3月21日号 塩特集 インタビュー
株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木 恵氏
『身土不二』プロジェクト始動
「赤穂の塩づくり」400年に向けPR
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
‐この一年を振り返って。
「春先の梅の不作に始まり、その後も一年を通して白菜などの野菜が高騰したことにより塩にとっては厳しい一年になった。梅干しや野菜の漬物を家庭で漬け込む人が減り、塩の需要が減少した。猛暑が続いた夏場は塩飴などの製品が堅調に推移したものの、冬場はエリアによっては記録的な降雪となり、買い物頻度の減少により塩の動きが鈍っている。一方で、こうした厳しい環境下においても、伸び続けている製品もある。売れている製品がなぜ売れているかを分析することで今後の対策を立てていきたい」
‐売れている製品は。
「弊社では、高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した“天海の平釜塩”が8年前の発売以来、年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。また、“天塩の天日にがり”などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足がちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている」
‐新たな取組。
「人口減少や少子高齢化などにより塩の消費量が減少していく中、“量から質への転換”に力を注いでいく。新たに取り組んでいるのが『身土不二(しんどふじ)』プロジェクト。身土不二とは、その土地の恵まれた自然を活かして暮らすという考え方で、その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康上も望ましいという思想に通ずる。この思想の下、日本各地の海水をとり、その海水のみを原料として使用した“ご当地ソルト”を製造し、各地域で付加価値を付けて販売してもらうことを目指している。海水は日本全国どこでも同じではなく、その土地ならではの特徴がある。塩の地域性をアピールすることで、付加価値を訴求していきたい」
‐塩の新たな楽しみ方を提案している。
「昨年12月に東京・泉岳寺の義士祭にアマシオキッチンカーで出店し、日本酒のおつまみとして天日塩を提案したところ好評だった。日本酒を飲みながら、ご当地ソルトの味の違いを感じてもらい、その土地の風景を想像してもらうという楽しみ方を提案していきたい」
‐今後の方針。
「2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。現在それに向けた準備も進めており、赤穂化成の天日塩製造施設『天のハウス』などのPRを行いながら、日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
天塩
https://www.amashio.co.jp/
「赤穂の塩づくり」400年に向けPR
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
‐この一年を振り返って。
「春先の梅の不作に始まり、その後も一年を通して白菜などの野菜が高騰したことにより塩にとっては厳しい一年になった。梅干しや野菜の漬物を家庭で漬け込む人が減り、塩の需要が減少した。猛暑が続いた夏場は塩飴などの製品が堅調に推移したものの、冬場はエリアによっては記録的な降雪となり、買い物頻度の減少により塩の動きが鈍っている。一方で、こうした厳しい環境下においても、伸び続けている製品もある。売れている製品がなぜ売れているかを分析することで今後の対策を立てていきたい」
‐売れている製品は。
「弊社では、高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した“天海の平釜塩”が8年前の発売以来、年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。また、“天塩の天日にがり”などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足がちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている」
‐新たな取組。
