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インタビュー2024

12月21日号 <東北特集 理事長に聞く>

山形県漬物協同組合 理事長 鈴木尚彦氏

漬物の需要はあると実感 組合活動で価値を高める
 昨年4月の総会で山形県漬物協同組合の理事長に就任した三和漬物食品株式会社(山形県東置賜郡高畠町)社長の鈴木尚彦氏にインタビュー。今年2月に開催した第15回山形県漬物展示品評会、11月24日に開催した沢庵禅師供養祭など組合の行事や取組について話を聞いた。生産者の減少や原料不足といった課題が山積する中、改めて歴史や伝統を通じて漬物の価値を高めていく考えを示した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年2月に6年ぶりに第15回山形県漬物展示品評会を開催した。
 「コロナで2年延期となっていたため、実に6年ぶりの開催となった。その間、近清剛様より山形漬協の理事長職を継承し、私の理事長就任後は初めての品評会となり、組合員をはじめ東京家政大学大学院客員教授の宮尾茂雄氏ら審査委員の方、行政関係の方々、本当に多くの方たちのご協力をいただいて開催することができ、厚く御礼を申し上げる。品評会は昭和40年(1965年)にスタートし、諸先輩方が漬物の品質の向上と流通、消費拡大を目指して続けてこられた。今回は準備期間が長かったので、約1年前から毎月集まって打合せを行い、内容を検討してきた。品評会後の即売会では、SNSなどによる情報発信の効果でスタートから1時間あまりで完売した。また、6月1日と2日に山形市で開催された第3回『日本一美酒県山形』にブースを出展して漬物を販売したところ、こちらも好評だった。提案の内容や販売する場所によっては、まだまだ漬物の需要があるということを実感した。品評会は4年に一度の開催で間が空いてしまうので、販売会を1年に1回のペースで実施できないか検討しているところだ」
 ‐11月24日に沢庵禅師供養祭を開催した。
 「この行事も諸先輩方が続けてこられたもので、今回で43回目を迎えた。沢庵禅師は名僧だったが、徳川幕府によって流刑に処された。なぜ上山だったのか、罪人なのになぜ多くの人から支持されたのか、歴史を一つずつ紐解いていくとそれぞれに関わりがあり、世界が広がっていく。先人たちからの縁を大切にすれば沢庵や漬物の価値が高まり、上山の地域力も高まる。沢庵漬名称発祥の地となった上山市松山地区で収穫された大根で沢庵の漬け込み式を行うことに大きな意味があると思っている」
 ‐毎月経営塾を開催している。
 「税理士で組合顧問の奥山享先生にお願いし、各社の経営トップを対象に毎月1回、テーマを変えて経営塾を開催していただいており、毎回10名以上参加している。会社によって扱う品目は異なるが、人手不足や物流などは共通の問題で、どうやったら生き残っていけるのか、やらなければならないこと、やってはいけないこと、などについて貴重なヒントをいただいている」
 ‐山形名産の青菜と赤かぶの作柄は。
 「今年はどちらの作柄も良くない。猛暑や秋以降の生育不良等の影響で、ともに2、3割減と見ている。原料については引き続き厳しい状況だ。山形県では生産者とメーカーのマッチングを行う取組を実施してくれているが、農家が減少傾向にある中で解決策としては自分たちが原料を生産していくしか方法はないと感じている。あとは製品の価格を上げていくこと。原料も含めた仕入れ価格が上昇する中で、お客様に支持され続けるように我々は品質、味、ブランド力を高める努力を行っていくことが重要だ」
【2024(令和6)年12月21日第5182号4面】

福島県漬物協同組合 理事長 森藤洋一氏

「いか人参」の魅力を発信 発酵イベントで漬物PR
 福島県漬物協同組合の森藤洋一理事長(森藤食品株式会社社長)にインタビュー。食品産業を取り巻く環境や組合の取組などについて話を聞いた。同組合では特産品である『いか人参』をはじめ、県産漬物のブランディングを継続して推進。また、来年3月に開催される「ふくしまの酒・味噌醤油まつり」では、2年続けて組合ブースを出店し、発酵食品や酒のおつまみといった切り口で漬物の魅力を発信する意向を示した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐食品産業を取り巻く環境は。
 「厳しい状況が続いており、福島でも倒産、廃業が増えている。原料、調味料、電気、資材、物流とあらゆるもののコストが上がっていることに加え、物価も上昇している。だが、メーカーは値上げが簡単にはできない。漬物は他の食品と比べても値上げがあまりできていない。このままでは厳しい状況から脱却を図ることができない」
 ‐福島を代表する特産品『いか人参』の認知度が高まってきた。
 「メディアに取り上げられる機会が増えてきており、お土産としての需要も増えてきた。以前よりも認知度は確実に高まっている。だが、世界の気候が変動している影響で海水温が上昇しており、原料のいかの漁獲量が大幅に減少してきているし、人参も高値で推移している。特にいかは量が少ないため、お金を出しても買うことができなくなる可能性もあるくらい深刻な状況だ。福島は農水産物の宝庫で、野菜では胡瓜の産地として知られているが、胡瓜は全国で生産されているので希少価値が高いとは言えない。江戸末期が起源とされる『いか人参』は、大量に作れることができて保存がきくため、正月料理の箸休めとして、祝祭時の酒のおつまみとして地域で長く愛されてきた郷土料理。福島県北部は山間部のため海産物は手に入りにくく、するめいかは貴重な海産物でありタンパク源だった。県外ではまだまだ知らない人も多いと思うが、福島では県内北部を中心に全域で年中食されており、各家庭でこだわりや工夫をこらした『おふくろの味』として受け継がれている。歴史やストーリーがあり、福島の食文化を継承していきながら、その魅力を他の地域にも発信していきたいと考えている」
 ‐組合で推奨品マークの取組を行っている。
 「当組合では3年前から組合が認定する推奨品マークの取組を推進している。認定された商品はマークを貼付して販売することが可能なので差別化を図ることができる。また、組合で『いか人参』の商標登録についても申請中で、引き続き県産漬物のブランディングを行っていく」
 ‐今年3月に開催された「ふくしまの酒・味噌醤油まつり」にブースを出店した。
 「このイベントは県内の日本酒の53蔵元、味噌と醤油の12醸造業者が出店し、福島が誇る伝統の発酵食品が一堂に会す催しで、当組合も発酵つながりで今年初めて出店した。酒のつまみということで、漬物の売れ行きは予想以上に良く、用意していた商品は2日間ともお昼までには完売し、追加で商品を用意するほどだった。近年は漬物の消費量が年々減ってきていると指摘されているが、食べるシーンや機会を提供すればまだまだ需要はあると感じた。来年3月1日と2日に開催される『ふくしまの酒・味噌醤油まつり』では、ブースを広げて出店する予定。発酵食品やお酒のおつまみといった切り口で、漬物を広くPRしたいと思っている」
【2024(令和6)年12月21日第5182号5面】

秋田県漬物協同組合 理事長 木村吉伸氏

「いぶりがっこ」需要増へ対応 漬け液使用し“だし”も開発
 秋田県漬物協同組合の木村吉伸理事長(株式会社雄勝野きむらや社長)に組合事業や足元の販売動向などについてインタビュー。木村理事長は拡大するいぶりがっこの需要に対応するため、工場拡張などにより増産体制を整えていくと今後の方向性を語った。
(藤井大碁)
◇    ◇
 ‐いぶりがっこの動向。
 「秋田県内の販売は横ばいとなっているが、県外は好調で、関東、関西、九州方面も伸びている。スーパー向けの各種製品、業務用カット製品も引き合いが強い。居酒屋など外食からの需要もコロナ5類移行後、回復している。昨年の大根は前半が不作、後半のものは量はあったもののサイズに偏りがあったため、一部のニーズに応えられず、一時的に出荷できない時期があった。今年はしっかりと対応していきたい」。
 ‐今年の原料状況。
 「昨年よりも状況は良いものの、猛暑の影響など異常気象によって引き続き厳しい原料状況が続いている。限られた原料を大切に、付加価値を付けて販売していくことが求められている」
 ‐いぶりがっこの活躍の場が広がっている。
 「独特の食感と香りを料理に付加してくれる素材として、ポテトサラダ、パスタソース、タルタルソースなどの惣菜やジェラート、饅頭などのスイーツへ使用される機会が広がっている。そのまま食べる伝統的な食べ方の重要性も意識しながら、こうした新しい食べ方の可能性もさらに探っていきたい」
 ‐いぶりがっこの漬け液を使用した商品「いぶりがっこのだし」を発売した。
 「燻した大根を漬け込んだ後の漬け液を利用して、食品ロスの削減を図りながら、新たな価値を創出しようと考案した商品。秋田県総合食品研究センターの技術支援のもと、日南工業株式会社と共に開発を進めてきた。いぶりがっこの燻製香と旨味を持ち、幅広い料理に使用できる調味液となっており、既にビールやジェラート、ドレッシングなどに使用されている。秋田ならではの風味を添加できる調味料として提案していく」
 ‐組合事業について。
 「秋田県漬物協同組合、秋田いぶりがっこ協同組合、横手市いぶりがっこ活性化協議会の3団体共催により10月12日、秋田市中通の仲小路で、『秋田がっこフェス』を初開催した。会場内では、いぶりがっこを始めとした秋田県内の様々な漬物や漬物を使用したフードメニューを販売し、来場者から好評だった。今後もこうしたPR事業を通じて秋田漬物の魅力を発信していきたい」
 ‐雄勝野きむらやでは、『みずの実っこ』が漬物グランプリ2024でグランプリを受賞した。
 「様々なメディアで報道されたことにより、その反響は大きく、県内では、秋田の代表的な産品として、改めてフィーチャーされ、〝みずの実ブーム〟が巻き起こった。問い合わせはたくさん頂いたものの、販売できる量はすぐに完売した。12月中旬から今年とれたみずの実の新物を使用し、発売を再開しているので、秋田の郷土食であるみずの実の素朴で自然な味わいを楽しんでいただきたい」
 ‐今後について。
 「いぶりがっこについては、拡大する需要に対応できるよう、準備を進めていく必要がある。自社においても現在、来春の完成に向けて、工場の拡張工事を進めており、さらに生産効率を高め、増産できる体制を整えている。製造工程において、機械化できる部分は機械化を進め、伝統技が必要な部分に、その余剰人員をあてることで、効率化を図っていく」
【2024(令和6)年12月21日第5182号6面】

12月21日号 トップに聞く

有限会社土江本店 代表取締役社長 関谷忠之氏

原料野菜の自社栽培拡大 パウダー事業でチャレンジ
 有限会社土江本店(島根県松江市)の関谷忠之社長にインタビュー。同社は、中国・四国地方有数のメーカー・ベンダーで、創業76年の歴史を誇る。原料野菜の自社栽培量を年々拡大させ、冬の津田かぶ漬、夏の青しまね瓜漬が名物となっている。関谷社長の飽くなき探求心とチャレンジ精神が、ひしひしと伝わってくる。(高澤尚揮)
      ◇
 ー原料野菜の自社栽培量が年々拡大している。
 「津田かぶは約30年前、私が社長へ就任する時に栽培を開始し、現在は約300坪にまで拡大した。土作りから栽培管理まですべて自社社員が行っている。津田かぶは栽培する際、土が硬すぎても柔らかすぎても、勾玉状には育たないので、非常に細かい工夫が必要だ。今は農家の高齢化が深刻で、30年前から現在の状況を見越し、自社栽培に踏み切って良かったと思う。夏の青しまね瓜は、数年前に自社栽培を開始した。今では6次産業化が定番化したものの、全国に先駆けて実践したことを誇りに思っている」
 ー今年の津田かぶの状況は。
 「自社農場では、例年であれば8月上旬には種まきを行うが、今年は猛暑のため遅らせ、お盆明けに種まきを開始した。生育・収穫ともに例年より時期が遅れた。気温が高いと、害虫の繁殖が活発化するため、防除の手間が掛かってしまう。収穫は早いもので9月の下旬からスタートし、浅漬は手際よく商品供給を開始した」
 ー漬物以外の試みも。
 「私はSDGsの理念に強く共感しており、その理念に沿って自社はどう実践できるか考えてきた。メーカーが最初にできるのは、フードロスを減らすことだ。従来捨てられてきた津田かぶや柿の葉、魚の骨を水蒸気乾燥してパウダー化することにより、ぬか床に入れたりお菓子に入れたりして再利用できる。すでに、のどぐろや梅貝、アジなどのパウダー化にも成功している」
 ーパウダーの展開は。
 「現在、地元の和菓子屋さんと、津田かぶの葉のパウダーをおはぎに混ぜる試作を行っており、来年か再来年中の発売を目指している。津田かぶの葉のグリーンが鮮やかで、見た目も美しい。続々と、各地域の名産とコラボレーションしていきたいと考えている。チャレンジするのは楽しい」
 ー社長は島根愛がとても強い。
 「山陰浜田浜っ粉協議会会長を務め、浜田市の応援団、県の遣島使としても活動している。無報酬だが、島根の食や文化など魅力を全国の方々に伝えたい思いでいっぱいだ。今後も活動を続けたい」
【2024(令和6)年12月21日第5182号9面】

土江本店

12月21日号 トップに聞く

ヒロコンフーズ株式会社 代表取締役社長 田村満則氏

昆布減産で転換期に
問屋・メーカー二軸で売上拡大
 日本昆布協会会長経験者であるヒロコンフーズ株式会社(広島市安佐南区)の田村満則社長にインタビュー。今年の国内昆布生産量が過去最低の1万トン割れが確実となる中、昆布問屋(卸)とメーカー業2つの立場を併せ持つ同社は新製品開発やニーズの掘り起こしによる売上の維持拡大を図る。(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐昆布生産量が過去最低に。
 「30年前の3万トン時代から昆布生産量は年々減っていて、ついに1万トンを割った。当社を含め昆布を扱う事業者にとって危機的状況であるが、一方ではチャンスを見出すこともできる。コロナ禍中に温めていた対応策を実践している今は、当社にとって大きな転換期と言える」
‐昆布不足への対応策。
 「主原料が少なく高い中で利益を上げていくには生産性を上げる、つまりコストを抑えながら売上を維持拡大させていくことが必要。コスト抑制についてはアイテム数削減による効率化や、時差出勤による工場稼働時間・稼働率の改善、機械の新規導入などを推進している。今年は、昨年よりも少ない人員で売上アップを達成できた」
‐売上拡大について。
 「昆布問屋としてはまず仕入先を増やし、原料を安定確保できる体制を整えていく。その上で、これまで以上に細かなニーズを拾いつつ当社の負担にならない仕組みとして、小規模な料理店などに使ってもらう業務筋向けECサイトを立ち上げる計画だ」
‐メーカーとしては。
 「『技術を売る』という感覚を持ち、高付加価値な製品開発を進める。例えば昆布を粉末化すると、少量でもだしが出やすいので時短とコスト削減になるとチェーン店から好評頂いている。調味料などの食品メーカーからの問い合わせも来ている。また、おぼろ昆布の職人を育成し自社生産を始めた」
‐市販製品は。
 「市販製品では『もっとおいしくなる昆布』シリーズが順調。昆布は何にでも使えますよ、という従来のスタンスよりも、使い方を限定した方が手に取りやすくなったようだ。ネーミングや売り方次第で結果が変わるという成功体験は、今後の製品開発へのモチベーションになっている」
‐昆布以外への挑戦。
 「昆布以外にも広島県産しいたけや瀬戸内海小魚、枕崎産鰹節を使っただし、北海道産水産物を使った冷凍食品などを扱い始めた。昆布問屋として培ってきた販路を生かせる。取り扱う品目が増えてきたことで取引先や製品開発の幅も広がり、昆布事業にも好影響を与えている」
‐今後の目標を。
 「昆布は美味しく健康的であると再認識してもらい地位を向上させることは、ひいては産地保全にも繋がる。昆布は伝統産業であるがゆえに常識に縛られている部分もあったので、まだまだ変わる余地がある。新しい食べ方、売り方を積極的に提案し、持続可能な産業を目指したい」
【2024(令和6)年12月21日第5182号12面】

ヒロコンフーズ

12月1日号 トップに聞く

三井食品工業株式会社 代表取締役社長 岩田浩行氏

売上拡大へ5カ年計画
直営店増設や海外輸出目指す
 漬物のメーカーベンダーとして活躍する三井食品工業株式会社(岩田浩行社長、愛知県一宮市三ツ井)の岩田社長にインタビュー。同社は大正14(1925)年に創業。100年という節目を迎える今期から、販路拡大、直営店増設、海外輸出を軸として売上拡大を目指す5カ年計画を打ち出した。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
ー直近の市況を。
 「前期(7月決算)は2年連続の増収増益を達成できた。諸コストが上昇する厳しい環境下だったが、新規取引先の獲得や価格改定を含めた単価向上、コスト抑制を推進してきた結果であり、社員の頑張りに感謝している。しかし今期に入ってからは原料野菜が異常な高値で、正直なところ大幅に利益が削られている。コロナ以降4度目となる来春の価格改定を予定している」
ー創業100年の取組は。
 「社内的には社員やOBが集まって祝賀会を開いた。歴史を振り返って当社の強みを改めて認識し、今後の目標を全員で共有できた。また、記念ロゴマークの作成や、SKE48が歌って踊る当社のCMがテレビ愛知で放映されるなど対外的な周知にも取り組んでいる」
ー5カ年計画がスタートした。
 「2018年に社長就任して以来、二度の3カ年計画を通して利益体質の構築や働く環境の整備に取り組んできた。これらを基盤に、創業100年という節目の今期から売上拡大という方針を示した。対外的な課題であるためすぐに結果が出るものではなく、中長期的な取組が必要であり、5カ年計画とした」
ー売上拡大の具体策。
 「第一が販路拡大。漬物を様々なエリアやチャネルで販売していくのは勿論のこと、新たな分野にも挑戦し取引先を増やしていく。漬物製造で培った、野菜の加工という明確な強みを活かしていく」
 「第二に直営店『三井宮蔵』の店舗を増やす。現在は本社併設の一店のみだが、地元の方が土産や贈答に利用し、貰った方がその後自ら注文してくださるケースが出てきている。地元に根付く企業として、ブランドをしっかり認知してもらうためにも、テナント出店ではなく多くの方の目に留まりやすい路面店で物件を検討中だ」
 「第三に海外輸出。日本は人口減少〓パイの縮小は確実であり今後は売上維持すら難しくなる。海外ならまだまだ漬物は未開拓の市場がたくさんあるし、漬物が海外で知られるようになれば、将来的に旅行や就労目的で日本を訪れる外国人も漬物を食べるようになると期待できる」
ー野菜を軸としたSDGsにも取組む。
 「漬物を作り続けることは、それ自体が日本の食文化伝承となる。また野菜を安定的に購買することは農業を守り、食料自給率維持や田畑のある風景を残していくことにもなる。さらに農林水産省が『漬物で野菜を食べよう!』とポスターを作成してくれたように野菜摂取や発酵の力で健康にも貢献できる。100年間、野菜と向き合い続けてきた当社だからこそできるSDGsに取り組んでいきたい」
【2024(令和6)年12月1日第5181号8面】

