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インタビュー2019

トップに聞く

大阪府漬物事業協同組合 理事長 林野雅史氏

〝温故知新〟姿漬けに着目
製販一体の取り組みも鍵に
 
関西地区では秋から冬にかけ、かぶらを使った商品の割合が増えてきている。今年は現在のところ原料面での深刻なマイナスがなく、順調なシーズンになることが期待されているが、堺共同漬物株式会社(大阪府堺市)の林野雅史社長は、〝温故知新〟の商品作りが、かぶら商品の未来を創ると指摘する。またなにわの伝統野菜・天王寺かぶらに関しては、大阪府漬物事業協同組合理事長の立場から、改めて製販一体となった取り組みの必要性を語った。
(門馬悠介)
◇ ◇
‐関西エリアの原料状況。
「台風19号が関東・中部地区などに大きな被害をもたらしたが、関西のかぶら産地では、最悪の事態を避けることが出来た。滋賀では高温障害によって一時的に千枚漬用のかぶらがタイトになったが、地元の泉州地域では、9月10日頃までに播種したものが順調に育っている。当社では10月の後半から中かぶらを姿漬けにした『秋かぶら』という商品を発売しているが、原料面は概ね順調だ。浅漬の動きが鈍い中にあって、売れ行きも健闘している」
‐かぶら関連の商品展開について。
「地元産の原料を使うことに加えて、姿漬けに力を入れて行くべきだと考えている。かぶらをはじめとした浅漬類は、元々姿漬けが主体だったところからライン化しやすい刻み物へと移行して来た歴史がある。特にかぶらの姿物は皮むきが全て手作業のため人手不足の中では製造しにくく、このまま行けば、ベテラン従業員の定年退職によって漬け手の現場力が薄まってしまう危険がある。職人による技術の伝承という観点から姿漬けは重要な位置づけで、結果的に他社にない商品作りをすることは会社の生き残りにも繋がる。また今年は中かぶらの姿漬けが好調なのを見ると、古い商品設計が今の市場では逆に新鮮に捉えられているとも感じる。〝○○クラシック〟のようなイメージでリバイバル商品を展開するなど〝温故知新〟の取り組みが、今後の業界活性化に繋がる可能性もあると思う」
‐かぶら商品の可能性。
「消費の場面が変わり、新しいマーケットを創出しなければならない中で、旬のかぶらは業界として大事にすべきだと考えている。なぜなら、かぶらは素材として生で食べても美味しく、かつ主力の用途が漬物だからだ。中かぶらの時期にはかぶと共に柔らかい葉先を食べていただき、大かぶらが出て来た時期には、かぶを主体で食べていただくなど、食べ方を変えることで旬を感じることが出来る。野沢菜の親としてのストーリー性も合わせてPRするなど、様々な方法が考えられると思う」
‐なにわの伝統野菜・天王寺かぶらについて。
「市場から失われた野菜だったところから組合として取り組みを始めたのが2002年だが、今は再び製販一体となった動きが必要だ。伝統野菜の特性として安定的な原料入荷が難しいため、当初はそうした点に理解を得ながら商品を展開して行ったのだが、ここ2年は大型台風による被害が顕著だった。そのため販売期間を限定せざるを得ず、やや足踏みの状況になっている。播種から収穫時期までを見越し、産地作りへの協力をお願いしながら、もう一度製販一体の取り組みを進めて行きたい」
‐組合としての動きについて。
「天王寺かぶらに加えて天満菜など冬の伝統野菜共通だが、各社のニーズに合わせた栽培計画を調整出来なかったのが反省点だ。はじめは浅漬用に小ぶりなまま収穫し、その後は古漬用により大きく成長したものを収穫するなど、方法を模索する必要がある。なにわの伝統野菜普及のための次のアクションは、次年度に向けた課題だと思う」
【2019(令和元)年12月9日第5003号6面】
 
大阪府漬物事業協同組合→こちらから
食料新聞電子版「バイヤー必見イチ押し商品」サイト→こちらから
堺共同漬物株式会社 http://www.mizunasu.co.jp/