「人口減少や少子高齢化などにより塩の消費量が減少していく中、“量から質への転換”に力を注いでいく。新たに取り組んでいるのが『身土不二(しんどふじ)』プロジェクト。身土不二とは、その土地の恵まれた自然を活かして暮らすという考え方で、その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康上も望ましいという思想に通ずる。この思想の下、日本各地の海水をとり、その海水のみを原料として使用した“ご当地ソルト”を製造し、各地域で付加価値を付けて販売してもらうことを目指している。海水は日本全国どこでも同じではなく、その土地ならではの特徴がある。塩の地域性をアピールすることで、付加価値を訴求していきたい」
‐塩の新たな楽しみ方を提案している。
「昨年12月に東京・泉岳寺の義士祭にアマシオキッチンカーで出店し、日本酒のおつまみとして天日塩を提案したところ好評だった。日本酒を飲みながら、ご当地ソルトの味の違いを感じてもらい、その土地の風景を想像してもらうという楽しみ方を提案していきたい」
‐今後の方針。
「2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。現在それに向けた準備も進めており、赤穂化成の天日塩製造施設『天のハウス』などのPRを行いながら、日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
天塩
https://www.amashio.co.jp/
株式会社ソルト関西 代表取締役社長 山本博氏
塩の価値向上に取り組む 海外市場開拓への原動力に
株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして塩の各団体が垣根を越えて業界を取り巻く共通課題へ取り組むべく結成された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めている。山本社長は塩の消費量は減少していくことを見据えながらの企業経営の展望や懇話会で取り組む課題について語った。(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
ー塩の出荷動向は。
「塩業界は、構造的に出荷量の減少が続いている。食用は、日本の人口減少と、少子高齢化の伸長と共に、フードロス削減の動きなども加わり、慢性的な需要減にある。物価上昇により消費者の財布の紐が硬くなり、高単価の塩の買い控えの影響も顕在化している。どれも簡単に止めようのない問題であり、我々塩に携わる者は、減塩化の逆風も重なり、塩の消費量は漸減傾向が続くということは念頭に置いている」
ー貴社の対応は。
「塩以外の物、例えばグルソーや砂糖などの調味料や手袋等の生産資材関係といった幅広い商材をお客様目線で探し出し、売上の維持拡大を図っている。塩と一括して納入できればお客様にとっても管理負担が軽減できる。特に今年度はだし分野の伸長が顕著であるが、色々な事にチャレンジする事で、売上をますます伸ばしていきたい。今後も小売店から大規模工場まで食品事業者と幅広くお取引してきた強みを活かしていきたい。お客様の要望があれば、扱う品目は増やしていく予定だ」
ー懇話会の活動は。
「懇話会は日本塩工業会、塩元売協同組合、塩輸送協会、全国輸入塩協会、日本特殊製法塩協会5団体が連携した団体として、分野横断的に共通課題解決へ向け議論を重ねている。昨年末は国土交通省へ意見交換で訪問し、融雪用塩のスムーズな納入について議論した。道路管理者は融雪塩の在庫を持たずに緊急輸送に頼りがち。運送の2024年問題対応もあり、余裕を持った輸送が出来る様、管理現場等への働きかけを要望した。幸いにして概ね良い方向へ向かっているとの報告が上がってきている。また中期的課題として、カーボンニュートラル化を業界全体で見据えた諸施策を実施する上での調整役を担いたい」
ー塩の価値向上については。
「塩が必須栄養素であることは紛れもない事実である。『五味』のなかで塩味は塩以外に代替できない。このような事実は昨今の飽食の時代に忘れられがちである。我々は塩の正しい知識の普及と価値向上に引き続き取り組む。中でも日本の塩の品質の高さや安定供給の大切さを国民により認知していただく必要がある。このことが海外市場開拓への大きな原動力にもなると考える。日本の塩は世界トップレベルの品質だということを発信していけるような新しい試みも考えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
◇ ◇
ー塩の出荷動向は。
「塩業界は、構造的に出荷量の減少が続いている。食用は、日本の人口減少と、少子高齢化の伸長と共に、フードロス削減の動きなども加わり、慢性的な需要減にある。物価上昇により消費者の財布の紐が硬くなり、高単価の塩の買い控えの影響も顕在化している。どれも簡単に止めようのない問題であり、我々塩に携わる者は、減塩化の逆風も重なり、塩の消費量は漸減傾向が続くということは念頭に置いている」