三井食品工業

12月1日号 創業65周年インタビュー

大日食品株式会社 代表取締役社長  磯貝幸弘氏

供給力強みに首都圏進出
子育て世代に刺さる商品を
 今年で設立65周年を迎えた大日食品株式会社(磯貝幸弘社長、愛知県東海市)が、売上拡大に積極的に挑戦している。磯貝社長は、野菜の高騰や海外産の輸入が不安定な現状を、同社の強みが発揮される好機と捉える。(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
ー65周年を迎えて。
 「社内的なことになるが、11月2日に社員が集まり記念祝賀会を開催して結束力を強めることができた。創業者の精神『私個人のいのちはいずれ消え去ろうともこの事業は不死身として永遠に力強く燃え続けさせなければならない。』という言葉を用いてこの会社を80年、100年と続けて行かせるためにも若い人たちにもっともっと活躍してもらいたいと伝えた。皆様から必要とされ続ける会社でなければならないという事を全員で共有している」
ー業績は。
 「首都圏などで新規取引先が増えている。その尖兵となっている『新鮮生一本糖しぼり大根』の売上は前年比130~150%。原料野菜が高騰して利益を出しづらいが、それはどこの会社も同じ。海外産の輸入も不安定になっている今、安定した品質と供給力に強みを持つ当社にとってはチャンスと言える状況だ」
ー売上拡大に積極的だ。
 「当社はしばらく踊り場の状態にあったが、ようやく階段を一つ上がる時期が来た。2022年に東海工場の増築が完了したことで生産能力に余力ができた。また地元密着の姿勢や経営理念に基づくSDGsへの取組を明確にしたことで会社の印象も上がったのか、人材採用も順調で、新卒生が6名入社、中途採用も進めている。人手不足が解消されつつあり、層の厚い組織になってきた」
ーSDGsについて。
 「『愛知のキムチ』は県内の未利用資源を活用し、健康にも配慮した商品。この精神が評価をいただき、県内で非常に高い配荷率を持つようになった。漬物作りを通じた社会貢献をすることが当社にとって無理なく、最も有益なことだと思う」
ー商品開発の方針は。
 「漬物が好きかを問うアンケート結果は30年前とほとんど同じなのに、食生活が変わり、漬物を自分で買うという発想が抜け落ちているのが現状。将来を見据えてこれを解決するには、30代後半~50代前半、すなわち子育て世代に刺さる商品が必要。漬物は美味しくリーズナブルで、健康にも良い食材ということを表現していきたい」
【2024(令和6)年12月1日第5181号5面】

大日食品

12月1日号 トップに聞く

東洋ライス株式会社 代表取締役社長  雜賀慶二氏

美味しい玄米で新市場
健康性評価「医療費」に着目
 東洋ライス株式会社(和歌山県和歌山市)の「金芽米」「金芽ロウカット玄米」がコメ売場における付加価値商品として脚光を浴びている。特に「金芽ロウカット玄米」は玄米商品カテゴリー売上No.1を6年連続で達成、白米を含む米カテゴリー全体でも売上4位を達成する快挙を遂げている。開発を主導したのは雜賀慶二社長。1961年にコメの中から石粒を取り除く石抜選穀機を開発したのを機に創業。91年には初めて実用的な無洗米「BG無洗米」を開発、そして2005年に「金芽米」、15年「ロウカット玄米」と新たな市場を切り開いてきた。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐「金芽米」「ロウカット玄米」開発のきっかけは。
 「美味しくて栄養のあるお米を作りたかった。玄米のヌカ部分には人間に必要な栄養が詰まっていることは分かっていた。分かっているだけでも脂肪酸、アミノ酸、有機酸、ミネラル、ビタミン類など約160種類の成分がある。さらに最近の研究で、名前の付いていない、玄米独自の未知の栄養成分も存在していることも明らかになった。玄米食から白米食へ主食が移った元禄時代に『江戸患い(脚気病)』が流行ったというのは有名な話だ。では、そんな玄米が何故食べられなくなっていったかと言えば、美味しくないから。私自身も玄米食はすぐに挫折した経験がある。美味しくて栄養も残したお米があれば、たくさんの人の助けになるだろうと精米技術を試行錯誤し『金芽米』『ロウカット玄米』が生まれた」
‐健康性の評価に、医療費金額を活用している。
 「食品の一成分だけを抽出して摂り続けて、血圧や何かの指標を測るのが現在一般的な手法。しかしそれは食の在り方として不自然だし、長期的な影響も未知数。もっと総合的な健康の評価を探していた。そんな折、医療費が高く財政を圧迫している、との報道に着目した。すると日本の米消費減少と医療費増大のグラフはきれいに反比例を描いていた。さらに当社の年平均医療費を調べると、金芽米やロウカット玄米を提供している社員食堂のおかげか低い水準。納入している他社でも同様の結果が出てきた。この結果を論文として発表した」
‐地方自治体との連携を進めている。
 「一番の目的は玄米の栄養が残った米を日常的に食べることによる健康増進。日常的に食べて健康になれる我々のお米を『医食同源米』とし、その考えに共感いただき包括連携協定を結んでいる。健康増進に加えて和食文化の伝承、水田のダム効果による災害予防、食料自給率の改善、生産者の所得向上など様々なメリットに繋がっている。2022年に包括連携協定を締結した大阪府泉大津市では米のサプライチェーン改革にも取り組まれている。現在、40以上の自治体と調整を進めているところ」
‐今後の展望は。
 「昨年4月『医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム』を立ち上げた。健康増進による医療費削減を始めとした国難解決を目指す。各地で医食同源米が定着し、今後の提供ノウハウや健康への貢献データが蓄積され共有できるようになれば、加速度的に広まっていくものと期待している。食の力で人々の健康に、そして世界の幸福に貢献したいと願っている」
【2024(令和6)年12月1日第5181号8面】

東洋ライス

11月21日号 埼玉特集インタビュー

埼玉県漬物協同組合 理事長 鶴田健次氏

異業種交流でヒット商品を 埼玉工業大との連携深める
 埼玉県漬物協同組合の鶴田健次理事長(マルツ食品社長)にインタビュー。鶴田理事長は、組合事業として県内漬物メーカーと他食品事業者の異業種交流に力を入れることにより、商品開発が活発化し、業界の垣根を超えた画期的な商品が生みだされると語った。(藤井大碁)  
‐組合事業について。
 「埼玉県では今期、組合員が2社増えて30社となった。様々なコストが上昇する厳しい環境の中、組合員にとってメリットのある組合活動を展開していきたいと考えている。その中で力を注ぐ取組の一つが、県内食品事業者との異業種交流だ。埼玉県食品工業協会が昨年からスタートした情報交換会には、酒造・煎餅・菓子など県内の様々な食品事業者が出席しているが、現在は参加人数が限定されているため組合員の参加は難しい。希望する組合員がいれば出席できるよう、来年度から参加人数の拡大を要請したいと考えている。情報交換会には県の研究機関である北部研究所の職員も参加するため、商品開発のための技術提供をしてもらうことも可能だ。近年、企業間コラボにより、全国各地で様々なヒット商品が生み出されている。埼玉県においても組合員が各地域で他の食品事業者とコラボすることにより、業界の垣根を超えた画期的な商品が生み出されると確信している」
‐埼玉工業大との連携にも力を入れる。
 「以前から組合と埼玉工業大では、ぬか床の育成などを協力して行ってきたが、さらに連携を深め、乳酸菌の研究などを進めていきたい。深谷エリアには原料メーカーが多く、高塩分で乳酸発酵をさせている。これは特徴的なことであり、塩分に強い埼玉県オリジナルの乳酸菌が見つかるかもしれない。現在は腸まで届く酸に強い乳酸菌が求められているが、塩に強い乳酸菌も何かしらのニーズがあるかもしれない。産学連携することにより、そうした可能性を探っていきたい」
‐埼玉県には多彩な特産品がある。
 「都内で物産展を開催して一番売れないのが埼玉県と神奈川県の産品と言われる。だがどちらの県にも美味しい物はたくさんあり、首都圏だけでなく全国、全世界へ継続的にPRしていくことが必要だ。埼玉県や神奈川県は立地条件が良いため、国内の食品展示会へ出展するための補助金が出ないケースも多い。先日、県の関係者と情報交換する場があったため、埼玉の食品メーカーにも他県のように展示会出展への補助金を出してもらえるようお願いをさせて頂いた。埼玉県産品を知ってもらう場がもっとたくさんあれば、さらにその魅力が伝わるのではないか」
‐今後について。
 「最近意識して取り組んでいることが、“非日常から日常へいかにしてつなげてもらうか”。非日常のイベントで漬物の魅力を改めて感じてもらうことで、日常においても漬物を楽しんでもらえるよう取り組んでいる。先日開催した漬物レシピと日本酒のペアリングを提案するイベント『漬物・酒BAR』も好評で、漬物を料理素材として日常的に使用してもらえるきっかけになったと感じている。様々なコストが上昇する中、“価格”ではなく“価値”を訴求するため、今後も漬物の魅力を一人でも多くの人に伝えていく」
【2024(令和6)年11月21日第5180号8面】

マルツ食品

11月1日号 創業100周年インタビュー

株式会社柴常 代表取締役社長 柴垣勝巳氏

「本物の味」守り100年
人を大切に、意見聞き入れて
 大正13年創業の株式会社柴常(柴垣勝巳社長、京都市南区)は今年で創業100周年を迎えた。柴垣社長は昭和32年に生まれ、同50年に入社して以来約半世紀にわたり柴常とともに歩んできた。昭和40年発売の「柴漬風味」で全国にその名を知られた柴常だが、その後流通の主役となるスーパーへの対応が遅れ、一時は大きく売上を落とすことに。平成20年に着任した柴垣社長は『本物の味』を追求する基本に立ち返り、卸業から製造業へ重点を移し会社を再建してきた。(大阪支社・小林悟空)
‐会社の歴史を。
 「柴垣家はかつて織物屋を営んでいたのだが、明治維新などの動乱で一度は衰退した。再起を狙った祖父の柴垣常次郎が、雇人のまかないで評判が良かった漬物を、千本中立売の軒先を借りて売り出したのが大正13年。それが柴常の始まりとなった。当時は沢庵が主製品で、軍納や配給も行っていた。戦後には中央市場に店を構え、昭和40年には「柴漬風味」が全国へ販売するヒット商品となった。昭和50年には現本社の上鳥羽工場も竣工し、製造業、卸業とも順調だった。ちょうどその頃に私も入社した」
‐入社から社長就任まで。
 「私は主に製造を担当していた。きゅうりを200トン塩漬けしていたようにそれなりの規模感を持っていた。業界としてはいち早く機械化にも取り組み、今でも工場見学に来た方は皆、工場内にびっしりと機械が配置された効率的な配置に驚かれる。品質にもこだわり、本物の漬物の味を追求したことで他社と差別化を目指してきた。しかし、スーパーが勢力を拡大してきたことで潮目が変わった。個人商店相手の卸業が縮小していき、当社も売上を落としていくことになるのだが、そのビジネスモデルを変えることができずにいた。その建て直しに向け、平成20年に銀行の命を受けて私が社長に就任した」
‐社長就任後は。
 「まず取り組んだのが不採算事業の整理。特に配送業務で人手のかかる卸業を縮小させ、私の得意分野である製造業重視にシフトしていった。OEM製造も強化した。そのときに強みとなったのが『本物の味』を作ることをモットーとしてきたこと、また日本惣菜協会に加盟し、漬物業界外からも知識を取り入れてきた蓄積があったこと。得意先が求めるものを捉え、回答を出していける技術を活かせた。15年前は卸業が売上の7割を占めていたが、現在はすっかり逆転している」
‐最近の製品開発は。
 「食品添加物を使用せずに常温保存90日を実現した『やさしい漬物(柴漬け、刻みすぐき、ゆず大根)』は生協などから評価いただいている。塩分、糖度、水分含有率、殺菌方法などの科学的な角度から保存性を高めつつ、本物の漬物の味わいを追求している。添加物を使用していないことで加温しても戻り臭が出ないことも分かったので、業務筋へもオススメできる」
‐「漬物ダイニング柴常」について。
 「会社の立て直しが一区切り付いた平成26年にオープン、一度移転して現在は堀川商店街で営業している。当社製品だけでなく、自身が認めた全国の美味しい漬物で白いご飯を食べてもらうことがコンセプト。当社初のBtoC事業であり、価格や得意先の意向に縛られず、自由な漬物作りにチャレンジし、それが一般消費者にどう評価されるかを見られる場だ」
‐今後の展望は。
 「私は漬物が好きで、漬物の美味しさをもっと知らせたいという思いがあるからこの業態を守ってきた。まだまだ現役でいるつもりだ。しかしこの技術を活かす道があるならば漬物以外への挑戦などあらゆる可能性を排除しない。親族外承継も、それが最適ならば視野に入れていくつもりだ」
‐最後に、100年生き残った秘訣を。
 「漬物屋として『本物の味』を追求してきた技術を持っていることは大前提にあるとして、それを会社として生かすのに必要なのは①人を大切にすること、②独りよがりにならず意見を取り入れること、③時流を読み適応していくこと」
 「①は当たり前のことだが、私の生き様として絶対に人の信頼や恩義を裏切らないことを誓っている。生産農家にも、資材や配送業者にも、関わる人全てに誠実であること。巡り巡って私が困った時、悩んだ時にいつも手助けしてくれる方々に本当に感謝している。②は、例えば製品開発でも美味しいだけではダメで、顧客の求める規格や価格に合わせられてようやく土俵に乗れる。また参加している漬物研究同志会では漬物研究者の宮尾茂雄先生の意見を取り入れられる。経験で積み重ねてきた技術に、科学的な視点の裏付けをいただけるのは貴重な機会だ。③は、当社は海外産原料から撤退したことが一例。第二次安倍晋三政権が発足した際、アベノミクスの第一の矢が金融緩和であったことから円安を予測し、海外産原料は価格の優位性を失っていくと考えたためだ。漬物というマイクロビジネスでも社会情勢を捉えることは必要だ。食料新聞読者の皆さまにも、漬物業界を良くするための一意見としてお伝えしたい」
【2024(令和6)年11月1日第5178号8面】  

柴常(漬物ダイニング 柴常)

10月21日号 おせち特集インタビュー

全国調理食品工業協同組合 副理事長 佐々 重雄氏

原料と人手の確保が課題 新しい需要を掘り起こす
 全国調理食品工業協同組合(岩田功理事長)の佐々重雄副理事長(株式会社佐々商店代表取締役社長)にインタビュー。おせち、年末商品の価格改定などについては話を聞いた。原材料や人件費など製造コスト上昇や人手不足など多くの課題を抱える中、需要を拡大させるためにこれまでの伝統や文化といった切り口だけではなく、スイーツやお菓子として提案するなど、新しい需要を掘り起こす重要性を強調した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐原料状況は。
 「いずれの原料も厳しい状況だ。中国産の栗は大玉傾向で、我々が使用する小玉が少ないため、確保することに苦労している。韓国産は老木化の影響で量が取れなくなってきているため価格が上昇している。当然、国産も高い。我々としては中国産にシフトしたいところだが、売場では中々理解いただけない部分もある。中国産も為替の影響が大きく、仕入れ価格は毎年上がっている。黒豆は丹波産が大不作となり、今年分は昨年産の原料を使用するのでまだ大丈夫だが、来年はかなり厳しい見通しだ。また、一番深刻なのが昆布。昨年の生産量は過去2番目の低水準となった1万2245tだったが、今年はその30%減で過去最低となる8862t。初めて1万tを下回る。原料調達もままならない状況に加え、昆布を干ぴょうで巻く巻き手がいない。仮に昆布があったとしても昆布巻きの生産量を増やすことはできない。需要がある、ないに関わらず作り切れない環境となっており、現在までに具体的な解決策は見い出せていない」
 ‐価格確定の動きは。
 「原材料価格の上昇や為替の影響に加え、包装資材、調味料などあらゆる製造コストが上がっているため、ここ数年は毎年値上げを行っている。また、これからも人件費や物流費が上がっていくので、製品価格に転嫁していかなければならない。全体的に見ても今年の製品価格は、平均で5%前後の値上げになる。値上げを行うと数量が減って売上は維持、となるケースが多いのだが、得意先の状況もあるが量販店は節約志向が高まる中で苦戦が続いており、今年は金額ベースでも前年の95%くらいになると予想している。富裕層は高付加価値のお重を購入しているが、中低所得者は高い商品を敬遠しており、消費の二極化はより鮮明になってきている」
 ‐課題は。
 「原材料価格の上昇も厳しいのだが、一番の課題は従業員の確保。おせち関連の商品は人手が必要になるのだが、必要となる期間が限られていることもあり、必要な人数を集めることが年々難しくなってきている。製造コストに加え、最低賃金も上がっており、大きな減益要因となっている。また、原材料と人手が確保できないことで、意図的ではないものの、アイテム数や生産量を絞る必要が出てきている。昆布や黒豆は、今年は大丈夫でも来年はどうなるか分からない。そうなれば売場も縮小せざるを得なくなり、市場のシュリンクにつながる。我々としてはそれを少しでも遅らせるように取り組んでいかなければならない」
 ‐利益を確保するために必要なことは。
 「製造コストが上がり続ける中、短期間で作り上げるなど効率化を図り、生産性を高めるしかない。また、伝統や文化といった切り口だけではなく、外国人や若い人にも受け入れてもらえるようにスイーツやお菓子としての提案など、売り方も変えていく必要がある。新たな需要を掘り起こすことも重要で、若い人の感性や意見を取り入れながら対応していきたい」
【2024(令和6)年10月21日第5177号2面】  

