガスの排出を2030年までに46%削減し、2050年までにゼロとする目標は、企業として達成する責任がある。塩を製造するメーカーである当社としてはCO2の削減にかかる設備投資、製造コスト面での課題を軸に、必要なエネルギーを現在の石炭燃料から、どのような形に転換していくかを検討中だ。一昨年、崎戸町に『ダイヤソルト研究所』を開設し、試験を重ねながらさらに深掘りしている。2030年までの取組としては現在使用している石炭に輸入バイオマス素材のウッドチップ(ヤシ殻)を混焼することで、CO2を削減する計画である(現在使用している石炭ボイラーは三菱重工社製の流動床ボイラーで、石炭以外の燃料でも対応が可能)。8月にウッドチップのサンプルを導入し、実際の試験は10月から来年1月をメドに行っていく。毎年2月に機械の定期点検を実施しているので、その際にボイラーにかかるダメージの程度を検証することになっている。なお、2050年の100%についてはCO2削減と事業継続が両立できる最適解を追求していくこととしている」
‐ウッドチップを導入した際の製造コストは。
 「ボリュームで変わってくるので現時点での正確な算出はできないが、10%程度の原価アップがあるのではないかと見込んでいる。将来的には当然、製品価格への転嫁が必要となってくるだろうが、カーボンニュートラルへの取組として評価していただければと考えている」
‐長崎県崎戸町に工場を建設した経緯。
 「当時の三菱鉱業が、現在は軍艦島の名で呼ばれる端島など、長崎県内の離島で石炭を掘る炭鉱事業を行っていたが、石炭を掘るために離島には多くの炭鉱夫とその家族が生活しており、飲料水等の生活水が不可欠であった。そのため、海水を石炭で沸かして出来る蒸留水をこれに利用していたが、その際にできる副産物(塩)を専売公社へ販売していた。その後、石炭産業の斜陽化により、当社の前進である崎戸製塩を1955年(昭和30年)に設立。飲料水製造の副産物であった塩の製造をメーンとし、人間の生活に必要不可欠である塩の供給とともに、住民の雇用維持など地域貢献の意味合いも持たせながら、事業を継続してきた」
‐九州を拠点とする利点。
 「塩は『戦略物資』だと捉えている。日本はもともと地震大国でもあり、製造がストップするほどの地震が、いつ、どこで起こるか分からない。また、近年の異常気象により災害も全国各地で多発している。塩は人間が生きていく上での必須元素であるので、一時も絶やすわけにはいかない。万一、どこかの工場がストップしたとしても、その他の製造拠点でカバーし合うことで、国民及び食品加工メーカー等へ安定供給することが塩業界の使命であり、日本塩協会加盟の4社の製造拠点が点在していることはBCPの側面から大変重要である。一方、地政学的なリスクという点では、ロシア・ウクライナ紛争の影響で世界的に物流が停滞し、輸入天日塩の供給が滞った時期もあった。日本は国産塩も輸入塩も絶やすことはできないので、互いにカバーし合うことがBCPの観点から大変重要である。そして唯一九州に製造拠点のある当社の役割も大変大きいと考えている」
‐化成品製造技術を活かした取組について。
 「当社は、製塩工程の副産物である『にがり』(塩化マグネシウム)や『塩化カリウム』の高純度化については、前述の通り得意分野と自負している。減塩食材として使用されている塩化カリウムは純度が高くないと無理で、食品添加物用で使用できるのは当社製だけとの評価を頂いている。日本の周囲に無限の資源として存在する海水を利用した新たな事業及び、現状の技術において、特に高純度化技術を生かした製品開発を進めている。今年度、研究所において化成品を主体に10の研究開発テーマに取り組んでおり、更に事業を成長させていきたい」
【2024(令和6)年7月21日第5168号11面】