ー貴社の対応は。
「塩以外の物、例えばグルソーや砂糖などの調味料や手袋等の生産資材関係といった幅広い商材をお客様目線で探し出し、売上の維持拡大を図っている。塩と一括して納入できればお客様にとっても管理負担が軽減できる。特に今年度はだし分野の伸長が顕著であるが、色々な事にチャレンジする事で、売上をますます伸ばしていきたい。今後も小売店から大規模工場まで食品事業者と幅広くお取引してきた強みを活かしていきたい。お客様の要望があれば、扱う品目は増やしていく予定だ」
ー懇話会の活動は。
「懇話会は日本塩工業会、塩元売協同組合、塩輸送協会、全国輸入塩協会、日本特殊製法塩協会5団体が連携した団体として、分野横断的に共通課題解決へ向け議論を重ねている。昨年末は国土交通省へ意見交換で訪問し、融雪用塩のスムーズな納入について議論した。道路管理者は融雪塩の在庫を持たずに緊急輸送に頼りがち。運送の2024年問題対応もあり、余裕を持った輸送が出来る様、管理現場等への働きかけを要望した。幸いにして概ね良い方向へ向かっているとの報告が上がってきている。また中期的課題として、カーボンニュートラル化を業界全体で見据えた諸施策を実施する上での調整役を担いたい」
ー塩の価値向上については。
「塩が必須栄養素であることは紛れもない事実である。『五味』のなかで塩味は塩以外に代替できない。このような事実は昨今の飽食の時代に忘れられがちである。我々は塩の正しい知識の普及と価値向上に引き続き取り組む。中でも日本の塩の品質の高さや安定供給の大切さを国民により認知していただく必要がある。このことが海外市場開拓への大きな原動力にもなると考える。日本の塩は世界トップレベルの品質だということを発信していけるような新しい試みも考えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
ナイカイ塩業株式会社 代表取締役社長 野﨑泰彦氏
黒字確保もコスト増危惧 歴史・文化継承地域と共に
ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は1829年創業、年間18万トンの生産能力を有する国内製塩大手企業である。野﨑社長は塩の需要減少とコスト増が同時進行する今、改めてライフラインである塩の徹底した安全安心と、安定供給の重要性を指摘する。設備投資や、企業価値向上に向けた取組の状況を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー直近の業績は。
「2024年度(3月決算)は黒字着地を見込んでいる。22年度には燃料価格が高騰して数十年来で初の赤字に陥ったのだが、その後少なくとも2度の価格改定を実施し、全てのお客様にご理解いただけたおかげで赤字を脱出できた。しかし内容を見ると、売上金額は値上げにより増収だが、塩の出荷量は横ばい~微減。また燃料価格は落ち着いたものの以前に比べて高止まりしており、労務費や、2024年問題による物流費をはじめとした諸コストも大きく増加した。物価上昇が今後も続くのは確実であり、従業員の待遇改善や設備投資にも取り組まねばならないことを考慮し、今秋を目処に3度目の価格改定も視野に慎重に検討しているところだ」
ー設備投資に積極的だ。
「国内では人口減に伴う塩需要の減少と物価上昇が同時進行していく。その前提の中でどう売上や利益を確保していくか考えると、安全安心という価値の追求による差別化と、生産効率改善によるコスト圧縮を同時に達成しなければならない。そのためには投資が必要不可欠だ。製塩現場への設備投資はもちろんのこと、入出荷や事務方におけるDX化まで、他業種や海外企業も参考に取り組んでいる」
ー製塩現場への投資は。
「23年から今年年初にかけて、かん水(濃い塩水)を煮詰める加熱缶2基を更新した。来年以降に発電タービンの更新も行う。製塩設備には日々強大な負担がかかっていて、定期的なメンテナンスが欠かせない。それぞれ数億円の投資だが、ライフラインである塩の安全と、安定的な供給を守るには必要な投資だ。またかん水を作る工程には現在イオン交換膜を利用しているが、より効率の良い新手法の研究も進めている。産業として毎日稼働させるとなると劣化も起きるはずであり、テストプラントを作り数年単位での観察を行う計画である」
ーカーボンニュートラルへの取組について。
「かん水製造の新手法が上手くいけば使用電力を削減できる。煮詰め工程でも、電力会社などの技術を見学しさらなる効率化を図っていく。ただ、電力や燃料の使用をゼロにするのは不可能。別のアプローチとして炭酸ガスを利用する化成品の開発など、当社が昔から取り組んできた化成品事業は有効であり研究を強化していく」