佐々商店

10月21日号 おせち特集インタビュー

丸千千代田水産株式会社 卸営業部加工品課 課長代理 横山 拓氏

おせちプラス1品が好評 メーカーと協業でヒット商品を
 丸千千代田水産株式会社(石橋秀子社長、東京都江東区豊洲)卸営業部加工品課課長代理の横山拓氏に今年のおせち商戦の見通しや主要アイテムの動向などについて聞いた。横山氏は値上げの流れが継続する中、高付加価値商品やおせちプラス1品の提案などにより、前年並の売上を目指したいと語った。
(藤井大碁)
◇    ◇
 ‐今年のおせち商戦。
 「昨年同様に原料状況が悪く、多くの品目で値上げが実施される。値上げ幅は約5%~15%程となっており、近年の値上げの流れが継続する。足元では節約志向が高まる中、例えば栗きんとんであれば、栗の粒数や産地、芋の産地など、それぞれの商品が持っている価値をしっかりとお客様にお伝えし、購入して頂けるように時間をかけて商談を行っている。弊社としては、高付加価値商品やおせちプラス1品の提案などにより、前年並の売上を目指している」
 ‐昨年末は首都圏から地方への人流が活発だった。
 「今年は29日が日曜日で大型連休が取りやすい曜日周りのため、例年以上に人の移動が増える可能性がある。だが最近の傾向として、物価上昇や節約志向の影響により、日帰り旅行が増えており、年末年始の人流を予想することは難しい。ハレの日需要は堅調なため、高付加価値商品の他、外食や中食の需要は強まるのではないか」
 ‐力を入れる取組。
 「水産売場向けの佃煮セットや大容量パックに注力する。佃煮セットでは、くるみ小女子やメープルくるみなどくるみ製品のみを詰め合わせた4点盛りなどを発売しラインナップを拡充する。また、わかさぎ甘露煮やクランベリーくるみなどで、値ごろ感のある大容量パックを投入し、選択肢を増やすことで、幅広いニーズに対応していく」
新発売のおでん製品(右)と能登産卵使用の伊達巻製品
 ‐近年、おせちプラス1品の提案が人気を集めている。
 「昨年も蕎麦や中華まんを、おせちプラス一品として提案し好評だった。今年は新たにこだわりの国産原料を使用したレトルトおでんを発売する。“駿河産桜えび入りしんじょう”や“国産かに入りつみれ など9種18品入りのこだわりのおでんとなっており、パッケージも特別感のある仕様にすることで、年末年始にピッタリな製品に仕上がっている」
 ‐9月の豊洲年末商品展示会ではブース内で北陸応援コーナを展開した。
 「年初に発生した能登半島地震で大きな被害を受けた北陸エリアのメーカーの力になれるよう全社を挙げて企画した。展示会での反響も大きく、実際に物が動くことで、復興に微力ながら貢献できることを願っている。年末向け製品として、“頑張ろう能登 というメッセージがパッケージに記載された能登産卵使用の石川県メーカーの伊達巻製品も引き合いが強まっている」
 ‐おせち主要品の状況。
 「栗きんとんは、栗の甘露煮、芋餡共に原料が高騰。シルクスイートや安納芋など芋餡の原料が不足気味になっており、商品の差別化がしづらくなっている。黒豆も2Lや3Lといった大粒の原料確保が難しい。丹波篠山産も同様に原料状況が悪く、提案が難しくなっている。昆布巻きは国産昆布が不漁で、今年は何とか供給できても来年以降の状況は不透明だ。田作りについても、慢性的な不漁が続き、価格も高止まりしている。年末に向け、今年も原料の充分な確保が難しい状況にある」
 ‐通常品の動き。
 「水産売場向けのバルク商品(1kg、2kg)、また旬の佃煮の提案により新規顧客を獲得することができている。売れている佃煮製品としては、金ごまいわし、北海道産たらこ昆布といった高付加価値商品、旬の佃煮としては、霞ヶ浦産のシラウオや川エビの佃煮が数量限定ではあるが良く動いている」
 ‐最後に。
 「原料状況が厳しい中、その時に手に入る食材をうまく加工してもらい売場に提案していく必要がある。佃煮メーカーの皆様との協業により、これまでにない新たな佃煮のヒット商品を生み出していきたい。是非、積極的なご提案をお待ちしています」
【2024(令和6)年10月21日第5177号3面】

丸千千代田水産
https://www.marusen.co.jp/

10月21日号 おせち特集インタビュー

菊池食品工業株式会社 代表取締役社長 菊池 光晃氏

重詰めおせちへ参入 “味の菊一”ブランドを浸透
 煮豆、佃煮、惣菜の大手として知られる菊池食品工業株式会社(東京都板橋区大山)の代表取締役社長兼COOの菊池光晃氏にインタビュー。今年のおせち商戦や今後の見通しについて聞いた。同社では今年重詰めおせちに参入。菊池社長は本当に美味しいものを提供することにより、“味の菊一”ブランドを浸透させ、単品おせちや通常品とのシナジーを生み出していきたいと意気込みを語った。 
(藤井大碁)
◇    ◇
 ‐おせち商戦の見通し。
 「昨年は、コロナ特需のあった一昨年の期待値のまま商戦に突入し、受注数量はコロナ期中の数字と同等であったものの、蓋を開けてみると、想定よりも人流が活発化し、首都圏から地方へ人が流れた。そのため、首都圏に関しては消化率が悪かった一方で、地方については数量が足りないところもあった。今年は、昨年の実績を踏まえ、平均すると前年比95%程の物量を見込んでいる。全体的に値上げを実施するため、売上は前年比並か微減となるのではないか」
 ‐今年の商品戦略。
 「売れ筋の栗きんとん製品では、同一商品で3種類の規格を用意する。量目、価格帯で選択肢の幅を広げ、多様化する消費者ニーズに対応する。また、セット物のラインナップを拡充することにより、少量多品種のニーズにも応える。単身世帯の増加や食習慣の変化によりおせちを食べるスタイルも年々変化している。柔軟に消費者ニーズを取り込んでいく必要がある」
 ‐今年から重詰めおせちへ参入する。
 「近年、単品よりお重のニーズが強いこと、また、冷凍技術の進化により、冷凍おせちのレベルが格段に上がっており、美味しいものを消費者に届けられるとの確信を得たことから新規参入を決めた。まずは東日本エリアの百貨店を中心に販売を行っていく。弊社ではこれまでお重の実績はなく、ブランド構築にはある程度の時間がかかると思うが、本当に美味しいものを提供することにより、“味の菊一”ブランドを浸透させていきたい。それにより、単品おせちや通常品とのシナジーも期待できると考えている」
 ‐おせちの原料状況が悪化している。
 「今年は在庫があるので、安定供給に問題はないが、来年以降の供給が懸念されている。田作りは、今年はどうにか供給できるが、不漁が続けば、来年は厳しい状況になる。黒豆は猛暑の影響により皮剥けが年々増加し、収穫量が減少している。また昆布も海水温の上昇や生産者の減少で生産量が大幅に減少している。輸入原料については、円安の影響も大きく、栗の価格も高止まりしている。それに加え今年は物流費の上昇も大きく、おせちメーカーを苦しめている」
 ‐おせち物流の課題。
 「おせちの物流に関しては、古い商慣習が未だ残っており、時代に合わせた形に変えていく必要があると考えている。現在の発注の締め日は、12月中旬の場合が多いが、締め日を早めることにより、食品ロス削減や物流効率化につなげることができる。おせちと同じように年1回のイベントであるバレンタイン商戦では、締め日が半年前という話を聞いたことがある。佃煮・煮豆だけでなく練り物メーカーなどとも協力して、物流課題に取り組んでいきたい」
 ‐今後のおせち商戦。
 「様々なコストの上昇により、もはや安いものは供給できない状況だ。おせちを食べるのは、おみくじを引くことと同じで、安いからといって、今まで購入していなかった人が購入するようなものではないと思う。ハレの日の食卓を彩るおせち商戦は、価格に流される商戦ではない。各メーカーが美味しいものを供給することが大切で、それがおせちの食文化伝承につながっていくのではないか」
 ‐最後に。
 「コロナ禍の巣ごもり需要を機に、おせちの魅力が見直され、需要が増えた。美味しいおせちを作ることで、その流れを絶やさずに適切な価格で消費者に供給していきたい。将来的には、増加するインバウンドにも、おせちの魅力を発信し、日本を代表する食文化として世界に広めていきたい」
【2024(令和6)年10月21日第51277号4面】

菊池食品工業

10月21日号 おせち特集インタビュー

三河佃煮工業協同組合 理事長 小林利生氏

昨年比でおせち売上苦戦か 少量多品種のセットは堅調
 三河佃煮工業協同組合の小林利生理事長((株)小林つくだ煮社長)におせち商戦や原料状況についてインタビュー。小林理事長は、おせちの需要はピークを迎え、重詰めにおいてはオードブル化、もしくは小サイズを求める動きが進んでいるのではないかと話す。一方、佃煮おせちでは少量で多品種食べられるセットものは堅調なニーズがあるものの、田作や昆布巻きといった定番品の原料価格の高騰が切実と語る。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇   ◇
 ーおせち商戦の動向。
 「昨年と比較し、おせちの全体的な売上は下がるとみており、その傾向は今後も続いていくのでは。重詰めは昨年と比較し、2万円以下のラインナップの人気が高く、また価格を据え置きにしているメーカーが少なくない。物価高騰の中で、概ね低価格の重詰めが関心を引き、さらに中身は食の嗜好の変化でオードブル化が進んでいる。伝統的なおせち商材を食べてもらえる機会を失いつつある。ネット通販では早割で1万円引きというものがあり、消費者の購買意欲を刺激しているものの、局所的な出来事ではないだろうか。単品おせちも選ばれにくくなり、厳しいと見られる。数品目を少量ずつ楽しめるセットものに関しては、堅調なニーズがあると感じる」
 ー原料状況。
 「様々な原料の入手が非常に厳しい状況となっている。田作原料のカタクチイワシは、小羽の入手が全国的に難しく、入手できても価格が高騰しているので、今年は田作製品の価格を5~10%値上げしているメーカーが多い。カタクチイワシの加工屋の減少も著しい。次に原料難で深刻なのは、昆布巻きだ。北海道産昆布の漁獲量は最低を更新し、かつ昆布巻きは巻き手の高齢化や引退が進んでいるのが現状。こちらも製品価格は5%~15%は上がっている」
 ー佃煮の需要は。
 「一年を通してみると、佃煮には堅い需要がある。ただ、嗜好性が強いため物価高騰の中で値上げを実施すると販売数量が落ちる。各メーカーは製造アイテムの集約化を図っているところ。佃煮を『ちょっとした贅沢品』と、消費者へ付加価値を感じてもらえる存在にしていくことが業界として課題だと思う。現状のように、米の価格が高くなると米の買い控えとともにご飯のお供である佃煮の買い控えにも繋がりやすい。佃煮の食べ方は多様なものの、やはり米との相性が良く、米の消費と佃煮の売れ行きは連動する。おにぎりは世界的に人気で、子どもも好きな食べ物。おにぎりの具材としてのポテンシャルは高いだろう」
 ー組合では、子ども食堂へおにぎり用で佃煮を寄贈する。
 「青年部組織の豊橋佃志会と連携し、豊橋市内の子ども食堂へ、昨年は節分にあわせていわし甘露煮を、11月にはあさり佃煮を寄贈した。子ども食堂の方々はいわし甘露煮を使ったお弁当、あさり佃煮で彩り豊かな押し寿司を作ってくださり、佃煮のアレンジ料理を子どもたちに喜んでもらえて良かった。本年度は来年1月に多種の佃煮を寄贈し、バラエティ豊かなおにぎりを作っていただく。おかかとチーズ、バターライスと佃煮など、和にとらわれない発想でおにぎりを作ってもらい、組合としても刺激を受けたい」
【2024(令和6)年10月21日第5177号5面】

10月21日号 八郎潟特集 トップインタビュー

有限会社佐藤徳太郎商店 代表取締役 佐藤 進幸氏

秋田佃煮の魅力広める 原料に依存しない会社目指す
 有限会社佐藤徳太郎商店(秋田県潟上市)では、『華しょうが 生姜とあみの佃煮』が、本年度の「秋田米にぴったり!ごはんの友選手権」(主催:秋田県ごはん食推進会議)において最高賞となるグランプリに選出された。佐藤進幸社長は原料確保が難しくなる中、その時にとれる水産物や農産物をうまく加工することで、原料に左右されない会社になることを目指したいと今後の抱負を語った。
(藤井大碁)
‐佃煮の販売動向。
 「おかげ様で今年も増収増益となった。WEB通販が新規顧客獲得やリピーター増加により伸長した。昨年は送料アップにより通販は伸び悩んでいたが、担当者が知恵を絞り対策を講じたことで売上が改善された。小売店向けは夏場、コメ不足や猛暑の影響により若干苦戦した。本社直売店は前年比微増で推移している。近年の売上増は社員の頑張りによるところが大きく心から感謝している。売上が上がった分はしっかりと社員の給与に反映させることで、その努力に報いるよう徹底している」
‐秋田米に合うおかずを選出する本年度の「ごはんの友選手権」で最高賞のグランプリに輝いた。
 「グランプリを獲得した『華しょうが 生姜とあみの佃煮』は、不漁の影響で水産原料が限られる中、地元農産物を使用した佃煮を開発しようと社員が自主的に企画し商品化したもの。秋田県産の生姜とあみの組合せがご飯のお供にピッタリだと直売店でも人気を集めている。この賞に応募していたことを私自身は知らされておらず、グランプリを受賞したとの報告を受けてとにかく驚いている。今回の受賞が秋田佃煮の美味しさを県外の方にも知ってもらえるきっかけになることを願っている」
‐今年もわかさぎ漁が解禁となった。
 「不漁となった昨年と比較して、漁獲量は順調に推移している。今年は白魚の水揚げも多く、今後の漁模様にも期待している」
‐原料確保が課題となっている。
 「八郎湖では今年、原料がとれているが、今後いつとれなくなるか先行きは分からない。全国的にも、小女子やいかの原料状況は引き続き厳しい。こうした状況下においては、原料に会社が依存するのではなく、どんな原料でも最高の味わいに加工できる会社に進化していくことが必要だ。原料に左右されず、その時にとれる水産物や農産物をうまく加工できる技術を柱とした会社になることを目指していく」
‐新たに甘納豆の製造を開始する。
 「甘納豆は、いかあられの具材として欠かせないものであるが、代々お付き合いのあった地元の甘納豆屋が後継者不在のため、弊社で事業を引き継ぐことになった。今後は、甘納豆を製造する専用釜も設置予定だ。いかあられなどの自社製品へ使用する他、外部への販売も行っていきたい」
‐秋田県では人口減少率が全国1位となっている。
 「人口減少は負の部分ばかりに目が向けられるが、チャンスと捉えることもできる。前述のように後継者不在の会社の事業を引き継ぎ、若手を採用し、その会社が持つ技術を伝承していけば、事業拡大につながる。また佃煮の消費という面では、人口減少により県内の消費は将来的に減ることが予想されるが、それでも事業を展開するには充分な土台がある。さらにWEB通販を拡大し、全国のユーザーに秋田佃煮を食べてもらうことができれば売上をまだまだ伸ばしていけるのではないか」
‐最後に。
 「弊社の企業理念は秋田佃煮の魅力を広め、佃煮文化を伝承していくこと。秋田佃煮の美味しさをもっとたくさんの人に知ってもらえるよう、誇りを持って取り組んでいく。“挑戦なくして成長なし”という言葉を経営哲学としている。秋田に充分な土台はあるが、さらなる挑戦を続け、会社を成長させていきたい。それが、社員一人一人の幸せにもつながると信じている」
【2024(令和6)年10月21日第5177号7面】

有限会社佐藤徳太郎商店

10月21日号 11月3日「高野豆腐の日」特集  会長に聞く

全国凍豆腐工業協同組合連合会 会長 木下博隆氏

若いユーザー獲得に注力
機能性・地域性追求し商品開発
 11月3日は「高野豆腐の日」。年末ムードの高まる「文化の日」に、高野豆腐(凍り豆腐)が和食の代表的な食品であることを伝えたい想いから全国凍豆腐工業協同組合連合会(木下博隆会長㈱旭松食品社長)が2020年に制定した。今年はこうや豆腐普及委員会のホームページをリニューアルし情報発信の強化、昨年好評だったレシピサイト「Nadia」と連携しアレンジレシピコンテストの再展開や食育活動を行う。トップメーカー・旭松食品社長としても、高野豆腐による健康や地域発展編への貢献する意欲を、木下社長は示す。 (大阪支社・小林悟空)

‐「こうや豆腐の日」の活動は。
 「若いユーザーの獲得を目指しオンライン上での情報発信強化に力を入れている。具体的には、こうや豆腐普及委員会のホームページが11月よりリニューアル公開される。また前回好評だったレシピサイト『Nadia』と連携しレシピコンテストを今年も実施する。対面活動では、食育を兼ねて長野県内のNPO法人の子ども応援プロジェクトへの製品寄付活動も継続していく予定だ」

ーレシピコンテストの方針。
 「前回は高野豆腐をパンの代わりに使ったホットサンドがグランプリになったので、今年はレシピ定着のためパン風の使い方の深堀りをテーマに実施する。年末商材として売場に並ぶ機会が増えるこのタイミングで、煮物以外の用途にも注目してもらう機会を創出していく」

‐機能性研究にも力を入れられている。
 「これまでは主なユーザーである中高年の関心が高い、食後中性脂肪上昇抑制、脂質代謝改善、糖尿病改善・予防効果といった事柄を研究してきた。その成果は、全凍連の総会前に行う記者会見や、市民シンポジウムの場で発表することでマスメディアにも注目いただき効果的に周知することができた。今後は若年層に関心の高い、腸活・美容といった分野での研究も強化していく方針だ」

‐こうや豆腐の市場動向。
 「残念ながら前年割れが続いている。当社の場合は2021年から毎年価格改定を実施していて、この9月にも約5%の値上げとしたことから数量の落ち込みが響いている。付加価値を向上させ、価格以上の価値を感じてもらう必要がある」

‐価格以上の価値とは。
 「一つは機能性。全凍連では高野豆腐全般の機能性を研究し、当社独自の取組としてそこにプラス要素を加えている。より食べやすく加工した医療介護食分野での売上は右肩上がりに伸びている。また今年『公益財団法人学校給食物資開発流通研究協会』から、『新あさひ豆腐』が独自の減塩製法等を評価いただき推奨品に認定された。継続的に食べてもらえる給食での採用はありがたい」

‐地域との連携にも取り組む。
 「当社本店のある南信州のつぶほまれ、兵庫県佐用町のもち大豆に続いて、十勝産ゆきほまれで高野豆腐や大豆ミートの製造を開始している。当社の技術を活かして国産大豆の用途を広げることで農業活性化に貢献できる。その大豆の特性を引き出した製品や、土地の食習慣に合わせた販売方法に繋がり、高野豆腐の市場が豊かになることも期待している」