理事長に聞く

山形県漬物協同組合 理事長 近清剛氏

新認定事業「山形発酵漬物」 
行政とタイアップで価値向上
 
山形県漬物協同組合理事長で、山形県食品産業協議会やまがた食産業クラスター協議会会長も務める近清剛氏(株式会社三奥屋社長)にインタビュー。赤かぶや青菜など原料状況の他、10月1日にスタートした新事業「山形発酵漬物」の概要などについて話を聞いた。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐赤かぶと青菜の作柄は。
「赤かぶ、青菜ともに豊作型となっていて、各社ともに予定数量を漬け込むことができたと思う。特に赤かぶは不作が続いていて昨年も欠品となってしまっていたので、一安心している。赤かぶは山形の冬を代表する漬物で、最近では首都圏でも定番になっている。ここ1、2年は原料不足で積極的な販売をすることができなかったが、今年は原料面に問題がなく、安定供給が可能となっている」
‐組合事業として「山形発酵漬物」がスタートした。
「同事業は組合に加盟している組合員が製造するもので、乳酸発酵及び発酵熟成漬物から成り、東京家政大学の宮尾茂雄先生の指導の下、基準を作ってそれを満たしたものを認定する事業。認定された漬物は認定マークを貼って販売することができる。現在、10社28品が認定されている。この事業は山形の漬物の価値を高めることを目的に県から補助を受けている事業で、2年をかけて10月1日に完成した。一企業だけで特産品を作り、産業力や風土力を高めることはできない。最も重要なことは行政とタイアップすること。県の協力やバックアップをいただくことで、付加価値を高めることができる」
‐事業の目的は。
「このような事業を行っている一番の目的は、山形の漬物と漬物産業の価値をワンランクアップさせるためで、未来に続いていくものだと思っている。毎年、上山の春雨庵で行っている沢庵禅師供養祭『香の物祭』や4年に一度開催している山形県漬物展示品評会も同じ目的を持って取り組んでいる。そのような事業を続けていくことでパブリシティも増えて特産品の価値向上につながる。また、認定マークは1枚5円で販売するので、組合の運営費が増える。組合運営にとっても有益な事業だ。全漬連が実施している発酵漬物認定委員会を否定するわけではないが、発酵漬物は全国に存在するので全国版の基準を作るよりも地域ごとの素材を研究して認定する方が特産性の訴求につながると思う。私は発酵漬物認定委員会の副委員長を拝命しているのだが、各都府県の組合におかれては是非、このような取り組みを行っていただきたいと考えている」
‐行政との関係性。
「地方の農産物はそのままでは特産品にならず、その多くは漬物に加工され、受け継がれてきた。我々の産業は農業にとっても重要な存在で、行政の支援を受けることができる。全国には地域ごとに特産野菜が存在する。漬物産業はそれを加工し、販売する努力をしなければならないが、それは自分たちだけの産業ではなく、農業を支えることにもつながる。そのようなことには行政も協力してくれるので、まだ行政と関係が作れていない組合は早期にパイプを構築することが重要だ」
【2019(令和元)年12月16日第5004号8面】
 
