<漬物業界>過去最大規模の値上げに ほぼ全品目で10%前後
漬物業界が過去最大規模となる値上げラッシュを迎える。
3月中旬から4月上旬にかけて実施される春夏向けの棚割り。これからの時期に合わせた商品が陳列されていく中、商品の値上げが広範囲で実施される。
国産の梅干しについては昨年の作柄が全国的に凶作となったことから、昨年10月から12月にかけて10%~30%と大幅な値上げを実施。同じタイミングで多くの品目で値上げが行われたが、今回は大手キムチ浅漬メーカーで全商品の5~8割の価格改定を行う企業もあり、規模感は昨年の秋冬を大きく上回る。
カテゴリー別に見ても、キムチ、浅漬、沢庵、葉物、国産生姜を使った一部の酢漬など、ほぼ全ての品目で値上げが実施される。
値上げの引き金になったのは、猛暑となった昨夏以降の天候不順などによる原料野菜の不作及び生育不良により、2024年産の紀州南高梅の原料価格は約2倍、白菜の価格も2~3倍で長期間推移するなど、原料価格が暴騰。白菜を主原料とするキムチや浅漬は大半の企業が出荷調整を行っているが、欠品も相次ぐ事態となっている。
全国的に不作となった大根についても、沢庵製品の出荷調整が行われており、休売や終売となるアイテムもある他、一本物は欠品も出ている。赤かぶは販売期間が大幅に短縮される。
加工業者だけでなく、青果との綱引きも発生する白菜については、生育不良のため前倒しで収穫しなければならなかったため、成長しきっていない原料を高値で購入して加工。当然、品質も歩留まりも悪く、収益を大幅に圧迫した。
一部では中国産原料を使用して対応しているメーカーもあるが、次の産地までの端境期が長くなる見通しで、現時点で原料状況が落ち着く目途は立っていない。
漬物業界は長年、競合の動きや得意先との関係などの理由から、値上げに対して慎重な姿勢を崩さなかった。だが、調味資材、エネルギー価格、物流費、人件費などの製造コストが上昇し続けている環境に加え、原料価格の暴騰によって現行の価格では採算が合わないことが決定的となり、事業継続の観点から昨秋から値上げの機運が高まり、今回の動きにつながった。
昨秋に大幅な値上げを実施した国産の梅干しは、値上げを実施した昨年10月から今年1月までの動きを見ると、数量が前年同月比で1~2割程度減少したものの、金額は微増となっている。手放しで喜べる状況ではないが、値上げ効果によって金額は維持することができている。
これまでは漬物企業同士による競争が展開されていたが、ここ数年はディスカウント店の勢いが強く、小売店同士の競争による価格競争が激化している。キムチ売場の看板商品となっている300gのキムチの店頭価格が159円、200gのキムチが同99円と、期間限定ではあるものの、採算度外視のような値段で商品を販売するケースも散見される。漬物メーカーはそれに巻き込まれる形で対応に追われている。
物価高で節約志向が高まる中、漬物の値上げは消費者離れが危惧される。生活必需品は1年に複数回の値上げを実施する商品もあるが、漬物は主菜ではなく、ご飯のお供や添え物、嗜好品といった位置付けで食べられることが多く、存在しなくても食卓が成立する。小売店における消費者の買い上げ点数は減少しており、消費者が商品を選別する目は以前にも増して厳しくなっている。そのような状況では漬物を食べる動機や必要とされる理由を付与しなければ需要が減少していくことは容易に想像できる。
値上げ幅はおしなべて10%前後のものが多く、消費者が手に取るギリギリの価格帯ではあるが、商品によっては未だ採算割れのものもある。
今回の値上げはメーカーの収益状況を改善するものではなく、損失が拡大しない程度の上げ幅に抑えられており、消費者の反応を見ながら小刻みに値上げを実施する形は今後も続くことになりそうだ。
【2025(令和7)年3月11日第5189号1面】
3月中旬から4月上旬にかけて実施される春夏向けの棚割り。これからの時期に合わせた商品が陳列されていく中、商品の値上げが広範囲で実施される。