ー地域貢献にも取り組む。
「当社は地域の皆様に受け入れられて事業を続けられている。共存共栄のためにも環境保護や地域貢献は責務として取り組んでいる。地元が活性化することは企業存続においても不可欠であり、また塩づくりの仕事や文化が地域の人々に知ってもらえれば、働く人の誇りにもなる。昨年は創業195年記念事業として当社本社地である倉敷市と玉野工場のある玉野市には各1000万円を子どもたちのために寄付した。野﨑家に伝わる古文書10万点の解読を続けていただいている岡山大学には1200万円を寄付した。国指定重要文化財である塩業歴史館(旧野﨑家住宅)の公開や能、落語の振興など、塩や地域の歴史と文化伝承にも力を注いでいる」
【ナイカイ塩業株式会社】
今年で創業196周年を迎える。グループ企業の日本家庭用塩株式会社は味の素グループの「瀬戸のほんじおⓇ」や「アジシオⓇ」の受託メーカーとしても著名だ。客観的裏付けのある安全安心な塩作りを続ける。 これまでに品質マネジメントシステムのISO9001、環境マネジメントシステムのISO14001、さらに2022年には食品安全マネジメントシステムのFSSC22000認証を取得している。医療用の製剤原料に使われる局方塩の製造をしていることも、高い技術力を証明している。
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
ナイカイ塩業
https://www.naikai.co.jp/
ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は1829年創業、年間18万トンの生産能力を有する国内製塩大手企業である。野﨑社長は塩の需要減少とコスト増が同時進行する今、改めてライフラインである塩の徹底した安全安心と、安定供給の重要性を指摘する。設備投資や、企業価値向上に向けた取組の状況を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー直近の業績は。
「2024年度(3月決算)は黒字着地を見込んでいる。22年度には燃料価格が高騰して数十年来で初の赤字に陥ったのだが、その後少なくとも2度の価格改定を実施し、全てのお客様にご理解いただけたおかげで赤字を脱出できた。しかし内容を見ると、売上金額は値上げにより増収だが、塩の出荷量は横ばい~微減。また燃料価格は落ち着いたものの以前に比べて高止まりしており、労務費や、2024年問題による物流費をはじめとした諸コストも大きく増加した。物価上昇が今後も続くのは確実であり、従業員の待遇改善や設備投資にも取り組まねばならないことを考慮し、今秋を目処に3度目の価格改定も視野に慎重に検討しているところだ」
ー設備投資に積極的だ。
「国内では人口減に伴う塩需要の減少と物価上昇が同時進行していく。その前提の中でどう売上や利益を確保していくか考えると、安全安心という価値の追求による差別化と、生産効率改善によるコスト圧縮を同時に達成しなければならない。そのためには投資が必要不可欠だ。製塩現場への設備投資はもちろんのこと、入出荷や事務方におけるDX化まで、他業種や海外企業も参考に取り組んでいる」
ー製塩現場への投資は。
「23年から今年年初にかけて、かん水(濃い塩水)を煮詰める加熱缶2基を更新した。来年以降に発電タービンの更新も行う。製塩設備には日々強大な負担がかかっていて、定期的なメンテナンスが欠かせない。それぞれ数億円の投資だが、ライフラインである塩の安全と、安定的な供給を守るには必要な投資だ。またかん水を作る工程には現在イオン交換膜を利用しているが、より効率の良い新手法の研究も進めている。産業として毎日稼働させるとなると劣化も起きるはずであり、テストプラントを作り数年単位での観察を行う計画である」
ーカーボンニュートラルへの取組について。
「かん水製造の新手法が上手くいけば使用電力を削減できる。煮詰め工程でも、電力会社などの技術を見学しさらなる効率化を図っていく。ただ、電力や燃料の使用をゼロにするのは不可能。別のアプローチとして炭酸ガスを利用する化成品の開発など、当社が昔から取り組んできた化成品事業は有効であり研究を強化していく」
ー地域貢献にも取り組む。
「当社は地域の皆様に受け入れられて事業を続けられている。共存共栄のためにも環境保護や地域貢献は責務として取り組んでいる。地元が活性化することは企業存続においても不可欠であり、また塩づくりの仕事や文化が地域の人々に知ってもらえれば、働く人の誇りにもなる。昨年は創業195年記念事業として当社本社地である倉敷市と玉野工場のある玉野市には各1000万円を子どもたちのために寄付した。野﨑家に伝わる古文書10万点の解読を続けていただいている岡山大学には1200万円を寄付した。国指定重要文化財である塩業歴史館(旧野﨑家住宅)の公開や能、落語の振興など、塩や地域の歴史と文化伝承にも力を注いでいる」