株式会社三奥屋 https://www.mitsuokuya.co.jp/

2019年9月23日号

「新社長に聞く」
株式会社山重 代表取締役社長 杉山 博氏

新しい需要を創造する 原点回帰で商品開発推進
株式会社山重(埼玉県三郷市)は、漬物をはじめ日配のプロとして全国に物流網を持つ一次荷受問屋。同社の特長として、単に商品を物流に乗せるだけではなくメーカーと商品を共同開発して企画・売場提案を行いながら量販店、外食、中食、ベンダーなど様々な販売チャネルに供給。開発力と提案力を併せ持つ同社は業界内外から高く評価され、信頼も厚い。2019年6月27日開催の定時株主総会で社長に就任した杉山博氏に今後の抱負や荷受問屋に求められている役割などについて話を聞いた。
(千葉友寛)
 ◇  ◇
‐社長就任の抱負を。
「私は山重に入社して36年、そのうち30年近く管理部門を担当していたので、社長になるキャリアを決めたここ数年、組合への参加、営業担当と一緒に取引先を回ることにより、業界の構造を肌で感じてきた。メーカーや問屋がここ数十年で淘汰されている業界の中で、それなりの覚悟がないと社長はできない。私なりの戦略をしっかり立て、起業家後継社長として、先代が築いた山重を100年企業となるよう、決意と覚悟を持って社長就任を決断した」
‐御社の強みは。
「全国のメーカーとつながりがあり、物流網を構築しているので各地の特産品を供給することができる。東日本の販売物流についてはしっかり定着してきたが、東日本以外の物流については様々な経営判断が必要になってくる。弊社で物流センターを持っていることも強みで、日配品のピッキングもできる。また、地域だけではなく、小売店の特徴によってもニーズが異なるため、お客様が求めるものを提供することが問屋の役割であり、我々の使命でもある。そのためには品揃えや情報、経験は大きな武器になる。今後もそのようなところを強化していきたい」
‐業界の課題について。
「漬物業界の需要が低迷しているが、低価格競争、生活習慣病等その要因を冷静に分析しないといけない。その分析の基に、新たな需要層に対する商品をメーカーと一緒に開発していきたい。それは弊社が昔からやってきたことで、新しい需要を創造していかなければ会社としても業界としても伸びることができない。また、新しい販路の開拓も必要だ。従来の売場だけではプラスアルファにはならない。新商品を出しても既存品との入れ替えだけでは売上が増えない。売場や業態を含め構造的に従来とは異なるところに提案していく必要がある」
‐漬物の魅力や可能性について。
「旬の野菜や健康機能性ということもあるが、一番は伝統食品であることで、海外へ発信したい。海外からの観光客が増えている中で来年は東京オリンピックが開催される。オリンピックは日本の伝統食品をアピールする絶好の機会になる。試食販売ができればより効果的で、試食を提供できる店を持っている企業はそれを生かさない手はない。日本に来られた海外の方に日本食には漬物は欠かせない存在で、美味しさを知っていただき、大きな流れが生まれればと期待すると共に、漬物を日本の伝統食品として如何にして提供すべきか、戦略を緻密に考えていきたい」
‐問屋に求められる役割は。
「時代によって求められる役割も変わってくるが、単に商品を卸すだけでなく、消費者が漬物に対してどのように考えているか構造的に考察し、弊社が昔からやってきた新商品をメーカーと共同して開発していく、という取組みを改めてやっていきたいと考えている。また、漬物の需要を拡大するためには、試食を提供してまず食べていただくことが重要。漬物の魅力を知っていただくためには対面販売が最も良いやり方だと思うので、今後はそのようなことも考えながら事業を進めていきたい」
【2019(令和元)年9月23日第4993号2面】
 
株式会社山重 http://www.t-yamajyu.co.jp/

2019年4月15日号

「トップに聞く」
関東屋またの食品株式会社 代表取締役社長 俣野貴彦氏

野菜を軸に惣菜進出 「食べたい」思わせる商品提案
関西トップクラスの規模で漬物の製造・販売を行う、関東屋またの食品株式会社(本社=兵庫県伊丹市)。カット野菜・サラダ等惣菜の製造にも力を入れており、現在では売上高の2割近くまで成長した。今回、俣野貴彦社長に漬物と惣菜についての考えや、今後の方針を聞いた。
(小林悟空)
◇ ◇
‐5月に決算を控えているが、状況は。
「昨年度と比べ売上、利益とも改善する見込みだ。売上の約7割を占める卸売業において、昨年は梅干やキムチの動きが良く、全体を押し上げる結果となった。また製造事業については前期に比べて漬物、惣菜とも原料である野菜の調達が容易であったことが改善に大きく寄与した」
 
‐惣菜進出の背景。
「人の胃袋には上限がある以上、漬物のライバルは漬物だけでなくあらゆる食品だと言える。日本は人口減少、高齢化でますます小さく、少なくなる胃袋の取り合いになる。食生活の欧米化や原料野菜の価格高騰等の要因から漬物が苦境に立たされている状況下で、培ってきた技術やネットワークをどう生かしていくかを考えた結果、カット野菜やサラダ等、野菜を軸とした惣菜の進出へ行き着いた。今では漬物を大きく超える製造額に成長している」
 
‐漬物売場と惣菜売場の違い。
「来訪者の商品の選び方が違ってくる。漬物売場の場合、元々漬物に馴染みのある人が目的を持って訪れる。味や価格を見る目もシビアだ。一方惣菜の場合、その日食べたいものをその場で見つける買い方になるので、どれだけ魅力的に見せられるかが重要になる。これまで漬物に関心がなかった人に対しても偶然の出会いを演出できる」
 