国産の梅干しについては昨年の作柄が全国的に凶作となったことから、昨年10月から12月にかけて10%~30%と大幅な値上げを実施。同じタイミングで多くの品目で値上げが行われたが、今回は大手キムチ浅漬メーカーで全商品の5~8割の価格改定を行う企業もあり、規模感は昨年の秋冬を大きく上回る。
カテゴリー別に見ても、キムチ、浅漬、沢庵、葉物、国産生姜を使った一部の酢漬など、ほぼ全ての品目で値上げが実施される。
値上げの引き金になったのは、猛暑となった昨夏以降の天候不順などによる原料野菜の不作及び生育不良により、2024年産の紀州南高梅の原料価格は約2倍、白菜の価格も2~3倍で長期間推移するなど、原料価格が暴騰。白菜を主原料とするキムチや浅漬は大半の企業が出荷調整を行っているが、欠品も相次ぐ事態となっている。
全国的に不作となった大根についても、沢庵製品の出荷調整が行われており、休売や終売となるアイテムもある他、一本物は欠品も出ている。赤かぶは販売期間が大幅に短縮される。
加工業者だけでなく、青果との綱引きも発生する白菜については、生育不良のため前倒しで収穫しなければならなかったため、成長しきっていない原料を高値で購入して加工。当然、品質も歩留まりも悪く、収益を大幅に圧迫した。
一部では中国産原料を使用して対応しているメーカーもあるが、次の産地までの端境期が長くなる見通しで、現時点で原料状況が落ち着く目途は立っていない。
漬物業界は長年、競合の動きや得意先との関係などの理由から、値上げに対して慎重な姿勢を崩さなかった。だが、調味資材、エネルギー価格、物流費、人件費などの製造コストが上昇し続けている環境に加え、原料価格の暴騰によって現行の価格では採算が合わないことが決定的となり、事業継続の観点から昨秋から値上げの機運が高まり、今回の動きにつながった。
昨秋に大幅な値上げを実施した国産の梅干しは、値上げを実施した昨年10月から今年1月までの動きを見ると、数量が前年同月比で1~2割程度減少したものの、金額は微増となっている。手放しで喜べる状況ではないが、値上げ効果によって金額は維持することができている。
これまでは漬物企業同士による競争が展開されていたが、ここ数年はディスカウント店の勢いが強く、小売店同士の競争による価格競争が激化している。キムチ売場の看板商品となっている300gのキムチの店頭価格が159円、200gのキムチが同99円と、期間限定ではあるものの、採算度外視のような値段で商品を販売するケースも散見される。漬物メーカーはそれに巻き込まれる形で対応に追われている。
物価高で節約志向が高まる中、漬物の値上げは消費者離れが危惧される。生活必需品は1年に複数回の値上げを実施する商品もあるが、漬物は主菜ではなく、ご飯のお供や添え物、嗜好品といった位置付けで食べられることが多く、存在しなくても食卓が成立する。小売店における消費者の買い上げ点数は減少しており、消費者が商品を選別する目は以前にも増して厳しくなっている。そのような状況では漬物を食べる動機や必要とされる理由を付与しなければ需要が減少していくことは容易に想像できる。
値上げ幅はおしなべて10%前後のものが多く、消費者が手に取るギリギリの価格帯ではあるが、商品によっては未だ採算割れのものもある。
今回の値上げはメーカーの収益状況を改善するものではなく、損失が拡大しない程度の上げ幅に抑えられており、消費者の反応を見ながら小刻みに値上げを実施する形は今後も続くことになりそうだ。
【2025(令和7)年3月11日第5189号1面】
<視点>米の良さ伝えるおむすび
困難を乗り越え再興する年に
正月ー2025年を迎え、生活様式が多様化した今もなお、この時ばかりは多くの人々が里帰りをし、家族でおせちやお雑煮を食べ、神社へ初詣をする。身も心も“故郷〟へと帰る時間だ。
一年のうち、最も日本らしさが色濃く残るこの季節に、改めて和食の未来を考えたい。
和食の根幹をなす米の消費は減り続けている。家計における支出金額はパンに逆転されて久しい。だが、米食がもはや日本人に受け入れられなくなったのか、といえば、もちろんそんなことはない。