‐海外発信にも取り組む。
 「国内と同様に健康機能性は重要なアピールポイントとなっている。また研究拠点としているオランダでは、タンパク質摂取源の割合が現状で動物性6、植物性4くらい。健康面、動物倫理、環境負荷などの観点から植物性タンパク質市場は急拡大している。外食や宿泊施設での訪日客への提供も含め、海外市場の開拓には大きなチャンスが眠っている」
【2024(令和6)年10月21日第5177号8面】

こうや豆腐普及委員会

10月21日号 新社長に聞く

株式会社すが野 代表取締役社長 菅野 嘉弘氏

300年続く企業に 惣菜への転換進め需要拡大
国産楽京漬のトップメーカーで、創業106年を迎える株式会社すが野(栃木県下都賀郡壬生町)は、「とちぎSDGs推進企業」に登録されるなど、サステナブルな企業として地域発展にも貢献している。9月9日付けで専務取締役から代表取締役社長に就任した菅野嘉弘新社長にインタビュー。社長就任の心境や抱負を聞いた。4代目社長は、創業当時と変わらぬ「農家とともに歩む」姿勢で、200年、300年と続く企業を目指す思いを語った。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐社長就任の心境は。
 「2005年9月に入社し、19年目を迎えた。父である弘前社長が70歳になったことを機に代替わりという運びとなった。まだ就任したばかりで心境の変化はないが、漬物業界はシュリンクしており、若い世代が頑張らないといけない、という思いを強く持っている。目標としては、従業員をはじめ取引先や地域の方にこの会社があって良かったと思っていただけるような会社であること。創業当時、青果業を営んでいた当社は、豊作になると野菜の価格が暴落したり野菜の廃棄が発生して農家の方の生活が苦しくなることから、そういったことがないように野菜を買い取って塩漬できるように工場を作った。その後は、地元の原料を使用して製品を作るようになった。現在は創業から106年が経ち、私で4代目となるのだが、農家の方たちを第一生産部と位置付けてともに歩んでいる。その考えはこれからも変わらない。200年、300年と続けていくために、人材育成をはじめ設備投資なども進め、会社の基盤をしっかり作っていきたい」
 ‐これからの抱負。
 「当社の商品を指名買いしていただけるように、商品のブラッシュアップや開発を絶えず行い、差別化を図れる商品を提案していく必要がある。節約志向が高まる中、漬物も価格訴求になりがちだが、味や品質が落ちるとお客様は戻ってこない。特にらっきょうは嗜好品なので、味と品質を追求しなければ支持されなくなる。当社はこれまでも品質重視で事業を行ってきたが、今後もそこがブレることはない。また、すでに行っていることだが、漬物から惣菜への転換を進め、限られていた食シーンを広げて需要を増やしていきたいと考えている」
 ‐御社の強みは。
 「海外産の原料を使用した商品も取り扱っているが、当社は国産原料の商品が主力となっており、売上構成比で最も高いのは国産楽京。その他にも生姜とごぼうを扱っている。私たちが野菜を生産することは難しく、塩漬の技術を使って農家が作ってくれた野菜を加工し、製品として供給する。農家がいなければ我々は商品を作ることができない。我々の事業を通じて農家の方や地域の活性化につながることを願っている。契約農家の方には安心して原料を作っていただけるように年2回、情報交換会を行ってコミュニケーションを図っている。農家では高齢化が進んでおり、毎年減少している。生産を大規模化しているところもあるため、作付面積は大きく減少していないが、小規模の農家が野菜の生産を継続していくことは難しい。為替や製造コストの上昇などもあるが、原料の安定供給は当社にとって一番の課題だ」
 ‐漬物市場について。
 「全体的な売れ行きは微減傾向で、一言で言えば厳しい状況だ。近年は食の選択肢が広がってきており、漬物がなくても食が成立する。漬物離れは今後も加速していくことが予想される。そのような中で売上を増やしていくためには惣菜への転換の他、健康面でのアプローチや食べる動機付けを行っていく必要がある。和食の基本とされる一汁三菜には漬物は明記されていないのだが、入っていることが当たり前なので敢えて入っていない、というくらい和食には欠かせないものであるということを再認識しなければならない。啓蒙活動も重要で、当社ではSNSを活用して漬物を素材としてレシピ提案を行っている。今後はイベントへの参画も考えていきたい。また、野菜を素材とした加工技術を生かし、常温で長期保存が可能ということからも常備菜や有事の際の保存食としても利用できる。需要拡大の切り口はまだまだ数多くあるので、日常や非日常も含めて色々な提案をしていきたいと考えている」
【2024(令和6)年10月21日第5177号16面】

すが野

10月11日号 高菜漬特集インタビュー

株式会社オニマル 代表取締役社長 荒巻哲也氏

効率化・量販注力で黒字に
漬物業界は「頑張りがいある」
 株式会社オニマル(福岡県みやま市瀬高町)の荒巻哲也社長にインタビュー。荒巻社長は運送業の株式会社柳川合同(柳川市西浜武)社長を2002年から務め、オニマルとは取引先の関係だった。コロナ禍の只中にあった2020年9月、赤字状態にあったオニマルの経営を引き継ぎ、社長に着任。改革に取り組み、翌2021年度で黒字転換を達成した。その背景や今後の取組について話を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐社長就任から4年。
 「柳川合同にとってオニマルは主要取引先の一つであり、職人の腕が良く、良いものを作っていることはよく知っていたのでどうにか存続させたかった。まず取り組んだのが社内の不用品の廃棄。長年の積み重ねで、使わなくなった用具等が大量にあった。工場がすっきりして製造工程をスムーズに組み替えることができ、以前の半分の人員で同じ生産金額を維持できている。営業面でも、以前は業務筋メインだったが70g~110g入の小量サイズの刻み高菜や沢庵を開発したことで量販店や通販のお取引が増え、翌2021年度から黒字転換できた。累積赤字の解消も近い」

‐運送業と食品製造業のギャップ。
 「全く違うので勉強になった。運送業には棚卸という概念がない。衛生面についても非常に厳密で、仕入れから袋詰め、箱詰めまで注意点が多い。製造業の観点を持てるようになり、運送業にも磨きがかかった。また、トラック一つで始められる運送業と比べ食品製造、特に漬物製造は参入障壁が高い。野菜や発酵という自然を相手にするので、蓄積された技術が不可欠で人材教育には時間がかかり、漬け込みタンクなどハード面での投資も必要。新しいことをやっても大資本に奪われる、という心配がないわけで、頑張りがいがある業界だと思う」

‐今後の取組は。
 「一つが高菜や大根の自社栽培を計画している。農業人口は減っているが、その分まとまった農地を確保しやすくなっている。高齢農家は重量野菜を避ける傾向もあるため、企業として取り組む価値は十分ある。自給率3~4割が目標。もう一つは認知度の回復。先述の通り、業務筋を主力としてきたため一般認知度が低かった。量販店で並ぶ機会が増えれば業務筋での商談も円滑になる。新しくなったオニマルの姿を提示していきたい」
【2024(令和6)年10月11日第5176号10面】

10月11日号 高菜漬特集インタビュー

前田食品工業有限会社 代表取締役社長 前田龍哉氏

高菜漬惣菜化やSNS発信
従業員や取引先あっての会社
 前田食品工業有限会社(佐賀県西松浦郡有田町)は九州特産高菜漬の専門メーカーであり、屈指の漬け込み量、製造量を誇る。前田龍哉社長はコロナ禍に代表取締役へ就任し、4年目を迎えた。社長就任から現在までを振り返り、今まで以上に高菜漬の食べ方の情報発信へ注力し、さらには従業員・生産者との密なコミュニケーションを大切にしていると語った。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇    ◇
 ー社長就任4年目を迎えて。
 「コロナ禍の2021年10月に社長へ就任した。父親で前社長の前田節明が80歳になる節目の年で、また2023年に創業70周年を迎えるということで、代替わりとなった。私は社長になる前から、いま以上に時代に合わせた商品開発や販売方法、宣伝・情報発信が必要と考えてきて、この4年で少しずつ取り組んできた。人手不足の中でも、社員の残業を減らし、休暇が取りやすくなるよう業務効率化を図ってきて、結果が出てきている」
 ー情報発信については。
 「2022年にインスタグラムを開設して、高菜の食べ方や、イベント情報を発信している。イベントでは、昨春のゴールデンウィーク期間、地元の有田陶器市に合わせ、製造職、事務職も含め、高菜商品の販売会を本社工場前で行った。販売会情報をインスタで発信し集客に繋がった。当社社員にとっては、自社商品を消費者へPRする機会になり、高菜漬への理解を深めてくれた」
 ー社員とのコミュニケーションを重視している。
 「会社はまず従業員に支えられて存続できる。企業が人材を取り合う中で、働きたいと思ってもらうには、職場が居心地良く、同僚同士が気軽に相談し合える環境が必要だ。当社では福利厚生の一環として懇親会や社員旅行を開催し、コロナ明けで再開した。新年の仕事始めには地元の焼肉屋さんで食事会を開き、社員一同、春の高菜の豊作祈念と体力作りをする。社員旅行は、今年5月は日帰りツアーで福岡のマリンワールドへ、昨年と一昨年は1泊2日で山口県の湯田温泉、長崎県の島原を観光した」
 ー生産者との密なコミュニケーションも定評だ。
 「当社の高菜はすべて、九州産のものを使用しており、生産者の顔と名前が分かる。生産者とは秋の作付け会議、7月頃の反省会を始め、コミュニケーションを繰り返し、その結果、作付や生育、収穫の改善点を洗い出し、翌年に活かしている」
 ー今後取り組んでいきたいこと。
 「数多くあるが、既存商品『高菜ご飯の素』のように、高菜を惣菜化した商品で新商品を開発し、新たなユーザーを開拓していきたい。他には、国産高菜漬のおいしさを全国に知ってもらい、価格にとらわれず味で選んでもらえるよう、SNS等の発信を強化していく」
【2024(令和6)年10月11日第5176号11面】

10月11日号 浅漬キムチ特集インタビュー

秋本食品株式会社 代表取締役社長 秋本 善明氏

工場の最適化を目指す
新たなBtoB事業に期待
 秋本食品株式会社(神奈川県綾瀬市)の秋本善明代表取締役社長にインタビュー。今期ここまでの業績などについて話を聞いた。仕入れ商品も含めると前年をクリアしているが、自社製品の売上は工場の再整備などの課題を抱え、来年度までは厳しい見通しとなっている。また、あらゆる製造コストが上昇し続ける中、「適量の商品を適正価格で販売する」方針で今秋も値上げを実施し、改めて商品の選択と集中を推進していくことを強調した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今期の業績は。
 「仕入れも含めるとここまでの上期の業績は前年をクリアしているが、自社製品の数字は若干落ちている。自社製品は無理な販促をしていないので、数字が少し下がっている一つの要因にもなっている。下期については社内の取組について色々と変えていくので、下期はいま現在よりも良くなることはないと思っている。具体的には、一つは商品の整理や協力工場も含めた工場の再整備。古くなっている部分もあるので、来年度までかけて工場の最適化を目指し、生産体制を整えて集積収益性の改善につなげていく。それまでは自社製品の売上を維持、向上させていくことは製品のフル生産ができないので難しい状況だ」
 ‐価格改定の動きは。
 「原材料、調味資材や運賃が上がっている他、人件費も上がる。チェーンにもよるが、秋冬から価格改定を実施する。内容量調整では効果が少ないので、基本的には価格を上げる形になる。商品によっても異なるが、上げ幅は2~6%。最近の動きとしてはバイヤーが値上げに慣れてきていることや他の業種でも値上げが常態化してきているので値上げが認められない、というケースはなくなってきている。それでも、プライスラインが198円、248円、298円から外れると消費者が買わなくなる可能性はあり、結果的に売上は下がるかもしれない。採算的に厳しくても作り続けざるを得ない商品もあるが、残業をしてまで利益が出ない商品を作っていても意味がないし、労働集約型の商売はできないので続かない。会社の基本方針は適量の商品を適正価格で販売すること。適正な利益を確保するために価格改定を行い、それが駄目なら止める勇気と覚悟が必要。利益を出せる商品を選択して集中していかなければならない」
 ‐浅漬の売れ行きは。
 「売れ行きは低調で、近年はダウントレンドになってしまっている。過去30年は栄華を誇ったが、カテゴリーとしてのライフサイクルは成熟から衰退に向かっている。夏場は胡瓜が売れれば売上を作ることができるのだが、近年は夏の胡瓜の価格が高くなっていて利益が出せなくなっている。ハイリスクローリターンなので、どのメーカーも夏の胡瓜から手を引きたがっている状況だ」
 ‐キムチの動きは。
 「前年比で見ると市場は横ばいだが、弊社は少し落ちている。夏は原料状況が落ち着いたのだが、春は高かったので販促を控えた。キムチの市場は以前よりも拡大しているが、競争はより激しくなっていて単価が下がっている。弊社は価格競争には付き合わないので、売れ行きには多少の影響が出ているようだ。キムチは市場が拡大し、現在は成熟期にある。これから山がなければシュリンクする可能性もある」
 ‐新しい事業について。
 「既存の販路だけにこだわっていても厳しい。日配品の主な売り先はスーパー、コンビニ、ドラッグストアになるが、店と胃袋の数は増えないので既存のチャネルだけ見ていても売上が増えることはない。それならば違うチャネルを見つける必要があり、BtoBで外食や業務用はまだまだ需要があると考えている。弊社では今年度からBtoBに特化した開発営業課を立ち上げ、この秋から某飲食店で当社の製品が採用される。新たな動きが出始めてきており、今後も期待している」
 ‐今後の取組のポイント。
 「ロングライフも重要な要素だ。浅漬は賞味期限が短いのがウイークポイントなので、弊社では賞味期限の延長に取組んでいる。しかし、それでもチルドには限界があり、他の手段として加熱や冷凍など、品質を落とさず保存の技術を高める必要がある。キムチの賞味期限は30日くらいまで伸びているが、浅漬も同じくらいかせめて10日、二週間と伸ばせればまだ可能性はある」
【2024(令和6)年10月11日第5176号2面】

秋本食品 電子版 バイヤー必見!イチ押しページ
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株式会社ピックルスホールディングス 代表取締役社長 影山直司氏

キムチ値上げへ 
輸出で海外の販路開拓
 株式会社ピックルスホールディングス(埼玉県所沢市)代表取締役社長の影山直司氏に浅漬とキムチの販売動向、価格改定の動き、2024年12月に稼働予定の茨城工場などについて話を聞いた。物価高や人手不足、製造コストの上昇など、厳しい状況が続く中、まだ試験的な動きながら新しい事業として輸出の取組をスタート。国内もさることながら海外への販路開拓も視野に入れて準備を進めている。(※取材日は9月17日)
(千葉友寛)
◇   ◇
 ‐ここまでの業績と浅漬の動きについて。
 「売上面では厳しい状況だった。浅漬は工夫しながら新商品を発売しており、単なるご飯のお供ではなく、おかずや主菜になるメニューを提案しているが、定着するまでには時間がかかると思っている。簡便性が高い液切りいらずの商品は少しずつ認知されてきているが、浅漬全体の売上を見ると伸びておらず苦戦している。浅漬は売価が200円以上になると売れなくなる。買いやすさを考えれば200円を下回る設定にしなければならず、利益に貢献することも難しい。最近のニーズとしては、ミニタイプが手頃な価格帯で人気がある。浅漬は旬の素材で季節感を出せる商材だが、水なすなどは原料も高いので売価も高くなる。付加価値があっても高価格帯の商品を売ることは以前よりも難しくなってきている」
 ‐キムチの売れ行きは。
 「概ね前年並みとなっているが、コロナ前の2019年と比べると約3割増となっており、市場規模としても2割以上拡大している。全体としては前年に近い数字で推移している」
 ‐今期の業績が苦戦している要因は。
 「昨年はコンビニ向けの惣菜でフェアの企画があり、売上を作ることができた。しかし、今年はフェアで採用されたアイテムが減少したことなどで厳しい状況となった。ただ、コンビニ向け商品も良い数字が出ているものもあり、現在販売しているお酒のおつまみにもなるような商品を今後も展開していきたい」
 ‐価格改定の動きは。
 「『ご飯がススムキムチ』は9月から値上げの交渉を開始している。また、猛暑の影響で夏場の胡瓜の価格が上がっており、今年もお盆明けから高くなって青果でも1本70円、80円で販売されている。近年、胡瓜の価格は旬の夏場でも高くなることが多く、前年と同じ価格で販売することは厳しくなってきている。それなりの量を売っている商品についても、現在の価格を継続していくことは難しい」
 ‐コストダウンの取組について。
 「工場のコストダウンはまだ可能だと思っている。商品規格の見直しもできると思うが、原料の使い方や加工、包装などの製造工程の見直しについてはまだやれることがある。メーカーはお客様が買い求めやすい価格帯の商品を提供し、なおかつ利益を出すことが求められている。コンビニのおにぎりは価格が下がっているが、おにぎりの専門店ではブームの影響もあって1個500円の商品を買うために行列ができている。美味しさと価格のバランスは推し量ることができない部分もあるが、日々食べるものについては買い求めやすい価格帯でなければ支持されない」
 ‐冷凍食品の事業は。
 「冷凍食品は賞味期限が長く、売場も広がって自動販売機も増えた。しかし、コロナ禍が明けて以前のように買い物に行けるようになると割高に感じる部分もある。当社では『ご飯がススムキムチ鍋』を提案しており、特に新店で取り扱いしていただくケースが増えている。また、高齢者の利用が多い冷凍宅配弁当には漬物が入っているものもあるので、冷凍対応の漬物や惣菜は可能性がある」
 ‐小売店の競争も激しい。
 「当社は幅広い業態に対応している。九州では後発で参入した為、スーパーには中々商品が入らない。ドラッグストアには早いタイミングで商品を供給させていただいていた。ただ、ディスカウントストアについては積極的にアプローチしていなかったのだが、商品を供給させていただいたスーパーが撤退し、そこにディスカウントストアの店が入る、という事例も出てきている。小売店の競争が激しくなる中、どこに何を提案していくのか、視野を広げて考えていくことが重要だ」
 ‐原料確保の取組について。
 「当社は全国にある工場を原料調達の拠点としても位置付けている。それぞれの工場の近くで生産量が多い農作物を確保し、産地リレーのように全国の工場に送り込む。それらの取組はすでに一部では行っているが、今後も産地一体となって加工用に作付していただく量を増やしていきたい。また、生産者の減少や高齢化が問題となる中、当社の中京工場では生産者の負担を減らすため、全量買い上げて工場で選別するという取組を始めている。その他、運送業者と協業して野菜の収穫を請け負っていただき、一番大変な収穫作業と生産を別々に行う取組も始めている。今後はこのようなことに取り組んでいく必要がある」
 ‐年内に茨城工場が稼働する。
 「茨城工場は機械化と省人化を図り、生産能力は既存の工場の倍以上で、人員は半分以下。11月に機械が入って年内に出荷できるよう準備を進めている。フル稼働すれば関東で生産している全量を作ることができるし、東北エリアの分も受け入れることが可能。茨城工場でキムチの集中生産を行い、既存工場で余力ができた分は惣菜や冷凍食品の開発・製造など、有効活用していきたい」
 ‐新しい事業について。
 「昨年、サツマイモの仕入及び販売並びにサツマイモを原材料とする加工食品の仕入及び販売を担うベジパルを合弁で設立した。商品は常温、冷凍と幅広い温度帯で、輸出ができるのかなども探っている。外国の添加物などを勉強しながら、現地の企業とパートナーシップを結んで海外への販路開拓に向けても取り組んでいく」
【2024(令和6)年10月11日第5176号12面】