‐商品提案のポイント。
「食品を選ぶ動機は主に『食べたい』『(家族や友人に)食べさせたい』『食べなくてはならない』であり、どこに訴求するか。昨年は異常な猛暑により、梅干は体を守るため『食べなくてはならない』ものとなり、飛ぶように売れた。健康機能性は漬物の強みの一つであり、業界で進める『発酵漬物』認定制度にも期待している」
「『食べたい』『食べさせたい』と思わせるには、より深く消費者の欲求に寄り添う必要がある。いま弊社では営業、商品開発ともに若い社員が男女で活躍していて、見た目も味も細やかな気遣いのある商品が増えてきたと思う。それでも消費者の心理は複雑で、最終的にはトライ&エラーで微調整を繰り返している。漬物もそうだが、特に惣菜については週単位で商品提案を行っている」
 
‐野菜価格が不安定だが、どう利益を確保するか。
「弊社では契約栽培を推進しているが、前提となるのは、農家と弊社双方にメリットのある契約関係だ。異常気象が毎年起こる中で、安心して農業を続けられる環境を整えていく必要がある。また、農家同士の交流会や勉強会を開き信頼関係を構築するとともに、自然環境の変化に対応していかなければならない。農業は担い手不足、高齢化が心配されるが、やる気のある農家も多い。大口の需要者である我々が率先してサポートをしていくべきである」

‐今後の戦略は。
「価格ではなく見せ方、売り方で訴求していけるよう力を入れている。スーパーマーケットに加えドラッグストアやECが食品購入の選択肢となった状況下で、価格競争一辺倒になれば全員が疲弊していく。『食べたい』『食べさせたい』と感じ、選んでもらえる価値ある商品作り、品揃えを目指していきたい」
【2019(平成31)年4月15日第4974号1面】
 
関東屋またの食品株式会社  http://kantoya.net/

2019年4月1日号

福島県特集「理事長に聞く」
福島県漬物協同組合 理事長 菊池利幸氏

県内発酵3団体で連携を 自助努力が変化生み出す
福島県漬物協同組合は2018年度、東北経済産業局による支援事業〝TOHOKU地域ブランド創成支援事業〟に採択されたことを受け、昨年から専門家を交えての活動を行う。日本酒・味噌・醤油といった多彩な発酵食文化を背景に行う新たな試み、そして震災から8年を経た今について、菊池利幸理事長(菊甲食品社長)に聞いた。
◇ ◇
――震災から8年、風評被害の現状について。
「行政機関からの支援や8年という時間が経過したことで、県外からの風当たりは当初と比べ収まって来たように感じる。ただしこれが意味するのは、我々県内企業がようやく一般的な経済活動のステージへ戻って来られた、ということ。一度棚から外れた商品を再び戻すのは容易ではなく、厳しい現状に変わりはない。一度消費者離れが起きた現実に、今後も対応して行かなければならない」

――県内漬物業界は。
「組合に所属する各企業が現在力を入れている商品を見ると、8年前とは全く異なるものが並ぶ。これは業界が大きく変化する中で、各社が自助努力を進めて来た賜物だと思う。また産地という面では、福島は夏秋胡瓜の大産地だ。これは適地適作の気象条件に加え、長年蓄積した栽培技術や生産者同士の繋がりがあってのもの。昨年の相場や状況を振り返ると、福島は今後も産地として優位性を持ち続けると考えている」

――東北経済産業局による支援事業応募の経緯。
「福島県は太平洋側から浜通り、中通り、会津地方と3つの地域に分かれ、それぞれ固有の文化を有する。その地理的な条件が様々な伝統食品を生んだ反面〝福島の漬物〟という共通イメージが持ちにくかった。これを受け、組合として漬物の将来へ向けた活動が出来ないかと考えて事業へ応募し、昨年10月から活動が始まった」
 
――今後の事業見通しは。
「2019年度は、今まで3度にわたり協議したアクションプランに基づき取り組みを具体化する段階だ。この事業とは別に、昨年は県中小企業団体中央会の主催で、福島県味噌醤油工業協同組合・福島県酒造協同組合・当組合が連携した初の展示商談会が行われた。日本酒が県内醸造業を牽引する中、当組合でも関連付けた方向を考えて行きたい。味噌と醤油・日本酒・漬物と発酵食品3団体が連動することで、その位置づけはより確かなものになる。また漬物業界では現在、全漬連が発酵漬物認定制度を進めており、そうした制度も活用して行きたい」
 
――事業が活性化する中、組合の情報発信について。
「支援事業の取り組みを進める中で、外部の方々が当組合のHPを閲覧いただいていることが分かり、組合単位での情報発信の必要性が改めて明らかになった。今後は組合員の皆様から協力を得て、より活性化して行く考えだ」
【2019(平成31)年4月1日第4973号4面】
 