【ナイカイ塩業株式会社】
今年で創業196周年を迎える。グループ企業の日本家庭用塩株式会社は味の素グループの「瀬戸のほんじおⓇ」や「アジシオⓇ」の受託メーカーとしても著名だ。客観的裏付けのある安全安心な塩作りを続ける。 これまでに品質マネジメントシステムのISO9001、環境マネジメントシステムのISO14001、さらに2022年には食品安全マネジメントシステムのFSSC22000認証を取得している。医療用の製剤原料に使われる局方塩の製造をしていることも、高い技術力を証明している。
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
ナイカイ塩業
https://www.naikai.co.jp/
伯方塩業株式会社 代表取締役社長 石丸一三氏
今年中の価格改定検討 ブランド力でシェア拡大目指す
伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の、石丸一三社長へインタビュー。「伯方の塩」シリーズは日経POSで売上1、2位を独占する、名実ともに日本を代表する塩であるが、今期は昨年の梅の不作の影響で減収の見通し。原料塩の価格が上昇したことで、価格改定も検討している。石丸社長は企業ブランドのさらなる向上により、シェアの維持拡大を目指す考えを示した。(大阪支社・小林悟空)
ー今期の業績は。
「3月末が決算となるが、減収を見込んでいる。昨年は梅が不作だったのが一番の原因で、本来最需要期である5~6月の売上が2割減となったのが大きく響き、その後のリカバリーが追いつかなかった。ただ、日経POSの1位に『伯方の塩500g』、2位に1㎏がランクインした。順位の交代はあったが、5年連続で当社製品が1位であり、梅の凶作という状況下でも当社製品の人気は揺るがないという結果が出たのは良かった。また、業務筋、特に加工用が増加した。まだ売上の3割に留まっているが、提案次第で伸ばせるという手応えを感じている」
ー利益面は。
「物流費をはじめあらゆるコストが上昇していて利益を圧迫している。今年1月には、原料として使用しているメキシコ産天日塩の値上がりが、商社から言い渡された。機械化やDXによるコスト削減には取り組んでいるが、企業努力で吸収できる範囲を超えており、価格改定も今年中の実施が必要と考えている。しかし2023年7月に続き2度目の実施となれば消費者の手が伸びづらくなる懸念もある。人口が減少する日本で塩は消費量が上向くことはなく、シェアの取り合いをせざるを得ないのが現実であり、時期や改定幅は慎重に検討しなければならない」
ー昨年9月、松山駅にコンセプトショップを開店した。
「『ちょっとおもしろいかも、塩。』をキャッチコピーとした店で、塩の新たなおもしろさや魅力と出会えるひとときを提供することが狙い。秋口のオープンにも関わらず、それまで大三島工場限定だった『伯方の塩ソフト』が想定を上回るほどの売れ行きであり、今年初めて迎える夏の動きが楽しみ。第二の柱となるような商品も開発していく。この店舗の人気が高まれば、企業ブランド力の向上にも繋がる。市販品や業務用にも好影響があるはずだ」
ー企業ブランド力向上の取組について。
「たくさんある塩の中から、消費者の方に伯方の塩を選んでもらう、また飲食店や食品メーカーにとって伯方の塩を使うことが付加価値になると思ってもらうために重要なこと。Webキャンペーンや大三島工場での伯方の塩まつりなど、様々な角度で取り組んでいる。最近では大相撲や、製糖大手のDM三井製糖様とのコラボも実施した。塩は目立つ存在ではないので、意外性のあることにもチャレンジして注目をしてもらい、魅力に気づくきっかけを作っていかなければならない」
ー塩自体のイメージ改善も必要だ。
「昨今は減塩が無条件に良いことのように言われているが、スポーツや肉体労働をする人、炎天下での活動といった場合には塩分が不足することは珍しくない。一人ひとりそれぞれの『適塩』があるということは伝えていきたい」
ー最後に、会長を務める食用塩公正取引協議会は来期が役員改選年度。振り返りを。
「消費者への公正で正直な情報公開を目的とした協議会であり、加盟者(153社)にはその理念が浸透し不当な表示はほとんどなくなった。ところが非加盟企業の製品には誤解を招く表示が今なお残っているため、行政や販売店とも連携しながら改善に努めてきた。課題点は、公正マークの消費者認知度が低いこと。マークを付けていることが信頼性向上、売上向上に繋がっているとは言い難い状況であるので、会員にとってメリットある活動が必要だ」