10月11日号 茨城特集インタビュー

茨城県漬物工業協同組合 副理事長 石丸 弾 氏

 茨城県漬物工業協同組合(木名瀬裕一代表理事)の石丸弾副理事長(関東農産株式会社社長)にインタビュー。茨城県における大根原料の作付け及び生育状況について話を聞いた。昨年は猛暑の影響で6~7割作と近年稀に見る凶作となったが、今年は種を蒔くタイミングはやや遅くなったものの、ここまでは順調にきている。今後については高齢化などの問題を抱える農家を守るため、慎重かつスピード感を持った対応が必要だと強調した。(千葉友寛)
‐大根の作付の状況は。
 「昨年に続き今年も猛暑となったため、例年より種を蒔くタイミングを半月程度遅らせて9月1日から9月20日にかけて種蒔きを行った。昨年は、8月に蒔いたものは暑すぎてほぼ壊滅状態だった。今夏も暑い日が多かったが、気温は少し下がってきていたので9月から種を蒔き始めた。作付面積は昨年並みか昨年より若干増えている。ここまでは適度な雨があることと、ゲリラ豪雨や台風の影響がないため、順調にきている。播種から1カ月経てば根も張ってくるので、台風がきても甚大な被害にはならない。昨年は高温障害で凶作となったため、今年は良い作柄になることを期待しているが、現時点で作柄の予想をすることは難しい。ただ、今年は発芽率が良く、今後も天候の影響がなければ平年作以上は期待できると見ている」
‐作柄の不安要素は。
 「種蒔きが遅れると収穫も遅れる可能性が出てくるが、昨年は暖冬の影響で成長が早く大根が一気に太った。今年も暖かい日が続いているため、収穫まで60日と計算すると11月10日頃が収穫のピークとなる。暖冬の時は成長のスピードも速いので、早く収穫しないと1本物の規格から外れる太物になってしまう。人手不足の中、適したタイミングで収穫できるか、ということもポイントになる。また、今年は昨年まで産地で使用していた種(秋まさり2号)がない、ということで、例年と異なる種(漬ひかり)での生産となる。組合加盟企業では昨年から複数の種をテストして情報交換を行い、適した種を選定した。種の違いは一つの懸念材料だったが、テストの結果が良かったので大きな影響はないと考えている」
‐産地の課題は。
 「農家は高齢化が進み、異常気象も恒久化して天候のリスクも高まっている。大根を作ることに魅力を感じていただけるよう、我々は農家を守らないといけない。一番分かりやすい形が原料の買い上げ価格を上げることだが、原料価格が上がった分、製品価格に反映できるのか、というと言うほど簡単ではない。ただ、農家の厳しい現状を考えると、慎重かつスピード感を持った対応が求められている」
‐コストが上昇している。
 「添加物や包装資材、物流費などに加えて人件費も上がり、慢性的な人手不足といった課題も抱えている。上がった分の製造コストを価格に転嫁しなければ事業を継続することが難しくなるのだが、価格改定は簡単にできない。現在の主流の売価である198円を248円にできるのか分からないが、特に白首大根においては危機感を感じており、早期に適正価格化を進めなければ原料を確保することができなくなる可能性がある」
‐沢庵はカップのスライスタイプが売れている。
 「少子高齢化とともに漬物離れ、沢庵離れは進んでいると思っている。そのような中でも、沢庵はカップのスライスが伸びている。商品の特徴は蓋を開けるだけで食べられる簡便性。世帯人数が減少する中、1本物は食べ切れず、切る手間もある。また、袋物は加熱殺菌が多いが、カップはノンボイルなので歯切れの良さも魅力だ。今後も簡単便利に美味しいものを少しだけ、というニーズが強くなっていくと予想している。その他、以前よりも塩分が下がっていることもあり、ご飯の付け合わせというだけでなく、お茶請けとして食べる人も増えている。簡便性を追求したことで今までになかったニーズの掘り起こしにつながったと考えている」
【2024(令和6)年10月11日第5176号6面】

10月1日号 トップに聞く

三里浜特産農業協同組合 代表理事組合長  村上伝左エ門氏

酢漬の県外販売を再開
管理圃場拡大で反収量増
 福井県坂井市の三里浜特産農業協同組合(村上伝左エ門代表理事組合長)は、三年子らっきょうの栽培、酢漬の加工・販売で知られる。名物である三年子らっきょうは、砂地の立地を活かし、明治時代から栽培が続く歴史を持つが、近年は農家の高齢化で収量の減少が課題となっている。2022年に就任した村上組合長は、就任後に管理圃場の拡大により、作付面積や反収量増加を目指すことを掲げ、徐々に効果が現れてきている。3年目を迎えた村上組合長に話を聞いた。
(大阪支社・高澤尚揮)
       ◇
 ‐組合長に就任して3年目を迎えた。
 「コロナ禍の2022年に就任し、農協の使命として、①『農業の生産力を高める』②『農業所得を向上させる』③『地域の農業を発展させる』の3つが重要だと掲げた。農家が高齢化し農業を止める動きがあるが、反収量を増加させ、また農業を行うやりがいを持ち続けてもらうためには所得向上が欠かせない。所得向上が新規就農者を呼び込むことにも繋がり、地域農業の持続可能性を高める。年々、当組合の管理圃場を拡大させており、少しずつ手応えを感じている」
 ‐三年子らっきょうの販売動向は。
 「2023年7月から1年にわたり酢漬商品の県外販売を原則中止せざるを得なくなったが、今年産の収量増加で9月から県外販売を再開することができ、安堵した。生協を始めとして、酢漬の取り扱いを待っていていただいた取引先に感謝している。甘酢漬、唐辛子入りの『ピリ辛』ともに順調な売れ行きで、あとは来年の原料確保のことで頭がいっぱいだ」
‐三年子らっきょうの収量の推移は。
「2021年産は200tほど穫れたが、生産組織が栽培を止めたこともあり、2022年産の収量は前年より大幅に少ない120tで着地し、2023年は145t、2024年は155tと推移している。一昨年、昨年の原料不足が、酢漬の県外販売の中止に繋がった」
‐収量拡大への取組は。
「昨年産、今年産と少しずつ収量が回復している理由としては、組合の管理圃場を増やすことで、作付面積を拡大できたことが挙げられる。肥培管理、作業の機械化は個人農家ではハードルが高いものの、組合の持つ資金やノウハウを活用すれば、策を講じることが可能であり、引き続き拡大していく」
‐らっきょう以外の販売にも力を入れる。
「三年子らっきょうの収量拡大を目指すのが、一番の目標だ。だが当組合では、
浅漬用である二十日大根の栽培拡大にも力を入れている。二十日大根の植え付け用でトラクターを今年から導入することが決定し、10月中旬からの植え付けで早くも活用する。人手不足、高齢化の中でも、作業の効率化や反収量の増加は実現でき、三里浜の農業を次世代に繋げたい」
【2024(令和6)年10月1日第5175号2面】

三里浜特産農業協同組合 https://sanrihamatokusan.com/

10月1日号 秋冬商材特集 新社長に聞く

有限会社樽の味 代表取締役社長 細田幸平氏

発酵で健康と笑顔に貢献
通販が牽引し順調なスタート
 今年4月に有限会社樽の味(和歌山県御坊市)社長に就任した細田幸平氏にインタビュー。今期は「従業員第一主義」を掲げ社内環境の整備に取り組み、売上も通販事業が牽引し10%超の増収を見込むなど順調な滑り出しとなっている。細田社長に会社の強みや今後の目標を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
‐略歴を。
 「1979年12月2日生まれ。大学卒業後、家業である樽の味に一度入社したが、当時は社長である父と意見が食い違うこともあり、関心のあったホームページ制作会社に転職した。2012年頃、事業拡大のため父から要請があり再入社。前職の経験を活かして通販事業部の立ち上げ、運営や、工場長を務めてきた」
‐通販に積極的だ。
 「去年までは卸とネット販売が5‥5くらいだったが、今期は4‥6になる計画。主に楽天を使っていて、商品の魅力を誰にどのように伝えるかをコントロールできるのがスーパーのセルフ売場と違う点。漬物や発酵食品は努力次第でまだまだ伸び代がある、ということだ」
‐貴社商品の魅力とは。
 「食品添加物不使用で発酵を生かした商品作りをしていて、健康的なイメージを持っていただけること。高級食品スーパーやセレクトショップの得意先も多く、通販ページを見てお声がけくださることも。また食品添加物を使わないということは、味作りや保存性を高める難易度が上がるのだが、その分、発酵を扱う技術が向上し独自の商品開発につながっている」
‐ユニークな商品が揃う。
 「漬物では干し大根を糠に漬けて発酵させた『田舎たくあん』、漬物の素ではその糠を使った『熟成ぬか床』や白菜漬けの漬け汁を使った『浅漬け革命』、甘酒は自家製麹だけで作る『糀の甘酒』が主力商品。この糀の旨味を活かすことで、アレルギー28品目不使用の『麹の鍋つゆ』シリーズや『奇跡の米粉ラーメン』といった漬物以外の商品も開発できるようになった」
‐アレルギー対応の重要性。
 「アレルギー患者にとっては生死に関わるほど切実な問題なのに、スーパーではまだまだニッチ扱いで売場が確保されていない。必要とされる方へ直接お届けできる通販という場があって良かったとつくづく思う。最近では宿泊施設や、アレルギー対応に関心の高い海外からも引き合いが来ている」
‐就任から半年を振り返って。
 「数字で見れば、前期から10%以上の増収となる見込み。コスト削減と価格改定に取り組んだことで利益も改善するはずだ。増収を牽引しているのが通販部門。優秀なスタッフを迎えることができ、彼らの努力がはっきり表れている」
ー今後の目標は。
 「この半年も取り組んできたことだが、最も重視しているのが従業員に幸せになってもらうこと。従業員第一主義を掲げ、環境整備に取り組んできた。また経営理念の浸透に力を注ぎ、会社の目指す方向を理解してもらったことで、何事にも主体的に取り組んでくれるようになってきた。取引先からも、社内の雰囲気が変わったと言ってもらい、成果を感じている。皆で力を合わせて、食と発酵で世界中の健康と笑顔に貢献していきたい」
【2024(令和6)年10月1日第5175号5面】


9月11日号 酢漬特集

株式会社みやまえ  代表取締役社長 宮前有一郎氏

メニュー採用伸び率2割超
外国人へ「本物」の和食体験を
 株式会社みやまえ(宮前有一郎社長、奈良県生駒郡平群町)は生姜商品の総合メーカーとして全国でトップクラスのシェアを持つ。今年の生姜原料は十分に確保できると見通しを語る。一方で、業務用商品がコストカットの対象となっている現状から、その対策として漬物を使ったレシピ提案強化の方針と、訪日外国人へ本物の和食体験を提供する重要性を語った。(大阪支社・小林悟空)
‐今年の生姜原料の見通し。
 「直近3年連続で生姜が高騰していたこともあり、山東省、中国南部、タイのいずれも作付けが増えた。作柄も順調となっているので、十分な量が穫れる年になる。当社も計画通りの量を確保できそうだ」
‐価格への影響は。
 「4年ぶりに落ち着くはずだが、それはあくまでも現地価格の話し。日本へ輸入するためには円安や海上運賃ほか諸コストの上昇が重くのしかかってくるので、大幅に安く仕入れられるということはならない。製品価格についても据え置きを予定している。ここ数年で値上げを複数回にわたり実施してきたのだが、それでもコスト上昇分を全て転嫁できていたわけではなく、厳しい財政状況だった。今年、原料価格がある程度下がってくれればようやく事業継続可能な状況に近づけると見ている」
ー生姜漬の販売状況は。
 「価格改定による単価上昇で売上は微増で10月決算も増収を見込んでいるのだが、数量は落ちている。ガリ、紅生姜とも卓上での無料提供が中止されるなど、同業者間での競争ではなく需要そのものが失われていることに危機感を覚えている。一方で、料理具材としての用途や海外輸出は増えているのでさらなる拡大を目指したい」
‐料理具材の利用について。
 「添え物としての利用だけでなく、料理素材としてならば和洋問わずすべての食品がターゲットになるためレシピ提案を強化している。惣菜市場自体が成長産業であり、努力が成果に出る分野。過去3年間のメニュー採用伸び率は23%だった。当社の強みはカット幅や添加物の種類、包装形態など多様な規格を揃えていること。調理オペレーションの削減に繋がる提案もできるため、価格以上の価値を感じて頂けている」
‐海外輸出について。
 「本物志向の強い欧米からの注文が増えている。和食の未来の鍵となるのは外国人だと考えている。訪日外国人は安さよりもクオリティを求めている。彼らに満足していただき、その食事体験を地元でも望むようになれば海外における和食のレベルも上がっていく。それに伴い、日本製食材の輸出も増えていく。日本で修行した料理人の価値も高くなり、いずれは普遍的なものになる。コスト高でも品質を維持し、食に関わるサプライチェーン全体が踏ん張り、漬物を含めた本物の和食を守っていかなければその明るい未来も閉ざされるだろう」
【2024(令和6)年9月11日第5173号8面】


9月11日号 鹿児島特集 インタビュー

株式会社太陽漬物 代表取締役社長 寺田知弘氏

「安定供給」が強みに 大根仕入れ値は3年連続引上げ
 東海漬物グループの株式会社太陽漬物(鹿児島県曽於市末吉町)は、沢庵(干し・生漬)、高菜漬を主力に製造し、特に沢庵は国内トップクラスの生産規模を誇る。寺田知弘社長は、原料農家が減少、高齢化している現状を語った上で、原料確保ができれば売上にも直結していくと指摘。農業維持に力を入れると語った。(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐沢庵の市場動向は。
 「当社は順調に推移しており、前期(8月決算)も計画通りで着地できた。市場全体でも沢庵は好調なカテゴリの一つだと思う。中でも刻みタイプの伸びが大きく、長年売上トップを維持してきた『しそ味L』を『九州つぼ漬』が上回りつつある。簡便性の面で支持されているのに加えて、一本物原料が不足していること、食品ロス削減の目的から主体的に刻みタイプの提案を強化してきた結果が出てきた形だ。今年5月にはカップ専用ラインを立ち上げた。原料不足や個食少量化に対応すべくカップ事業にも邁進し、干し沢庵、生沢庵、高菜に続く第4の柱にしていきたい」
‐原料の不足について。
 「昨シーズンは特に干し大根が不足した。干し作業期間の降雨が多く雨ズレが起き、一本物に使えるきれいな干し大根が少なかった。その分、変色した部分をトリミングして刻み用に回すなどの工夫で売上を維持してきた。当社に注文が集まっている理由の一つに『安定供給できるから』という点が大きいと思う。原料確保が売上に直結するという時代が来ている。今年は可能な限り作付けを増やしてもらえるよう農家と交渉しているところだ。播種は9月下旬から始まる」
‐長期的にも農業維持が重要だ。
 「当社は沢庵最大手という自覚を持ち安定供給に全力を尽くしている。具体的な取組としては、契約農家へ種の提供から行い収穫できた大根は元漬業者様に頼らず全て自社で漬込んでいる。農業から一貫して自社管理し、緻密な販売計画を立てている。直近3年間は連続で買取価格の引き上げも行った。毎年作付け前には契約農家と集まる機会を設けており、当社の経営状態まですべて理解頂いた上で、パートナーとして栽培協力をお願いしている。ただ、より根本的には農業の立ち位置そのものを改善しなければならないとも考えている。行政やJA、漬物組合などとも連携していく必要がある」
‐高菜について。
 「高菜漬の比率は年々増え、干し沢庵、生沢庵に続く第3の柱に成長している。高菜原料の生産量では、鹿児島が日本一であり、産地隣接のメリットを生かしていける。高菜漬は九州ローカルの漬物から全国区の存在へと育ってきており、これからも伸びが期待できる。また、大根の干し作業が負担となった農家には高菜の栽培に移ってもらうなど、製造品目の広がりが立ち回りの柔軟さにも繋がってきている」
【2024(令和6)年9月11日第5173号4面】