菊甲食品株式会社  https://www.kikukoh-foods.com/
 

 
福島県特集「この人に聞く」
森藤食品工業株式会社 統括本部長 森藤洋紀氏

ブログや地域密着鍵に 想いと経済のバランスを
森藤食品工業株式会社は、ロングセラー「福島りょうぜん漬」や名産「いか人参」の好評を受け、今期は県内アンテナショップ・通販・卸の3部門とも昨年を上回る動きを見せている。統括本部長の森藤洋紀氏は、商品開発や仕入れに携わる傍ら、900日以上にわたって毎日ブログを更新し、発酵食品の魅力を伝え続けるなど消費者への情報発信に努めて来た。こうした取り組みの背景や、今後地域に密着した取り組みを強化したいとする考えについて聞いた。
◇ ◇
――950回を超えた、自身のブログについて。
「SNSが乱立していた2年ほど前、読んで良かったと思われるような情報を伝えること、また当社の商売に繋げることを目指し開始した。その結果自分への変化としては、様々な物事へのアンテナを張ることが、出来るようになった気がする。また社外で様々な活動をする中で、ブログの記事を参考にしたとの声をもらうなど、嬉しいことに反響をいただいている」
 
――ブログの主なテーマとしている和食や漬物の魅力。
「まず自分にとって契機となったのが、福島市が主催した企画で県出身の小泉武夫先生の講演を聞いたこと。私はそれまで漬物に新しさ・奇抜さが必要だと考えていたが、漬物の持つ発酵食品としての凄さに気がつき、自分を見つめ直すことになった。ブログで一番伝えたいのは〝バランス〟の重要性だ。例えば腸内細菌も悪玉菌がゼロになるのは望ましくなく、善玉菌・悪玉菌のバランスが鍵になる。和食も五大栄養素のバランスが大切で、体に良い食材も摂り過ぎは良くない。バランス良い食生活が大切だと言うのは今更言うまでも無いが、当たり前だからこそ改めてその大切さを訴えて行きたい。またこの間学んだ知識や経験は、今後の事業にもプラスしたい部分だ」
 
――現在具体的に取り組んでいること。
「地元に根ざした取り組みを強化している。元々県内産の胡瓜は使っていたが、最近は隣町の生産者が育てたものなど、より地元に近いものを使用する。また幻の伝統野菜・〝信夫冬菜(しのぶふゆな)〟を用いた商品の開発・販売は、4年前から継続して行っている。想いと経済の両立は難しさもあるが、今後上手くバランスを取って行きたい」
 
――ロングセラー〝福島りょうぜん漬〟について。
「これは創業者の祖父が、地元で言い伝えられて来た民話に登場する漬物を再現したもので、私が生まれる前から販売している。そのルーツは500年以上前まで遡り、こうした食文化を継承して行くのが福島りょうぜん漬の役割だ。イベントに出店し若い方に食べていただいた際、非常に良い反応をいただくと、商売をして来た甲斐があったと実感する。市場では真新しい商品が必要とされる一方、私は既存商品の潜在能力を今よりも高めることが可能だと考えている。今後もまだ見ぬお客様に商品を届けられるよう、取り組んで行く」
【2019(平成31)年4月1日第4973号5面】
 
森藤食品工業株式会社  http://www.ryozenzuke.jp/

2019年3月25日号

トップに聞く
東京中央漬物株式会社 代表取締役 社長 皆川昭弘氏
 
専業問屋の強みを発揮 ハサップ対応で衛生管理
東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(皆川昭弘社長、東京都江東区豊洲)は昨年(2018年)10月に築地から豊洲へ移転。新天地で更なる飛躍を目指す同社の皆川社長に移転後の動きや漬物の動向などについて話を聞いた。
(千葉友寛)
◇ ◇
――今年度の漬物の売れ行きについて。
「時期や品目によって波が大きかった印象だ。弊社の数字で言えば6月から9月までの4カ月は良かったが、11月、12月、2月は悪かった。6月から9月は梅干がけん引し、キムチや酢漬、麹関連商品も堅調だった。梅干はテレビで健康機能性が紹介されたことや猛暑が続いたこともあり、熱中症対策のアイテムとして爆発的な伸びを見せた」
 