おむすび(おにぎり)専門店は増え続けている。「食べログ」を運営するカカクコムによれば、同サイトに登録されたおにぎり店の数は5年前から倍増している。どの店も、具材には漬物や佃煮を取り揃える。パックご飯の生産量も10年間で1・5倍に伸びている。
炊飯の手間を抑え、新たな食シーンを創出できれば、米を食べる頻度は高まる、という希望を見せてくれる事例だ。
現在放送中のNHKの連続テレビ小説『おむすび』は、阪神・淡路大震災の発生後、炊き出しで配られたおむすびが人々の心を潤したという実話から出発し、「食がつなぐ人の縁」を描き出す。人の手のぬくもりがこもったおむすびは、このテーマを象徴する存在としてメディア上で注目される機会が増えている。
グローバル化が進む昨今、観光で日本に訪れる外国人、あるいは仕事や学業のため日本で暮らし始める外国人へ、米の良さを伝えるという点でもおむすびは重要な役割を背負うだろう。
和食が世界から評価されるようになれば、その恩恵は輸出が増えることに留まらない。本物の和食を体験しようと、日本を訪れる人が増える。その期待に応えようと、和食のレベルはさらに高まる。日本で料理やものづくりを修行することの価値が高まり、世界中へ本物の和食が広まる。
今年は大阪・関西万博が4月13日から半年間にわたって開催される。世界中の注目が日本に集まる好機だ。
昨年を振り返れば、米が不足し「令和の米騒動」と呼ばれる事態に陥った。米価は現在に至っても高止まりしている。漬物や佃煮の業界においても、過去最低レベルの収量となった昆布や梅をはじめ、あらゆる原料の不足に悩まされた一年だった。
しかし、今年の干支である乙巳は、成長する植物のような力強い生命力と、脱皮する蛇のように不屈の再生力を持つ年になると言われる。米食文化が再興し、和食業界全体が活性化していく年になることを祈念している。
一年のうち、最も日本らしさが色濃く残るこの季節に、改めて和食の未来を考えたい。
和食の根幹をなす米の消費は減り続けている。家計における支出金額はパンに逆転されて久しい。だが、米食がもはや日本人に受け入れられなくなったのか、といえば、もちろんそんなことはない。
おむすび(おにぎり)専門店は増え続けている。「食べログ」を運営するカカクコムによれば、同サイトに登録されたおにぎり店の数は5年前から倍増している。どの店も、具材には漬物や佃煮を取り揃える。パックご飯の生産量も10年間で1・5倍に伸びている。
炊飯の手間を抑え、新たな食シーンを創出できれば、米を食べる頻度は高まる、という希望を見せてくれる事例だ。
現在放送中のNHKの連続テレビ小説『おむすび』は、阪神・淡路大震災の発生後、炊き出しで配られたおむすびが人々の心を潤したという実話から出発し、「食がつなぐ人の縁」を描き出す。人の手のぬくもりがこもったおむすびは、このテーマを象徴する存在としてメディア上で注目される機会が増えている。
グローバル化が進む昨今、観光で日本に訪れる外国人、あるいは仕事や学業のため日本で暮らし始める外国人へ、米の良さを伝えるという点でもおむすびは重要な役割を背負うだろう。
和食が世界から評価されるようになれば、その恩恵は輸出が増えることに留まらない。本物の和食を体験しようと、日本を訪れる人が増える。その期待に応えようと、和食のレベルはさらに高まる。日本で料理やものづくりを修行することの価値が高まり、世界中へ本物の和食が広まる。
今年は大阪・関西万博が4月13日から半年間にわたって開催される。世界中の注目が日本に集まる好機だ。
昨年を振り返れば、米が不足し「令和の米騒動」と呼ばれる事態に陥った。米価は現在に至っても高止まりしている。漬物や佃煮の業界においても、過去最低レベルの収量となった昆布や梅をはじめ、あらゆる原料の不足に悩まされた一年だった。
しかし、今年の干支である乙巳は、成長する植物のような力強い生命力と、脱皮する蛇のように不屈の再生力を持つ年になると言われる。米食文化が再興し、和食業界全体が活性化していく年になることを祈念している。
【2025(令和7)年1月1日第5183号15面】