ダイヤソルト
https://diasalt.co.jp/

ナイカイ塩業株式会社 代表取締役社長 野﨑泰彦氏

裏付けある安全性訴求 海外・他業種の炭酸ガス削減策研究
 ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は1829年創業、195年もの歴史を誇る国内製塩大手であり年間18万トンの生産能力を有している。グループ企業の日本家庭用塩株式会社は味の素グループの「瀬戸のほんじおⓇ」や局方塩の製造元としても著名だ。野﨑社長は塩の需要がゆるやかに減少する中、製造からその後顧客サポートまで徹底した安全安心を追求していること、またカーボンニュートラルや文化保護活動による企業価値向上により生き残りを目指していると話す。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
-直近の業績は。
 「2022年度は塩水を蒸発させる工程で使う燃料の高騰で、数十年来初めて赤字転落してしまった。しかし二度の値上げを実施したことで、23年度は増収となり黒字復帰できた。ただし量で見ると、塩の出荷量は3%減っている。減塩化や、エコの観点では良いことだが食品ロスの削減の動きが強まり塩の需要は下がり続けている。その中でいかに売上・利益を上げていくか、厳しい状況は続いている」
-食品メーカーのコスト削減が進んでいるが。
 「塩は味付けだけでなく保存性や食感にも寄与する重要なもので無闇にカットできるものではない。また他社も値上げしているため、大きな影響は出ていないのが現状。とはいえ、これを機に仕入先の見直しを図る企業もあると思う。当社は徹底的に安全安心を追求してきたことで195年にわたって信頼をいただいてきた。その強みを改めて周知していきたい」
-安全安心への取組。
 「一つは製品品質としての安全性。塩は腐ることはなくとも、汚染物質や異物の混入等のリスクは存在する。日本塩協会では、イオン交換膜を通して製塩する日本の塩は『世界一安全安心な塩』を標榜しているが、当社はその中でも設備刷新や管理レベル向上を常に追求してきた。これまでに品質マネジメントシステムのISO9001、環境マネジメントシステムのISO14001、さらに一昨年には食品安全マネジメントシステムのFSSC22000認証を取得し、客観的裏付けのある安全を追求している。『瀬戸のほんじおⓇ』や局方塩の製造をしていることも信頼に繋がっている。もう一つは供給面での安全性。国際情勢が不安定化している昨今、国内製塩の重要性は増している。万が一のトラブルにも迅速に対応できるのも国内だからこそだ」
-カーボンニュートラル化にも取り組んでいる。
 「他分野や海外事例にも視野を拡げて模索している。例えば、火力発電で膨大な量の燃料を扱っている電力会社の取組を見学している。またインドネシアで実稼働された膜濃縮の高効率な新技術にも注目しているが、塩を扱うとなれば劣化は必ず起きるので、長期的な目線での観察が必要だ。最近の設備更新では加熱缶の入れ替えや造水設備の導入を行い、いずれも数億円規模となった。カーボンニュートラルの実現は、それを遥かに上回る規模の投資となるので慎重にならざるを得ない。この他、海水中のマグネシウムや、発生した炭酸ガスを有効利用する化成品の開発など、炭酸ガス発生を抑える以外のアプローチにも取り組んでいる」
-文化維持活動にも取り組む。
 「当社は今年で創業195年を迎えたが、これは瀬戸内海の美しい自然と、地域の人々の支えあってこその会社であり、社会貢献は重要だと考えている。国指定重要文化財である塩業歴史館(旧野﨑家住宅)の公開や工場見学の受入れなど、塩や地域の歴史と文化伝承に力を注いでいる。文化を未来に残すためには保護だけではなく、現代に合わせて活用していくことが必要だ。このように塩づくりの仕事や文化を伝えることは、当社が大切にしている誠実な姿勢を伝えることでもあり、働く人の誇りにもなる。国産塩の供給と、江戸時代以来の文化財の保存と活用をともに変わらず続けていきたい」
【2024(令和6)年7月21日第5168号12面】

ナイカイ塩業
https://www.naikai.co.jp/

3月21日号 塩特集

株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏

塩の価値未来へ繋ぐ
「赤穂の塩作り」400年でPR

 株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり”差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、昨年7月11日に創業50周年を迎えた。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩作り”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。(藤井大碁)
-足元の状況。
 「値上げの影響もあり塩の動きは良くない。物価が上昇する中、消費者の節約志向は高まっており、価格に対してこれまで以上にシビアになっている。塩だけではないが、余計な物は買わないという消費行動が浸透している。6月には梅の漬け込みも控えているので、今後の動きが活発化していくことを期待したい」
-求められる塩製品の変化。
 「世帯人数の減少や共働き世帯の増加など近年の社会環境の変化によって、少量で使い勝手の良い塩のニーズが高まっている。1キロサイズは減少し、300グラムや500グラムなどの少量サイズが増加している。また、塩を容器に移し替えない人も増えていると推測され、使いやすいサラサラタイプの塩が伸長している」
-付加価値の高い商品も支持されている。
 「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。前述のように量をたくさん買う人は減少しているが、健康性や美味しさといったこだわりを持って、付加価値の高い塩を選ぶ人は増えていることが分かる。弊社においても、高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した『天海の平釜塩』は、7年前発売以来、売上が約3倍に伸長している。塩の味わいに高い評価を頂いており、リピーターが増加している。売場も広がりつつあり、まだまだ伸び代
があると考えている」
-物流2024問題への対応。
 「物流各社から値上げの要請がきており、慎重な対応や分析を進めている。弊社では2年前から関東に物流拠点を開設し、全体の物量の約3割について、そこから二次配送する仕組みを作ることで物流効率化を図った。物流コストに関しては今後さらに上昇していく可能性があり、その動向を注視している。その中で、従来とは異なる新しい輸送形態を考えることも必要だ。今までは、何から何までリードタイムを縮める方向でやってきたが、リードタイムを伸ばすことで価格を下げることが可能ではないか。塩は日配品とは違い、翌日配送する必要性はない。トラックが空いている日に運んでもらうことで安く配送できる仕組みを構築していくことなどが求められている」
-最後に。
 「今までと同じことを繰り返しているだけではなく、新しい方法で塩のアピールをしていかなければ状況は変わらない。様々な取組を通して、未来へ塩の価値を繋いでいく。特に大切なのは、“塩は全て同じではなく違いがある”ということを知ってもらうための取組だ。農産物と一緒で、日本全国その土地、その海の特徴を持った塩がある。もう一度、塩作りの原点に戻り、地産地消の塩の価値を訴えていきたい。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。県や市とも連携し、日本遺産にも認定されている『赤穂の塩作り』の歴史を通して、塩の価値を伝えていく」
【2024(令和6)年3月21日第5157号8面】

天塩
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