太陽漬物
https://www.taiyo-t.jp/

株式会社メセナ食彩センター 常務取締役 釘村浩昭氏

努力が実った「柚子町」 用途拡大、輸出好調で搾汁機増設
 株式会社メセナ食彩センター(南喜一社長、鹿児島県曽於市)は曽於(そお)市、㈱ナンチク、生産団体などが出資し、第三セクターとして平成9年7月に設立。地元産のゆず製品や農畜産物加工品の製造販売を行っている。同社のある曽於市は九州一のゆず生産量(農水省調べ)を誇り、市を挙げて“柚子町そお”をアピールしている。釘村浩昭常務は、柚子の生産量九州一が地域の努力の結果であること、また柚子は用途、販路ともに拡大しており、今年から搾汁機を倍増させたことを明かした。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐柚子町そおの歴史を。
 「曽於市のゆず栽培が盛んになったのは偶然ではなく、そうしようという人々の努力が実ってのこと。約40年前、旧末吉町役場の新庁舎落成記念に、町民へゆずの苗木が配られたことがきっかけだった。標高が高く冷涼な気候が合うということが分かると、徐々にゆず栽培を本格化させる農家が増加していった。それをもっと有効活用・ブランド化しようと行政、企業、生産農家らの共同出資で誕生したのがメセナ食彩センターだ」
‐柚子の需要は。
 「当社は新鮮な柚子を使った柚子皮・柚子果汁を国内外へ供給しているほか、自らも多彩な商品を『柚子彩(ゆずいろ)』ブランドから展開している。今年4月末には『マツコの知らない世界』で『ゆずノンオイルドレッシング』が紹介され注文が殺到した。通販などを含め、ついで買いも起き、「ゆずこしょう 青」や「ゆずゼリー」など、曽於の柚子の魅力を幅広く知ってもらう機会になった」
‐原料供給にも力を入れている。
 「柚子というと一昔前は秋冬食材のイメージが強かったが、今ではドレッシング類や飲料、お菓子の用途で夏の方が引き合いが強くなっているほどだ。欧米を含めた海外輸出も多い。同じ柑橘系でもレモンやオレンジとはまた違った独特な香りを持つ柚子は、日本を象徴する味といった受け入れ方をされているようだ。今年から搾汁機を4基↓8基へと大幅増設し月間1000t以上の処理が可能で、九州トップクラスの処理能力となったので、良質な原料供給に努めたい」
‐生産農家の高齢化が全国で進むが。
 「当地域においてもその通り。幸いにして海外マーケットを視野に入れれば、今後も需要は伸ばして行けると踏んでいるので、如何に栽培を増やしていくかが重要になる。将来性を見込んで新規就農してくださる方もいるが、既存農家の引退と一進一退の状況。樹(接ぎ木)の植え替えでも収穫できるまでに5~6年はかかるため、早め早めの対策が求められる。何より大切なのは曽於の柚子をブランド化し、収益性を上げていくことなので、製品開発・販路拡大に全力を尽くしたい」
【2024(令和6)年9月11日第5173号5面】

メセナ食彩センター

9月1日号 トップに聞く

東京中央漬物株式会社 代表取締役社長 齋藤 正久氏

「ジョイフルフェア」9月27日開催
幅広いニーズや要望に応える
 東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(東京都江東区豊洲)の齋藤正久社長にインタビュー。9月27日に東京都台東区の東京都立産業貿易センター台東館で開催する『2024 C‐Z ジョイフルフェア』について話を聞いた。今回の出展社数は荷主会企業が63社、荷主会以外の企業が30社で計93社が出展。得意先からの要望やニーズに応えるための対応で、「物価高に負けず新たな商品価値の発見~和食回帰で漬物摂取~」をテーマに、年末向け商品を中心に幅広く提案する。(千葉友寛)
◇   ◇
 ‐昨年に続いて展示会を9月に開催する。
 「多くの展示会は6月か7月に開催され、当社も以前は7月に開催していたが、コロナもあって目先を変えてみよう、ということで昨年初めて9月に展示会を開催した。9月は夏場よりも少し涼しくなるし、会場も浜松町より浅草の方が来やすいということもあり、以前よりも多くの得意先にお越しいただくことができた。商品提案は秋冬ではなく、年末向けが中心となるが、業界内の情報交換の場としても利用していただいている」
 ‐荷主会以外の企業の出展が増えている。
 「これも昨年からのことだが、以前は荷主会企業中心の出展だったが、消費者のニーズが多岐に渡っていて、得意先の要望も幅広くなっており、それらにしっかりと応えるために荷主会以外の企業に出展をお願いするケースが増えている。荷主会以外の企業においてはまだ成果が出ていないところや発展途上のところもあるが、何かのきっかけで取引が拡大する可能性があると思っている。当社は全国の名産品を供給することが大きな役目なので、得意先に関心を持っていただけるような商品を提案していきたい」
 ‐展示会のテーマは。
 「物価高が続き、この秋も多くの食品が値上げになる。消費者は自分が好きなものや必要なものしか買わなくなっており、その線引きがこれまで以上にシビアになっている。ただ、コロナが収束し、売場で試食の提供が可能となっているため、試食で美味しいものに出会えれば価格に関係なく購入していただけると思う。一度気に入った商品は多少の値上げがあっても買い続ける人が多い。いかに出会う場を提供するか、ということが大きな課題で、若い人は売場に来ないので試食を提供する機会もない。それならばSNSで情報を発信するなど、これまでとやり方を変える必要もある」
 ‐ニーズの変化。
 「都市部を中心に世帯人数が減少していることもあり、食べ切りサイズや食卓に並べるのに手間がかからない個食、簡便性のニーズが高まっている。展示会では今年も全国名産コーナーを設置せず、個食コーナーを初めて設置する他、来年の展示会では漬物を素材としたレシピ提案を行いたいと考えている。そのまま食べるだけでは漬物の需要は増えない。特に若い方に向けては、料理素材としてメニュー提案を行うことで裾野が広がると思っている。また、新進さんのように『福神漬の日(7月29日)』に合わせてイベントを開催したり、やまうさんのように『吉祥寺カレーフェス』に福神漬を協賛するなど、仕掛けていくことが重要。当社はここ2年、通販や業務関係の得意先が増えている。特に業務用はコロナが収束して需要が増加しているのでもっと伸びると見ているし、当社も力を入れている。展示会の会場ではこのような情報交換をさせていただきたいと思っているので、多くの方にご来場していただきたい」
【2024(令和6)年9月1日第5172号1面】

プロが売りたい!地域セレクション 特別会員
東京中央漬物 https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/1293/

9月1日号 社長に聞く

兵漬兵庫食品株式会社 代表取締役社長 堺智洋氏

企画提案力で商品開発も
「変革とチャレンジ」に邁進

 1947年創業で、漬物や味噌の卸売等を担う兵漬兵庫食品株式会社(堺智洋社長、兵庫県神戸市)は、今年4月に78期目を迎えた。昨年、新社長に就任した堺社長は「自社の強みである企画力・提案力を活かし、積極的に消費者の求める商品の開発や販促を進めていきたい」と現在の取組と抱負を語る。伝統食の価値を継承する役割と、社訓である「変革・チャレンジ」の両輪をより一層回していく事業に邁進する。
(大阪支社・高澤尚揮)
       ◇
 ー売上推移や梅の不作について。
 「物価高騰による消費者の節約志向が続き、自社では4~6月の3カ月の売上は、前年同月比で100%を超えず厳しかった。ただ7月は、猛暑の影響で梅干しの売上が牽引してくれたこともあり、単月で109・4%となり、4~7月で見ると101・6%となった。だが今年産の国産梅は、紀州梅が平年の3割作、他の地域でも半作と言われている凶作の中で、秋冬から、新物に切り替わる。来年の商品供給を不安視しているところだ」
 ーメーカーとの商品開発にも取り組む。
 「当社は卸売として、スーパーや生協の和日配コーナーで、消費者がどんな商品を日々購入しているのか、常に現場の情報を収集している。最近では、キムチメーカーとコラボレーションし、8月には神戸市産きゅうりと白菜を使用したキムチを開発し、阪神間で販売を開始。9月からは、北陸地域でも販売がスタートする。当社の社員は、自分が持っている知見を活かした商品開発ができ、その商品をスーパーや生協へ販促できることに強いやりがいを持ってくれている」
 ー今後の取組は。
 「キムチの企画開発に続き、他の漬物やラインナップでも、当社はメーカーと商品開発を進めていきたい。企画開発に携われることを求人の際にアピールすると、20~30代のアイデア豊かで活力のある方を正社員で採用できた。その他、当社は原料野菜の調達ネットワークも有しているので、要望があれば、既存取引先を中心に原料を提供すると役に立つと考えている。また商品ジャンルによっては、30年以上前から海外輸出業務も行っているので、そこにも力を入れたい」
ー最後に貴社の経営理念をお聞かせください。
「兵漬の3つの願い、健康(HEALTH)、希望(HOPE)、幸福(HAPPINESS)を込めて伝統の味を提供していくことを使命と感じている。一方で社訓は、『変革とチャレンジ』。漬物や佃煮といった伝統食の価値を伝えていくのと同時に、時代を捉えた商品の開発や提供にも引き続き邁進する」
【2024(令和6)年9月1日第5172号2面】

兵漬兵庫食品株式会社

9月1日号 トップに聞く

株式会社日本東泉 代表取締役社長 李忠儒氏

山東省生姜は質・量良好
「ホワイトガリ」積極提案
 株式会社日本東泉(大阪市住之江区)の李忠儒社長にインタビュー。同社は世界最大の生姜産地である山東省に、自社工場として今年で創立30周年を迎えた現地法人「龍口東寶(ドンパオ)食品有限公司」を有し、生姜の契約栽培から加工までを一貫して行う。原料卸としては生姜、にんにく他中国農産物を塩蔵原料、冷凍、漬物完成品などの形態で供給している。今年の山東省産生姜は作付面積が前年より増加し作柄も良好。4年ぶりに十分な量を確保できる見通しで、「ホワイトガリ」などの原料卸、メーカー双方の立場で積極的な提案をしていく。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
‐山東省生姜の状況。
 「作付面積は山東省とその周辺を含めて昨年より2~3割拡大していて、順調に生育している。早掘りの漬物用は通常より早い8月上旬から収穫が始まった。これは7月末の豪雨で水に浸かった生姜が茹だって病気になるのを避けるためのもので、全体的な収穫量には大きな悪影響とはならないだろう。今年は良好な品質で十分な量の漬物用原料を確保できそうだ」
‐価格の見通し。
 「現地価格としては落ち着くと見ている。直近3年間は中国国内での生姜需要の高まりと、投機筋による人為的な価格の吊り上げがあった。青果生姜が高いので農家が早掘りするのを敬遠して漬物用も不足、高騰するという循環になっていたのだが、今年で十分な量が出回れば解消されていくはずだ。ただし、日本への出荷となると海上運賃を始めとしたコスト上昇や、為替(ドル建て)の影響が重くのしかかるため、結局は昨年産と同じくらいでのご提案とならざるを得ないようになると思う」
‐原料が高騰していた3年間も安定供給を続けた。
 「当社は山東省に自社農場、契約農場で生姜を栽培している。契約栽培では固定価格ではなく、相場下落時は保障ラインで、相場上昇時には相場に連動させて買い取る形を取っている。豊作傾向の年でも買い叩かず信頼関係を作っていくことで、不作の時にも必要量を確保させてもらえる」
‐食の安全性追求に様々な認証を取得している。
 「中国農産物というと残留農薬などについて心配される方も多いが、当社は2000年には中国漬物メーカーで初、全生姜業界では2番目となるISO9001と、肥料・農薬に厳しい制限を定める緑色食品A級を取得、2007年にはグローバルGAPを取得した。また漬物メーカーとしてもHACCPシステムを導入し、FSSC22000取得の工場で製造を行っている。世界基準の管理で、日本だけでなく世界中へ輸出できる体制となっているので安心していただきたい。生姜以外にもにんにくや唐辛子も扱っている」
‐品質にもこだわる。
 「当社の中でも最高級品がオリジナルの『ホワイトガリ』。土壌作りから品種改良まで独自開発した方法で栽培した生姜を、極若掘りし、無漂白で伝統の押し漬け方法を守り続けている。ほどよい辛さとシャキシャキとした柔らかな食感が自慢のガリだ。そのホワイトガリ原料は大手メーカー様からも長年利用いただいている」
‐方針は。
 「ここ3年間は既存製品の安定供給を最優先とする守りの時期だったが、今年は原料卸としても、メーカーとしても、積極的な提案ができそうだ。これまで無料提供されてきたガリや紅生姜の有料化が現実化してきており、使用量減少が危惧されるが、品質で選んでもらえる時代が来るということでもある。ぜひ食べ比べて極若掘り、無漂白のホワイトガリの品質を実感していただきたい」
【2024(令和6)年9月1日第5172号4面】

工場長・店長必見!関連資材機器・原料

8月11日号 <新潟特集> 理事長に聞く

新潟県漬物工業協同組合 理事長 佐久間 大輔氏

フリーズドライ漬物を試作
漬物は『おむすび』の主菜に
 新潟県漬物工業協同組合の佐久間大輔理事長にインタビュー。「佐渡島の金山」が世界遺産に登録されたことや組合の課題、今後の活動などについて話を聞いた。組合では昨年からフリーズドライ漬物の開発を行っており、県と協力した取組として新しい需要の開拓を目指していることを明かした。また、9月30日からスタートするNHK朝の連続テレビ小説が『おむすび』に決まったことで、漬物の需要と裾野の拡大につなげる提言を行った。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐「佐渡島の金山」が世界遺産に登録された。
 「新潟県としては朗報となった。新潟は冬のスキー以外、外国人観光客があまり来ない。世界遺産登録を機に国内外の観光客が増えて賑やかになれば、お土産や外食関係の需要が増えるので、我々の業界にも追い風が吹くことを期待している」
 ‐組合でフリーズドライ漬物の研究を行っている。
 「昨年度から県と協力して漬物をフリーズドライにする取組を行っている。出来具合は評判が良く、7月18日に開催された花角英世県知事との懇談会にお持ちしたところ、『ものすごく珍しい食べ物という感じがして、意外と好評になるかもしれない、という予感がした。全ての種類が上手くいくのか分からないが、いくつかはひょっとしたらヒット商品になる、と感じた。いずれにしても面白い試みをされたと思う』とおっしゃっていただいた。9月9日に開催する組合の講習会では、防災食のテーマでご講演をいただく。フリーズドライは冷蔵庫に入れる必要がないので新しい保存食。いまは県の施設で沢庵、にんにく、奈良漬を試作している。今後、県内でフリーズドライを製造する会社と商品化を進めることにしている。販売についてはどこが窓口になるか決まっていないが、キャンプ用品店やお酒売り場を視野に商品化を含め、皆さんの意見を聞きながら進めている」
 ‐フリーズドライ漬物のきっかけは。
 「新潟には瓶詰や缶詰を製造する会社がなく、新潟でも余ったものを保存する方法としてフリーズドライの案が出され、漬物業界でもやってみませんか、と声をかけていただいたことがきっかけ。これまで組合を挙げてものづくりをする機会はなく、色々な意見もあると思うが、みんなで力を合わせて一つのことを作り上げていくことは良いことだと思い、取り組んでいる。今の時代はどこに価値があるか分からない。今年3月に開催された『にいがた酒の陣』で組合ブースを出店してテスト販売したところ、駅で販売してほしい、おつまみとして食べられるなど、評判が良かった。価格や販売方法など、クリアしなければいけないこともあるが、前向きに取り組んでいる」
 ‐漬物の需要拡大の取組について。
 「9月30日からスタートするNHK朝の連続テレビ小説が『おむすび』に決まった。主演は若い世代に影響力のある橋本環奈さん。ご飯やおむすびと関係性が強い漬物は、いつもの食卓では副菜や添え物として食べられているが、『おむすび』の具材になれば主菜になる。全日本漬物協同組合連合会の中園雅治会長には、連続テレビ小説とのコラボなど、何かアクションを起こせないか、という話をしている。例えば、組合員の商品をおむすびにして写真を撮り、それを組合のHPにアップして各企業のHPにリンクさせたり、ハッシュタグを付けて情報を広く発信することもできる。海外ではおにぎりが人気で、メードインジャパンの具材にも関心が集まっている。国内の需要もさることながら、輸出の可能性も広がる。業界各位には是非、この機会を生かしていただきたい。また、漬物だけではなく佃煮や和惣菜もおむすびの具材になるので、各業界が協力して大きな力を生み出すことにつながればいい、と期待している」
【2024(令和6)年8月11日第5170号12面】

新潟県漬物工業協同組合
https://www.tsukemono-japan.org/niigata/

8月1日号 <霞ヶ浦北浦特集>組合長に聞く

霞ヶ浦北浦水産加工業協同組合 組合長 小沼和幸氏

 霞ヶ浦北浦水産加工業協同組合では、6月開催の第19回通常総会にて小沼和幸氏が組合長に選任された。霞ヶ浦北浦では近年不漁が続き、今年もワカサギ漁はここまで不漁となった昨年より漁獲量が減少するなど厳しい状況となっている。小沼組合長は、組合員で協力し、霞ヶ浦北浦の食文化である佃煮や煮干しを次世代へ繋いでいくことの重要性を強調した。(藤井大碁)
‐新組合長に就任された。 
「霞ヶ浦北浦の不漁や円安など、我々水産加工業を取り巻く環境は非常に厳しいが、こうした状況だからこそ、皆で協力していくことが必要で、組合の存在意義は高まっている。戸田前組合長の地域振興へかける強い想いを引き継ぎ、皆様の期待に応えられるよう努力していきたい」
‐今年の漁模様。
 「7月21日にトロール漁が解禁されたが、ワカサギに関しては今年もここまで厳しい漁模様となっている。温暖化により水温が上昇し、ワカサギが生きられない環境になっていることが不漁の要因とされる。この2~3年の間、猛暑が続き、親のワカサギが死んでしまうため、子のワカサギも増えない。そうした悪循環により今年の漁獲量は昨年よりさらに減少している。今後も気候が変わらない限りは、漁獲量の急な回復を期待することは難しい。またワカサギの不漁は霞ヶ浦だけの問題ではなく、全国的なものなので、他の産地のワカサギで代替することも難しくなっている。シラウオや川エビは、今のところ温暖化の影響は少なく、一定量は捕れているので、今ある資源を大切に、付加価値を付けて販売していくことが求められる」
‐組合事業について。
 「コロナ前に実施していた茨城県アンテナショップでのPRイベントなど、様々な場において、霞ヶ浦北浦の幸であるシラウオや川エビ、また漁模様にもよるがワカサギの価値を発信していきたいと考えている。また毎年11月に開催されている茨城県水産製品品評会も組合にとって大切な事業だ。品評会に出品することが、組合員の製品の品質向上につながっており、品評会の意義はとても大きい。不漁の問題を含めて、県と情報交換を活発に行い、連携して取り組んでいきたい」
‐足元の動向。
 「昨年コロナ禍がようやく落ち着き、業務用製品が動き出したところだが、海外原料を仕入れる際に円安の影響が直撃している。値上げは少しずつ実施しているが、値上げすることにより動きが鈍ることもあり、全てを価格転嫁することは現状できていない。だが為替だけでなく、電気代や包材、物流費の他、砂糖、醤油といった副原料も全て上がっているため、もう一段の値上げを実施していかなければ難しい状況になっている」
‐今後について。
 「霞ヶ浦北浦の水産加工業は、不漁や後継者不足など、様々な課題を抱えている。だが、霞ヶ浦北浦のワカサギやシラウオ、川エビを使った佃煮や煮干しは、この地域の食文化であり、その食文化を次世代へどうにかしてつないでいかなければならないと考えている。厳しい環境ではあるが、組合員の皆様と協力することで、この難局を乗り越え、霞ヶ浦北浦水産加工業の発展に向け取り組んでいきたい」
【2024(令和6)年8月1日第5169号8面】