――昨秋以降の動きは。
「野菜が安くなったことが大きく影響し、白菜を主軸とする浅漬を中心に売れ行きは悪くなった。原料が豊富にあることは良いことだが、そのような時は製品が売れないケースが多く、その悩みを解決することは難しい。だが、同じ白菜を主原料としながらも好調なのがキムチ。原料が安定しているので利益を確保することができた。野菜が安くなると漬物が売れなくなる、というのは以前からあった流れだが、必要がある時は購入するが必要がない時は購入しない、という線引きがはっきりしてきている。漬物は食卓の主役ではないが、毎年発生する野菜の価格変動に左右されず、必要とされる存在にならなければならない。ずっと好調が続いている梅干、キムチ、酢漬は健康面から見てもなくてはならない存在となっている。商品だけではなく、企業にも言えることだが、お客様に必要と感じていただけるような付加価値を訴求することが重要だ」
 
――業績について。
「今年度は売れ行きに非常に波があったことや豊洲移転、口座変更の発生など幾つかのマイナス要素があるものの、2月までは若干プラスで推移している。まだ確定していないが、3月を含めると前年比で微減になると見ている」
 
――漬物業界の動向と専業問屋の役割について。
「小ロット対応のメーカーは、大ロットで物流費を抑えられる大手に価格面で劣勢となる。企業格差が広がっていくのは時代の流れでもあり、縮小傾向にある日本のマーケットの中で急速に伸びる企業もあれば、急激に下降するところも出てくる。漬物業界もここ10年で寡占化が進み、問屋卸の荷受けはほぼなくなった。物流の大手に量や価格で勝つことは難しいが、逆に言えば大手にはできないことをしていけば生き残ることができる。我々は全国にあるパイプを生かし、地域色があって美味しいものを供給させていただいている。誰でも知っている商品だと大手も供給することができる。これまで培った経験と知識、全国のメーカー様と構築している信頼関係を活かし、今こそ専業問屋としての強みを発揮していきたいと思っている」
 
――2020年東京オリンピックを控え、国内外の需要増が期待される。
「海外から多くの観光客が訪れると思うし、国内の市場でも需要の増加が見込まれる。特に業務筋はチャンスととらえ、力を入れる必要がある。だが、オリンピックの需要はあくまでも短期間で、ずっと続くわけではない。もちろん、次につなげるための努力は必要だが、ラインや工場の増設などについては慎重な対応が求められる。弊社では昨今の流れに対応すべく、東京都中央卸売市場が作った品質・衛生管理マニュアルのガイドラインを参考にしてハサップの考え方に基づいた衛生管理の体制を構築する。すでにチームを立ち上げて、年内中の運用を目指している。このような取り組みを早めに行っていくことで更なる信用や信頼につなげていきたい」
【2019(平成31)年3月25日第4972号1面】
 
東京中央漬物株式会社  http://www.c-z.jp/

2019年3月18日号

関西浅漬・流通特集「理事長に聞く」
大阪府漬物事業協同組合 理事長 林野 雅史氏
 
大消費地大阪で地産地消を 水なすは苗の出荷減も
大阪府漬物事業協同組合の林野雅史理事長(堺共同漬物社長)にインタビュー。大阪が〝天下の台所〟として商業都市に発展した背景を生かし、今後さらに漬物産業を発展させたいとする考えなどを聞いた。
◇ ◇
‐漬物製造など多くの伝統産業が息づく商都・大阪の歴史的背景について。
「大阪はかつて水の都と呼ばれた通り、水運により発展した土地。中でも国内外の海運拠点となった堺市は、技術や文化の発信地として栄えた。鉄砲・タバコ包丁をはじめ様々なものが発信され〝ものの始まりなんでも堺〟という言葉も生まれた。食品関係では、北前船が昆布を運んだ〝昆布ロード〟が日本海を経由して堺港まで続き、運ばれた昆布は大阪で加工され全国へと出荷されていった。また堺市福田一帯はかつて唐辛子の大産地としても知られるなど農業の面でも重要な役割を果たしていた」
 
‐そうした中、泉州水なすやなにわの伝統野菜など、独自の野菜栽培が行われた。
「大阪湾沿岸に広がる大阪平野は、淀川や大和川が氾濫して運んだ肥沃な土壌を持つ。これによって野菜生産に適した土地が形成された。そこへ唐辛子をはじめ全国各地の種子が堺港から集まってきたことで、多様な品種が生まれたと考えられる。このことが天王寺蕪、田辺大根、毛馬胡瓜、天満菜といったなにわの伝統野菜、そして泉州地域以外では同じ品質に育たない泉州水なすの存在に繋がっている」
 