ー今期の業績は。
「3月末が決算となるが、減収を見込んでいる。昨年は梅が不作だったのが一番の原因で、本来最需要期である5~6月の売上が2割減となったのが大きく響き、その後のリカバリーが追いつかなかった。ただ、日経POSの1位に『伯方の塩500g』、2位に1㎏がランクインした。順位の交代はあったが、5年連続で当社製品が1位であり、梅の凶作という状況下でも当社製品の人気は揺るがないという結果が出たのは良かった。また、業務筋、特に加工用が増加した。まだ売上の3割に留まっているが、提案次第で伸ばせるという手応えを感じている」
ー利益面は。
「物流費をはじめあらゆるコストが上昇していて利益を圧迫している。今年1月には、原料として使用しているメキシコ産天日塩の値上がりが、商社から言い渡された。機械化やDXによるコスト削減には取り組んでいるが、企業努力で吸収できる範囲を超えており、価格改定も今年中の実施が必要と考えている。しかし2023年7月に続き2度目の実施となれば消費者の手が伸びづらくなる懸念もある。人口が減少する日本で塩は消費量が上向くことはなく、シェアの取り合いをせざるを得ないのが現実であり、時期や改定幅は慎重に検討しなければならない」
ー昨年9月、松山駅にコンセプトショップを開店した。
「『ちょっとおもしろいかも、塩。』をキャッチコピーとした店で、塩の新たなおもしろさや魅力と出会えるひとときを提供することが狙い。秋口のオープンにも関わらず、それまで大三島工場限定だった『伯方の塩ソフト』が想定を上回るほどの売れ行きであり、今年初めて迎える夏の動きが楽しみ。第二の柱となるような商品も開発していく。この店舗の人気が高まれば、企業ブランド力の向上にも繋がる。市販品や業務用にも好影響があるはずだ」
ー企業ブランド力向上の取組について。
「たくさんある塩の中から、消費者の方に伯方の塩を選んでもらう、また飲食店や食品メーカーにとって伯方の塩を使うことが付加価値になると思ってもらうために重要なこと。Webキャンペーンや大三島工場での伯方の塩まつりなど、様々な角度で取り組んでいる。最近では大相撲や、製糖大手のDM三井製糖様とのコラボも実施した。塩は目立つ存在ではないので、意外性のあることにもチャレンジして注目をしてもらい、魅力に気づくきっかけを作っていかなければならない」
ー塩自体のイメージ改善も必要だ。
「昨今は減塩が無条件に良いことのように言われているが、スポーツや肉体労働をする人、炎天下での活動といった場合には塩分が不足することは珍しくない。一人ひとりそれぞれの『適塩』があるということは伝えていきたい」
ー最後に、会長を務める食用塩公正取引協議会は来期が役員改選年度。振り返りを。
「消費者への公正で正直な情報公開を目的とした協議会であり、加盟者(153社)にはその理念が浸透し不当な表示はほとんどなくなった。ところが非加盟企業の製品には誤解を招く表示が今なお残っているため、行政や販売店とも連携しながら改善に努めてきた。課題点は、公正マークの消費者認知度が低いこと。マークを付けていることが信頼性向上、売上向上に繋がっているとは言い難い状況であるので、会員にとってメリットある活動が必要だ」
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
静岡塩業株式会社 代表取締役社長 水野直人氏
前期売上は過去最高 DXや物流改善で効率化
静岡塩業株式会社(静岡県静岡市)は鈴与グループの塩元売企業として、塩製品や食品加工用素材を幅広く取り扱う。近年は調味料や健康食品向けの原料供給が好調に推移し、前期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。水野直人社長は、人口減少や高齢化により、塩を取り巻く環境が厳しくなる中、DXなどにより効率化をさらに進め、塩でしっかりと利益がとれる仕組みづくりを行っていきたいと話した。
(藤井大碁)
―貴社の歴史。
「1947年に塩元売人の指定を受け創業した静岡食塩株式会社がベースとなっている。54年に静岡塩業株式会社に社名を変更。62年に塩元売の兼業禁止が解除されたことを機に、いち早く食品加工用素材の事業をスタートした。現在の取扱い品目は、塩製品が約700アイテム、食品加工用素材が約1300アイテムとなっている」
―現在の事業内容。