8月1日号 <霞ヶ浦北浦特集>新社長に 聞く

株式会社出羽屋 代表取締役社長 戸田弘美氏

地域や業界に貢献できる会社へ
ボトムアップ型の企業体制目指す
 株式会社出羽屋(茨城県かすみがうら市)では、4月に戸田廣前社長が逝去されたことを受け、7月1日より戸田理専務が代表取締役会長、戸田弘美常務が代表取締役社長に就任、新体制下で新たなスタートを切った。戸田弘美新社長は、現場の意見を積極的に取り入れるなどボトムアップ型の企業体制へ変革し、次世代にバトンをつなぎたいと語った。(藤井大碁)
‐4月に戸田前社長が逝去された。
 「前社長である父は長生きをして、色々なものを私たちに遺してくれた。突然の事であったため、当初は混乱し、大変なこともあったが、それでも会社としてきちんと回すことができたのは、父が私たちに日々の業務を任せてくれていたからだと考えている。今後は父の想いを大切にして、地域や業界に貢献できる会社となることにより、父への恩返しにしていきたい。父を支え続けてくださった皆様、父とご縁があった皆様に改めて御礼を申し上げたい」
‐新体制の下、スタートを切った。
 「先代、先々代の時代はトップが責任を持って全て決めて実行するトップダウン型の企業体制で経営を行ってきたが、私の代でボトムアップ型の企業体制へ変革していくことを目指している。社員とミーティングを重ねることで、様々な議論を交わし合い、現場の意見やアイデアを積極的に取り入れていきたいと考えている。最終的には、企業として何を目指すのか、社員と話し合って決めることが理想だ。厳しい環境ではあるが、会社のビジョンをしっかりと定めて、次の世代へバトンをつないでいきたい」
‐前社長から受け継ぐ考え方。 
 「前社長は“美味しいか美味しくないかはお客様が決める”とよく言っていた。お客様がどう考えるか、ということをものすごく大切にしていた。例えば、製造コストを減らすために調味料の質を落とすことなどは絶対にしてはいけない。見直しは必要だが、味の根幹になるものは変えない。変えてしまえば、出羽屋の味では無くなってしまう。万が一変える必要があれば、何度も試験を繰り返し、味が落ちないかどうかを徹底的に検証する。お客様に美味しいと思ってもらえる商品を作り続けるという先代の想いをこれからもしっかりと受け継いでいく」
‐霞ヶ浦では近年、不漁が続いている。
 「前浜の漁獲量が少なくなったことは厳しいが、だからこそ、これまでできなかったことにチャレンジできる。限りある霞ヶ浦の資源をどうすれば一番お客様に喜んでもらえる形で提供できるかを考えていきたい。霞ヶ浦には、頑張っている人がたくさんいる。漁師や加工メーカーが協力すれば、この厳しい環境を乗り越えられると信じている。前社長が組合にこだわったのも皆で協力することの重要性を認識していたからだと思う。小沼新組合長の下、組合活動が盛り上がることを期待したい」
【2024(令和6)年8月1日第5169号9面】

8月1日号 調理食品青年交流会神戸大会 実行委員長に聞く

第33回調理食品青年交流会神戸大会 実行委員長 柳本健一氏

13年ぶりの神戸開催
講演や工場視察で深い学びを
 「第33回調理食品青年交流会・神戸大会」では大会セレモニーや代表者会議の他、株式会社神戸物産の沼田博和社長の講演が行われる。神戸物産は“業務スーパー”のフランチャイズ展開を中心に、事業成長に成功。その成長の秘訣や、食品業界の展望について耳を傾ける。翌日12日は、神戸の有力食品メーカーであるカネテツデリカフーズ、ロック・フィールドへの工場視察が実施される。実行委員長の柳本健一氏(マルヤナギ小倉屋常務執行役員)が見所を語った。(大阪支社・高澤尚揮)
◇    ◇
ー13年ぶりの神戸大会になる。
 「神戸での青年交流会は今回で3回目となる。初回は1997年に開催され、当初は95年の予定だったが、同年に阪神淡路大震災が起きたため、2年後の復興が進む中の開催となった。2回目は2011年に開催された。3月に東日本大震災が発生した4カ月後の開催で、参加者で被災地の復興を祈り、業界に携わる人々の結びつきの強さを確かめ合う大会になったと聞く。前回から13年が経ち、青年交流会の運営者や参加者の世代交代は進み、多くの顔ぶれが変わっている。だが、参加者同士が交流すること、業界の未来について語り合うことの意義はより高まっている」
ー神戸大会の見所について。
 「学びを持ち帰ってもらえる大会にしたい。講演では、神戸物産の沼田博和社長より、業務スーパーのフランチャイズ展開の成功の秘訣についてお聞きする。神戸物産は実は小売業ではなく、卸売業・食品製造業で、業務スーパーはフランチャイズ展開で運営されている。業務スーパーにフランチャイズ加盟したいと思ってもらえるよう、神戸物産では魅力的なPB商品開発を行っている。私たち、メーカーが同社から学べることは多い。また、フランチャイズ加盟店を海外に増やす取組も進めていて、日本食の海外輸出のエピソードについても聞けそうだ」
ー講演後の懇親会での主な話題は。
 「商品開発、人材開発、海外展開が主な話題になるのでは。年々、消費者の趣向が多様化しており、消費者が何を求めているか見えづらくなっている。商品開発は、メーカーにとっては要であり、どんな商品が売れているのか、どんな商品を開発すべきか、最も情報交換を期待しているはずだ。また経営者や管理職でチームの作り方や人材確保に悩む人は多いので、人材開発の悩みも共有してほしい。国内の人口減でマーケットが縮小していく中、業界メーカーの販路拡大は課題で、海外展開への関心は高まっている」
ー大会翌日は工場視察へ。
 「二班に分かれてもらい、神戸の有力な食品メーカー、カネテツデリカフーズとロック・フィールドの工場視察を行う。人手不足の中でも両社は、付加価値の高い商品作りと自動化を両立させ、その工場運営から学べることは大いにある。カネテツは、魚肉ねり製品を主とした水産加工品を、ロック・フィールドは惣菜を製造し、どちらもオリジナリティ豊かな、バラエティに富んだ商品を開発・製造している。社長自らが案内していただけることになった」
ー大会・視察の申し込み方法。
 「参加者が手軽に申し込めるよう、昨年の東京大会時に、神戸大会用のLINEグループを作成し、そこから申し込みができるようにした。現在70名ほどが参加し、7月26日にはLINE上で最終案内を行った。大会前・大会後もLINEグループで交流を深めていただき、業界の仲間の輪を広げたい」
(2024年5月1日号掲載一部編集)
【2024(令和6)年8月1日第5169号9面】

7月21日号 <滋賀特集>新社長に聞く

株式会社やまじょう  代表取締役社長 上西宗太氏

味で選ばれる漬物作りを 新規ファン獲得へ開発加速
 近江漬物を製造販売する株式会社やまじょう(滋賀県湖南市下田)は7月1日をもって上西宗太専務が代表取締役社長に就任、上西宗市社長は代表権のある会長となった。上西新社長は、自社の強みは旬の野菜を重石を効かせて漬ける美味しさであると話す。原料確保や少子高齢化に対してもその技術を活かした新製品開発が一番の対応策との考えを示す。
(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 ‐略歴を。
 「1983年7月3日生まれの41歳。大学卒業後は東京と京都の漬物メーカー2社で、合わせて3年ほど勤務した。漬物業界は20年弱経験していることになる。やまじょうに入社してからは千枚漬を中心とした製造部から始め、営業や事務仕事など一通り経験してきたつもりだが、改めて会社の在り方や漬物業界の将来を深く考えなければ、と立場の重みを感じている」
 ‐貴社の現状は。
 「量販店や生協向けを中心としたメーカー部門と、県内4か所に出店している直営店『近江つけもの山上』が二本柱となっている。直近の業績としては、コロナ禍で落ち込んでいた直営店と業務用製品がほぼ回復した。昨今のコスト上昇に対応した価格改定もご理解いただき、売上としては計画通りに推移している」
 ‐強みは。
 「地場の野菜、旬の野菜をしっかりと重石を効かせて漬け込むという基本を大切にしていること。当社製品は高価格帯に位置していると思うが、それでも購入してくださる方がいるのは美味しさを評価していただいているからだと思う。これからも品質の維持、向上を第一とする姿勢を守っていきたい」
 ‐売れ筋製品は。
 「通年製品としては『昆布割』を始めとした大根製品が軸となっていて、夏場は伝統野菜の下田なす、冬は千枚漬が季節ものとしてよく売れる。課題となっているのが大根の原料確保。最近は年々夏場の確保が厳しくなり、お客様へ迷惑をかけてしまい当社にとっても大きな機会損失となっている。このため現在は熟成タイプ、つまり日持ちが良い新製品開発に着手している」
 ‐今後の課題は。
 「少子高齢化への対応が最も根本的課題だと考えている。直営店、量販店とも主要顧客は50代以上であり、彼らは今後食が細くなっていくし、今の40代以下が漬物を食べるようになってくれるとは限らず、新規ファンを獲得しなければ生き残りは厳しくなる。その対応策はやはり、当社の技術を活かせる新製品開発に尽きると思う。売れる商品を作ることは社員の待遇改善や設備投資にも繋がる。これまで以上に柔軟に、スピード感をもって実現していきたい」
【2024(令和6)年7月21日第5168号22面】

やまじょう
https://www.yamajou.co.jp/

7月21日号 <長野特集> 新社長に聞く

株式会社マルトウ 代表取締役 久保廣範氏

長野の漬物文化を継承 食べてもらうための取組強化

 株式会社マルトウ(長野市篠ノ井小森)では今年4月、久保廣範氏が代表取締役に就任した。同社では長野県の漬物文化を伝承すべく、約30種類の漬物を製造。白菜漬、野沢菜漬といった定番品から地大根、丸茄子からし漬といった地域性の高い商品まで幅広い漬物が県内スーパーを中心に人気を集めている。久保社長は、原料確保が年々難しくなる中、生産者との信頼関係を構築し、力を合わせて取り組んでいく必要性を指摘した。(藤井大碁)
◇      ◇
―社長に就任して約3カ月が経過した。
 「漬物業界の環境は非常に厳しい。物価上昇により、消費者の節約志向が強まっており、日常的に購入する食品は特にその影響を受けている。経費の面でも、人件費やエネルギーコスト等様々な製造コスト上昇に加え、円安の影響も大きくなっており、難しい舵取りが求められている。早急に打開策を模索しなければ大きな痛手になるが現在の市場環境を鑑みると大幅な値上げには慎重にならざるを得ない状況だ」
―現在の製造アイテムについて。
 「浅漬、本漬を含めて約30種類を製造している。野沢菜漬、白菜漬、味噌漬、しば漬といった定番品の他、旬の地場野菜を使用した地大根、丸茄子からし漬、白うり粕漬といった地域性の高い製品も製造している。アイテム数が多いので、取引先のスーパーから売場づくりを任せてもらえれば、自社製品で幅広いラインナップを揃えられることは強みとなっている。一方で、アイテム数が多いことにより作業効率がどうしても下がる。人手不足が深刻化する中、いかに作業効率を上げられるかが課題となっている」
―売れ筋商品は。
 「数ある商品の中でも、北信エリアで収穫される飯綱青大根をぬか漬けにした地大根は弊社を代表する商品だ。販売期間は12月~7月頃までだが根強い人気商品となっている」
―力を入れて取り組んでいくこと。
 「漬物をもっと食べてもらえるよう取り組んでいきたい。現在弊社では増量キャンペーンを定期的に実施している。人口減少が進む中、食べる回数や食べる量を増やしてもらわなければ、将来的に漬物消費量は減っていってしまう。農水省の『漬物で野菜を食べよう!』キャンペーンにおいても、野菜の不足分は漬物で摂取しようと呼びかけている。長野県民は漬物をたくさん食べ、塩分摂取量も多いが、全国有数の健康長寿県として知られている。漬物で塩分を摂取しても、野菜に含まれるカリウムの働きにより、ナトリウム(塩分)は排出される。こうした知識を積極的に発信することで、漬物消費拡大につなげていきたい」
―長野県の漬物文化。
 「長野県は冬場に野菜がとれない、また海産物も無い中で、保存食として漬物を食べるようになったのは先人達の知恵だと思う。現在はインフラの整備が進み、食文化も豊かになり、必ずしも保存食が必要な時代とは言えなくなった。だが、長い歴史の中で培われてきた長野の漬物文化を次世代に継承していくことはとても大切なことだと考えている。より安心安全で、より美味しい漬物作りを目指して努力していきたい」
―最後に。
 「農家さんの減少や異常気象の影響により、原料の確保が年々難しくなっている。農家さんにおいても、休みなく、朝早くから働いて、良い野菜づくりのために勤しんでいる。そうした日常の一コマに価値があり見直すことで、改めて農家さんとの信頼関係をしっかりと構築して、力を合わせて取り組んでいきたい」
【久保廣範(くぼひろのり)氏】1981年長野県長野市生まれ、2005年東京経済大学経営学部卒業、飲食業界にて調理師として従事した後、2007年マルトウ入社、2017年専務取締役、2024年4月代表取締役
【2024(令和6)年7月21日第5168号15面】

マルトウ
http://marutou-shinshu.jp/

7月1日号 大会会長に聞く

第42回全漬連青年部会全国大会宮崎大会 大会会長 佐藤仁氏

宮崎大会は10月4日開催
業界を良くするきっかけに

 第42回全日本漬物協同組合連合会青年部会全国大会の宮崎大会が、10月4日(金)、宮崎観光ホテルで開催される。佐藤漬物工業の佐藤仁専務が大会会長を、野崎漬物株式会社の野﨑偉世社長が実行委員長を務める。大会テーマは「~みやざきhot wave~起こそう!イノベーションを!!」。佐藤会長は、宮崎ならではの切り口から漬物業界がより良くなるきっかけを作りたいと語る。(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 ー宮崎漬協青年部について。
 「12名が加盟しており、20代のメンバーもいて平均年齢が若い。各種イベントに出店して県産漬物のPR販売を行うなど精力的に活動している。今回の大会準備を通して結束力は一段と強まっていると感じる」
 ー青年部会全国大会の存続が危惧されている。
 「青年部組織が全国的に解散や親会と合流する流れになっており従来の形式で実施するのは難しくなっている。来年からは東京と大阪で交互に、運営も全漬連が担って簡略化した形式で開催するという案が出ている。青年部が企画から運営まで担当して、地方へ大勢が集まって開催するのはこれで最後になるかもしれない。宮崎ならではの切り口から漬物業界がより良くなるきっかけを作ること、また皆様が宮崎に来てよかった、と思ってもらえる大会にしたい」
 ー大会の内容は。
 「焼酎でお馴染みの霧島酒造様(都城市)に講演していただく。焼酎の生産量は1970年代から2005年まで右肩上がりに増加、その後多少落ち着いたものの、今なお焼酎ブームと言われる高い数量を維持している。そんな中、同社は2004年の業界6位から、2012年にはトップへ躍り出ている。焼酎業界の成長と、霧島酒造のブランディングの秘密を語っていただく。懇親会では県内の名物を使った料理などを振る舞う予定だ」
 ー宮崎の漬物業界の現状。
 「沢庵、高菜、楽京に携わっている会社が大半。私の知る限り、売れ行きはいずれも需要が強まっており好調なのだが、原料不足が足かせとなってチャンスロスが起きている。全国的に農業の担い手不足は問題となっているが、農業大国である宮崎ではそれがより深刻な課題となって現れてきている。10月といえば大根や高菜の播種が始まる季節でもある。懇親会では、漬物業界による農業活性化といった話題も語り合いたい。ぜひ多くの方々にお越しいただきたい」
 ー貴社の動向は。
 「ありがたいことに昨年を上回っている。他産地の大根の不作や、中国産原料の値上がりの影響もあると思う。漬物は原料あってこそ、とあらためて感じている。また、輸送の問題から地元の小林市周辺限定にしているのだが、沢庵を袋に入れて輪ゴム留めにした商品が意外なほどよく売れている。宮崎市内や県外からも注文が来るほど。時代錯誤とも思える姿の商品が売れるのが、漬物の他ジャンルと違うところ。表面的に飾るのではなく、本質を見極めなければブランディングはなし得ない、という実例だと感じている」
【2024(令和6)年7月1日第5167号4面】