‐このような大阪の魅力を消費に繋げるために。
「近年注目されるエシカル消費やSDGs、フードマイレージの考え方など、社会や環境に優しい消費活動を志向するトレンドが鍵になると考えている。大消費地である大阪で、歴史的に裏づけられた様々な食材の地産池消を進めて行くことは、漬物の地位向上にも繋がる。また全国各地の漬物を大阪で販売するのも商業都市として発展して来た流れに合致する部分で、さらに強化して行きたい」
 
‐泉州水なすの産地は昨年台風21号による大きな被害を受けた。組合の要請による公費投入が実現したが、今年の状況は。
「シーズン序盤に収穫するハウス用は年明けから定植がスタートするが、苗の出荷量が例年より1~2割ほど減り、今後全体の数量に影響して来る可能性はある。ただし今年は平年よりも気温の高い日が続くと予想され、現状では作柄についての予測は難しい」
 
‐今年の販売戦略。
「3月末頃から徐々に出荷を開始し、例年通り本格出荷は4月下旬からになりそうだ。ブランドを維持するためには、季節性を明確にし限られた時期にしか食べられない〝旬の食材〟として販売することが必要だと常々考えているが、品薄となるリスクを考慮し、何時にも増して丁寧に販売して行く形になると思う。ちょうど新元号に変わる5月頃から、しっかりと売っていけると考えている」
【2019(平成31)年3月18日第4971号2面】
 
堺共同漬物 http://www.mizunasu.co.jp/
 

 
関西浅漬・流通特集「トップに聞く」
株式会社マツモト 代表取締役社長 松本智文氏
 
付加価値型商品に活路 きゅうり一本漬やキムチで
株式会社マツモト(松本智文社長、大阪府門真市)では近年、同社が力を入れる差別化商品が注目を集めている。丸かじり出来る手軽さからCVS等で売上を伸ばす「きゅうり一本漬」、3種の植物性乳酸菌が配合され、3種の唐辛子を独自配合でブレンドした「松本さんちの白菜キムチ」と人気の2品について、松本社長に話を聞いた。
◇ ◇
‐〝きゅうり一本漬〟について
「元々15年ほど前に発売した商品で、当時は全くと言ってよいほど売れなかったが、それが最近になって伸びて来た。季節柄1・2月の真冬は落ち着く時期だが、3月に入ってまたじわじわと伸長して来ている。特徴としては、胡瓜を丸ごと一本漬けた極めてシンプルな味付けで、手軽に塩分補給が出来る商品だ」
きゅうり一本漬
 
‐購入シーンをどう見るか。
「本社前の直売店では部活帰りに1本購入してくれる学生がおり、他店でもそうした固定客に支えられている形だと思う。頑張った日のご褒美にルーティーンの一部のように購入する、謂わば〝プチご褒美漬物〟と呼べるような位置づけだ。水なすのように家族の食卓に上がる漬物ではなく、購入者が自分だけで楽しむための存在なので、レパートリーを増やすよりも今の味を大切にすることが重要だと考えている」
松本さんちの白菜キムチ
‐〝松本さんちの白菜キムチ〟について
「これは内容量200gの自家製キムチで、まとめ買いするヘビーユーザーがいる商品だ。100人のうち1人かもしれないが、需要にしっかりとはまっている。こうした商品は例え直ぐに大きな売上に繋がらなかったとしても大切にしたい。3種の植物性乳酸菌入り・唐辛子の独自ブレンドといった特徴が響いたのかと思うが、要因を掘り下げて今後に繋げて行きたいと考えている」
 
‐今後の商品開発に関する取り組みについて。
「昨年から今年にかけては台風時に鉄道各社が予め運休を告知したり、24時間営業の見直し機運が高まったりと、平成の時代が終わりを迎えるにあたって大きな潮目の変化を感じる。食品異業種で値上げが相次ぐ中、当社では前述の2品のようにヘビーユーザーが着く付加価値型商品を開発する必要がある。発売した商品が売れた・売れなかったという理由を正確に分析するのは難しいが、なるべく客観的な考察に基づき、取り組んで行きたい」
【2019(平成31)年3月18日第4971号2面】
 
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