「塩卸売、食品加工素材卸売を中心に展開している。売上に占める割合は塩が3割、食品加工素材卸売が7割程。そのうち、業務用が98%、家庭用は2%となっており、圧倒的に業務用の割合が多い。当社の特徴として、塩の売上においては、遠洋カツオ漁向けの需要が大きなウエイトを占めている。カツオの鮮度を保つためのブライン凍結に塩が使用されている。焼津港は2024年に2位に転落したものの、それまで8年連続で日本一の水揚げ金額を誇った日本を代表する漁港。その関係から、塩の卸売り先は、遠洋カツオ漁向け以外にも、缶詰など水産製品向けが多い。また近年、伸長しているのが食品加工用素材。特に調味料や健康食品向けが好調だ」
―直近の業績。
「前期2024年3月期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。塩は値上げの影響で数量が減少したものの、単価が上がったため売上は上昇した。健康食品やペットフード向けの食品加工用素材が特に好調だった。だが今期はここまで厳しい状況が続いている。物価上昇による消費者の節約志向もあり、食品の購買点数が減っており、塩や食品加工用素材の引き合いも減少している。また、昨年は紅麹問題の影響もあり、健康食品向けの需要も伸び悩んだ」
―今後について。
「2021年から全社でDXを推進し、ペーパーレス化など様々な取組を通して業務プロセスの改善を進めている。また物流業務の改善にも着手している。物流費が上昇する中、配送ルートや配送頻度などを見直し効率化を図っている。人口減少や高齢化が進む中、塩を取り巻く環境は厳しいが、創業以来の事業である塩事業を切り離すことは考えられない。数量が減少する中で、いかに利益を確保していけるか。効率化をさらに進め、塩で利益がしっかりととれる仕組みづくりを行い、万全な塩の供給ができるよう努めていく」
【2025(令和7)年3月21日第5190号9面】
静岡塩業
https://www.shizuen.co.jp/
静岡塩業株式会社(静岡県静岡市)は鈴与グループの塩元売企業として、塩製品や食品加工用素材を幅広く取り扱う。近年は調味料や健康食品向けの原料供給が好調に推移し、前期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。水野直人社長は、人口減少や高齢化により、塩を取り巻く環境が厳しくなる中、DXなどにより効率化をさらに進め、塩でしっかりと利益がとれる仕組みづくりを行っていきたいと話した。
(藤井大碁)
―貴社の歴史。
「1947年に塩元売人の指定を受け創業した静岡食塩株式会社がベースとなっている。54年に静岡塩業株式会社に社名を変更。62年に塩元売の兼業禁止が解除されたことを機に、いち早く食品加工用素材の事業をスタートした。現在の取扱い品目は、塩製品が約700アイテム、食品加工用素材が約1300アイテムとなっている」
―現在の事業内容。
「塩卸売、食品加工素材卸売を中心に展開している。売上に占める割合は塩が3割、食品加工素材卸売が7割程。そのうち、業務用が98%、家庭用は2%となっており、圧倒的に業務用の割合が多い。当社の特徴として、塩の売上においては、遠洋カツオ漁向けの需要が大きなウエイトを占めている。カツオの鮮度を保つためのブライン凍結に塩が使用されている。焼津港は2024年に2位に転落したものの、それまで8年連続で日本一の水揚げ金額を誇った日本を代表する漁港。その関係から、塩の卸売り先は、遠洋カツオ漁向け以外にも、缶詰など水産製品向けが多い。また近年、伸長しているのが食品加工用素材。特に調味料や健康食品向けが好調だ」
―直近の業績。
「前期2024年3月期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。塩は値上げの影響で数量が減少したものの、単価が上がったため売上は上昇した。健康食品やペットフード向けの食品加工用素材が特に好調だった。だが今期はここまで厳しい状況が続いている。物価上昇による消費者の節約志向もあり、食品の購買点数が減っており、塩や食品加工用素材の引き合いも減少している。また、昨年は紅麹問題の影響もあり、健康食品向けの需要も伸び悩んだ」
―今後について。
「2021年から全社でDXを推進し、ペーパーレス化など様々な取組を通して業務プロセスの改善を進めている。また物流業務の改善にも着手している。物流費が上昇する中、配送ルートや配送頻度などを見直し効率化を図っている。人口減少や高齢化が進む中、塩を取り巻く環境は厳しいが、創業以来の事業である塩事業を切り離すことは考えられない。数量が減少する中で、いかに利益を確保していけるか。効率化をさらに進め、塩で利益がしっかりととれる仕組みづくりを行い、万全な塩の供給ができるよう努めていく」
【2025(令和7)年3月21日第5190号9面】
静岡塩業
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