6月21日号 わさび関連特集インタビュー

全日本漬物協同組合連合会副会長 静岡県漬物商工業協同組合理事長 望月啓行氏

インバウンド対応へ力
業界越えた連携で価値創出
 全日本漬物協同組合連合会副会長、静岡県漬物商工業協同組合理事長を務める田丸屋本店の望月啓行社長にインタビュー。田丸屋本店ではICTを活用した畑わさび栽培など新たな取組を進めている。望月社長は業界の垣根を越えて他社と連携することにより、新たな付加価値を創出していきたいと語った。
‐わさび関連商品の販売動向。
 「昨年5月にコロナ5類移行となり、売上はコロナ前とほぼ同水準にまで回復している。市販用、業務用に関してはコロナ前の水準を越え、土産関係についてもある程度回復しているが、ビジネス客と観光バスがコロナ前に比べて減少していることもあり、回復途上にある。だが、わさびはインバウンドへの人気が高いため、今後インバウンドの増加に伴い、土産関係も伸長していくと考えている」
‐わさび原料が不足気味となっている。
 「わさび原料は非常に厳しい状況が続いている。わさびは根と茎が別々に流通しているが、どちらも不足気味となっている。根に関しては、2年前の台風被害から静岡の産地が回復しておらず、海外の引き合いも高まっているため、高値が続いている。茎に関しても、天候不順の影響もあり、需要と供給のバランスが崩れており、価格が高止まりしている。原料に関しては、この先も安定的な供給見通しは立っておらず、価格は高値で推移する見込みだ。弊社においては昨年一度値上げを実施したが、わさび以外の副原料やその他のコストも高騰しており、さらなる値上げが必要な状況にある。だが消費者の節約志向も強まっているため、今後の値上げについて慎重に見極めていかなければならない」
‐ICTを活用した畑わさび栽培を開始した。
 「静岡県産わさびの生産量回復を目的に、2023年3月より株式会社鈴生、西日本電信電話株式会社静岡支店と連携し、ICTを活用した施設栽培共同実証実験を進めてきた。この度、一定量の畑わさびが収穫できたことから、畑わさびの葉と茎を使用した2商品『コレカラわさび しょうゆ漬』『コレカラわさび ピクルス』を発売した。ICTを活用して栽培環境を管理することにより、これまでより辛みの強い畑わさびを栽培することができ、わさびの風味が存分に楽しめる商品に仕上がっている。原料が不足する中、こうした特長をプラスアルファの付加価値として提案し、新しいマーケットを開拓していきたい」
‐静岡工場内の「ステップインたまるや 見る工場」をリニューアルした。
 「1990年代に観光スポットを作りたいと考えて“見る工場”を手掛け、その役割を果たせていると思う。しかし、30年前とは時代が変わり、大勢での移動ではなく個人で計画を立てる旅行スタイルが増えてきている。そのような変化を捉え、“メッセージを共有できる”見学通路にしようというコンセプトでリニューアルを行った。わさびのことを知ってもらい、その魅力を共有してもらうため、プロジェクションマッピングを活用した空間など新たな仕掛けを作っている」
‐全漬連副会長に就任して1年が経つ。
 「漬物業界も後継者問題など、様々な課題があることを再認識している。そうした課題を一つ一つ解決していければ、漬物はこれからさらにたくさんの消費者に受け入れてもらえるのではないか。厳しい環境ではあるが、組合のメリットをどのように打ち出していけるかがテーマになると考えている」
‐今後について。
 「インバウンドが増えているので、それに対してどのように取り組んでいくかが観光面を伸ばす一つの起爆剤になると考えている。海外のユーチューブにおいて、弊社商品が紹介されている動画が情報源として購買につながっている事もあり、そのような事例を分析するなど、さらにインバウンドの方に認知を広げ、漬物を楽しんでもらうための対応を模索していきたい。また、わさびを使用した新商品開発の他、ICTを活用した畑わさび栽培の取組のように、業界の垣根を越え、他社と連携することにより、新たな付加価値を提供していきたい」(藤井大碁)
【2024(令和6)年6月21日第5166号11面】

6月11日号 山陰特集

泊綜合食品株式会社 代表取締役社長 岸田いずみ氏

50周年に向け新商品開発
新ウェブサイトで漬物情報発信
 泊綜合食品株式会社(鳥取市安長)では、4月1日付で岸田いずみ取締役が新社長に就任し、岸田隆志社長が取締役会長に就いた。来期で創業50周年を迎える同社の岸田新社長へ、抱負や今後の事業方針を聞いた。漬物の製造・卸売の軸を守りながら、オンライン販売の強化、他品目の取り扱い拡大にも努めていく。(大阪支社・高澤尚揮)
      ◇
 ー新社長へ就任した。
 「大学卒業後は、外資系ホテルでウェディング業に携わり、2010年に当社へ入社した。入社後の15年もの間、製造、営業、商品開発、経理と様々な職種を経験し、来期は創業50周年を迎えるため、父から社長の職を受け継ぐことになり、3代目の社長に就任した。らっきょう漬を始めとする鳥取の漬物文化の継承を使命に感じている」
 ー会社の近況は。
 「当社は11月決算で、昨年度は増収微増益で着地し、コロナ前の数字へ回復することができた。観光の土産需要の回復もあるが、経費削減や業務効率化に取り組んだことが功を奏したと思う。メーカーとしては、原料確保の安定化と増加を図っているところ。卸売としては、漬物以外に佃煮やこんにゃく、豆腐、冷凍食品などの新規取引先とのご縁が生まれ、今後も開拓を進めていきたいと考えている」
 ーオンライン販売にも注力している。
 「まだ売上の1割に満たないが、順調に伸びており、今後もネットでの売上は上昇傾向だと見ている。ウェブサイトをリニューアルし、5月21日から新バージョンを公開している。漬物の歴史や種類、取引先メーカーの会社紹介といったコラムを充実させ、今まで漬物をあまり食べなかった層にも情報発信をしていきたいと考えている」
 ー来期50周年を迎える。
 「周年事業として、新商品の開発を進めている。当社は、らっきょうチョコレートやポケモンをパッケージにした商品、地元の学生と共同開発したカラフルらっきょうなど、オリジナリティのある商品を発売してきた。味はもちろん、洗練した外観、包材、ネーミングにしたい」
 ー今後について。
 「当社では製造部門が2割を占める。らっきょう漬が大半を占めるものの、和惣菜やあんこ・ゼリー等の菓子製造の比率が近年高まっている。漬物を軸にしつつも、メーカーとしては取引先や消費者のニーズに常に耳を傾け、柔軟に対応した商品開発を今以上に行っていく」
 ー食育活動にも励む。
 「年数回ほど小学校に出向き、漬物教室を開催している。夏にはらっきょう漬作り、冬には干したくあん作りに取り組んでもらう。原料野菜の話から、小学生には少し難しい発酵についてまで説明し、漬物に興味を持ってくれる。子どもたちが漬物にまず親しんもらうこと、食べておいしいと知ってもらいたい」
【岸田いずみ新社長の略歴】
 1980年11月生まれ、甲南大学文学部卒業後、外資系ホテルでウェディング業に携わり、2010年に入社。美人らっきょう、カラフルらっきょう等の開発や漬物教室に取り組み、「漬物の魅力を若い世代に、より伝えたい」という想いにあふれる。
【2024(令和6)年6月11日第5165号3面】

泊綜合食品

有限会社土江本店 代表取締役社長 関谷忠之氏

青しまね瓜の育成を見守る関谷社長
原料野菜の自社栽培を拡大
SDGsに沿った商品開発
 有限会社土江本店(島根県松江市)の関谷忠之社長にインタビュー。同社は中国・四国地方有数のメーカー・ベンダーで、昨年2月に創業75周年を迎えた。原料野菜の自社栽培量を年々拡大させ、夏の青しまね瓜漬、冬の津田かぶ漬が名物となっている。飽くなき探求心とチャレンジ精神が、ひしひしと伝わってくる。(大阪支社・高澤尚揮)
◇   ◇
 ー原料野菜の自社栽培量が年々拡大している。
 「津田かぶは約30年前、私が社長へ就任する時に栽培を開始し、現在は約3000坪にまで拡大した。土作りから栽培管理まですべて自社社員が行っている。津田かぶは栽培する際、土が硬すぎても柔らかすぎても、勾玉状には育たないので、非常に細かい工夫が必要だ。今は農家の高齢化が深刻で、30年前から現在の状況を見越し、自社栽培に踏み切って良かったと思う。夏の青しまね瓜は、数年前に自社栽培を開始した。今では6次産業化が定番化したものの、全国でも先駆けて実践したことを誇りに思っている」
 ー漬物以外に干物「奉書干し」の製造も。
 「当社の看板商品の1つ『奉書干し』は、県内の浜田漁港で獲れた鮮魚を干物にしたもの。干物は魚を縦に吊るすと旨味が流れ、横に干すと魚の余分な水分が腐って味が変わってしまう課題があった。そこで、奉書紙で余分な水分を吸い取り、乾燥、発酵熟成させる工程を発案し商標を取得した。発酵熟成は、日本で唯一対応可能な急速冷凍庫を開発し、日々使用している」
 ー75周年で新しい試みもされている。
 「SDGsの理念に強く共感しており、その理念に沿って自社はどう実践できるか考えてきた。メーカーが最初にできるのは、フードロスを減らすことだ。従来捨てられてきた津田かぶや柿の葉、魚の骨を水蒸気乾燥してパウダー化することにより、ぬか床に入れたりお菓子に入れたりして再利用できる。今は、のどぐろや梅貝、アジなどのパウダー化にも成功している」
 ーパウダーの展開は。
 「現在、地元の和菓子屋さんと、津田かぶの葉のパウダーをおはぎに混ぜる試作を行っており、今年中に発売ができそうだ。葉のグリーンが鮮やかで、見た目も美しい。続々と、各地域の名産とコラボレーションしていきたいと考えている。チャレンジするのは楽しい」
 ー社長は島根愛がとても強い。
 「山陰浜田浜っ粉協議会会長を務め、浜田市の応援団、県の遣島使としても活動している。無報酬だが、島根の食や文化など魅力を全国の方々に伝えたい思いで一杯だ」
【2024(令和6)年6月11日第5165号3面】

土江本店

株式会社みやまえ 代表取締役社長 宮前有一郎氏

 生姜のサイクル維持を
メニュー採用伸び率は23%
 株式会社みやまえ(宮前有一郎社長、奈良県生駒郡平群町)は生姜製品の総合メーカーとして全国でトップクラスのシェアを持つ。原料高騰による値上げが浸透した一方で、ガリの有料化や代替品も登場していることに対し、宮前社長は栽培を含めた生姜のサイクル全体の維持へ危機感を示す。さらなる品質向上と、漬物を使ったレシピ提案強化の必要性を語った。(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 ー今年の生姜原料の見通し。
 「3年連続で生姜が高騰していたこともあり、山東省、中国南部、タイのいずれも作付けが増えている。しかし、天候は現在までは順調だが、ラニーニャ現象が発生の可能性濃厚と気象庁が発表しており安心できない。価格面でも円安などのコスト増に加えて、農家としては高騰が続いている青果用で収穫したいという意向や、投機筋の動きもあるため、今後の動きに注視しなければならない」
 ー昨年は値上げを実施した。
 「数年連続の値上げとなったがお客様にはご理解いただき、数量を落とすことなく推移している。競合他社も同様で、むしろ各社の価格差が縮まってきているとも言えるので、当社の品質を改めてアピールするチャンスでもある。しかし中にはガリの有料化や、大根を使った代替品の出現といった判断も出てきている。
 仮に単価を上げられたとしても、数量が大きく減れば栽培量も減らすことになり、長年かけて築いてきた生姜のサイクルが崩れることになる。生姜漬は必須だ、と思ってもらえるような品質と価格の両立を守っていかなければならない」
 ー貴社製品の品質について。
 「当社は辛みがマイルドで柔らかいタイ産・中国南部産を主力にしている。買付時期も他メーカーより早く設定しており、繊維質が少ない。成長して硬くスジ張った原料を使った製品との差を食べ比べてみてほしい。味以外にも、安定供給やサポート体制でも評価いただいている。最近では、本物志向の強い欧米からの注文も増えている」
 ーレシピ提案にも力を入れている。
 「添え物としての利用だけでなく、料理素材としてならば和洋問わずすべての食品がターゲットになる。惣菜市場自体が成長産業であり、努力が成果に出る分野。過去3年間のメニュー採用伸び率は23%だ。当社の強みはカット幅や添加物の種類、包装形態など多様な規格を揃えていること。調理オペレーションの削減に繋がる提案もできるため、価格以上の価値を感じて頂けている」
 ー生姜漬以外の商品について。
 「取り扱い品目を広げることでお客様にとっては仕入先の一本化に繋げられる。協力工場もあるので、生姜以外、漬物以外でもご要望に応えられる体制を整えている。この度発売したドリップが出ず盛り付けやすい大根おろしのように、工夫次第で新たな需要が生まれる商品もまだまだあるはずだ」
【2024(令和6)年6月11日第5165号5面】

みやまえ

5月21日号 キムチ・浅漬インタビュー

秋本食品株式会社 代表取締役社長 秋本 善明氏

ワクワクする売場を作る 切磋琢磨して良い方向へ
 秋本食品株式会社(神奈川県綾瀬市)の秋本善明代表取締役社長にインタビュー。2023年度の決算や浅漬、キムチの売れ行き、6月11日と12日に開催する第44回全国漬物・惣菜展示見本市などについて話を聞いた。展示会のテーマは、『漬物からワクワクする食卓を』。物価高で消費者の節約志向は高まる中、製造コストの上昇、原料野菜の確保など、多くの課題が山積する中、改めてワクワクするような魅力ある売場作りが重要だと強調した。
◇    ◇
 ‐2023年度の決算について。
 「売上は前年比102%、130億円となった。売上は前年度より少しプラスとなったが、収益はだいぶ改善された。主な要因としては値上げによるもので、当社はおととしに続いて昨年も値上げを実施した。しかし、その後もコストが上がり続けており、満足できる価格にはなっていない。値上げは3カ月前から6カ月前に計画しているが、その間にもコストが上がるものもあるので、値上げ後も見直すが作業が必要になっている」
 ‐原料野菜の価格も上がっている。
 「輸入原料は現地価格が上昇していることに加え、為替の影響が大きい。国産原料の価格も上がり始めていて、特に白菜などの葉物は6月下旬くらいまで高値が続く見通しだ。白菜は主力原料なので契約率を高くしているが、100%ではないので高い原料を購入せざるを得ない。ぬか胡瓜も4月から3カ月は2本入りを1本増量して3本入りにしており、原料面では厳しい状況が続く。現在は以前よりも販促期間を短くしているが、それでも大きな課題になっている」
 ‐キムチの売れ行きについて。
 「当社の『王道キムチ』は好調が続いている。やはり、独自性があってお客様に支持されている商品は強い。『オモニの極旨キムチ』は販促や他社商品の価格に左右される部分もあり、一長一短ではあるが、キムチ全体としては良い数字となっている」
 ‐浅漬の動きは。
 「売れ行きは低調で当社も前年を割っている。今後の課題としてはすでに取り組んでいるが、アイテムの集約化を進めて利益を確保できない商品は止める、ということ。値上げを実施するのは簡単なことではないし、価格を上げたら売れなくなる。工場の一つのラインで多品目の商品を作るのではなく、単品のボリュームを増やして生産効率を図り、コスト削減をさらに進めていきたいと考えている」
 ‐6月11日と12日に展示会を開催する。
 「テーマは『漬物からワクワクする食卓を』。テーマの中に『ワクワク』という言葉を入れた意味としては、いまの売場は画一化されていて、ワクワクするような売場になっていないということ。最近は特に変化がなく、見ていても面白くない。それは消費者も同じ気持ちだと思う。もちろん、チャレンジすることは大事なのだが、近年はチャレンジしても売場に残るケースがほとんどない。回転しなければ売場も我慢できないし、消費者も物価高で収入が増えず生活防衛意識が高まっているので、味の想像ができないものや食べ方が分からものには手を出さない。結果的に商品選択は保守的になり、知っているものや分かりやすいものになる」
 ‐販売の課題は。
 「限られたスペースで商品の情報を伝えることは難しい。単品では情報量が少ないので、シリーズ展開して面での提案を行っていくことが重要だ。グループ会社のアキモのプチカップはシリーズ化したことで定着した。また、キムチにおいても韓国食材と一緒に並べると目立つので、コーナー化までできれば売れ方に大きく影響してくる。面で売場を演出するためにどのようなアイデアやテーマが必要なのか、ということを展示会で示していきたいと考えている」
 ‐展示会の新しい試みについて。
 「展示会には全国から多くのメーカーにお越しいただくので情報が集まる他、新商品や新しい提案など、各社の取組が参考になる部分もある。それを秋本会の会員で共有し、切磋琢磨して良い方向に進んでほしいと思っている。また、今回の展示会では新しいイベントとして、ご飯に合う商品を評価する『めし旨GP』と健康と美味しさをテーマにした『再発見!乳酸発酵の可能性』を開催する。どちらのイベントも商品の魅力をPRするもので、注目されることを期待している。各社におかれては自社の商品や取組も含めてバイヤーにアピールする場となるので、有効活用していただきたいと思っている」
(千葉友寛)
【2024(令和6)年5月21日第5163号4面】

秋本食品 電子版 バイヤー必見!イチ押しページ
https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/896

関口漬物食品株式会社 取締役営業部長 関口 彰氏

白菜や胡瓜以外にもチャレンジ 差別化を図れる商品が強み
 関口漬物食品株式会社(関口悟社長、東京都世田谷区)は、斬新なアイデアとユニークなネーミングで、浅漬をメーンに製造、販売。また、首都圏の有力ベンダーとしても知られ、多種多様なニーズに合わせて各種漬物製品を供給している。同社の関口彰取締役営業部長にインタビュー。原料動向や商品の売れ行き、値上げの動きについて話を聞いた。「浅漬トリオ」、「ぬか漬四種」、「にんにくたっぷり白菜キムチ」など、差別化を図れる商品は同社の強みとなっていることを強調し、鮮度感や季節感を演出できる商材として引き続き浅漬の魅力をPRしていく考えを示した。
(千葉友寛)
 ‐原料動向とこれからのシーズンに向けての販売戦略について。
 「毎年、冬場は特に胡瓜の価格変動が大きくなる。今年の3月、4月は原料が全体的に不安定な状況となったが、売上と生産数は前年比で上回っており、しっかりとした数字を出せている。得意先の動きによる外的要因のプラスもあったが、価格競争では大手に勝てないので、大容量のお得用商品でユニット単価を上げる取組が上手くいった。5月から9月は胡瓜がメーンになるので、そこで売上と利益を確保したいと考えている」
 ‐原料確保が難しい冬場と夏場の対応について。
 「冬場の胡瓜は夏と異なる価格にしているが、原材料価格をはじめ人件費や運賃などが上がっていて、値上げしてもカバーしきれていない。胡瓜は当社の主力商品なので止めるに止められないということもあるが、単価を上げる以上は今よりも良い商品を作らないといけない。冬場の高い価格を理解していただいているので、価格が下がった時は還元させていただきたいと思っている。当社は9月決算で、来期に向けては一品ずつ価格を見直ししていく。今期も後半から新しい提案を行っていく予定だ」
 ‐値上げの取組について。
 「おととしは季節商品の価格改定または内容量調整を行い、昨年は主力の浅漬やキムチの価格改定を行った。色々なものの価格が上がる中で、ほとんどの得意先で価格改定を認めていただいたが、販売数量が減少した商品もあった。それでも値上げした分、金額は横ばいか微増となっている。近年は気候が変化し、今年は3月下旬に白菜の価格が高騰した。今後はきゃべつや大根など、白菜や胡瓜以外の商品開発にもチャレンジしていきたい」
 ‐現在の消費者ニーズは。
 「いま、消費者が一番求めているのはお得感や値ごろ感。食べて美味しい、ということは当然で、品質はこれまで以上に向上させていかなければならない。当社は味と品質には自信を持っている。それを伝えられれば数字に反映されていくと思う。コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスも大切だが、キャッチコピーや商品のポイントをしっかり伝えていくことも重要だ」
 ‐自社製品で好調な商品は。
 「液なしで簡便性の高い商品はニーズがある。当社の浅漬トリオは3種類のおしんこの盛り合わせで、惣菜売場でも展開できる商品。ぬか漬を盛り合わせたぬか漬四種も一定の評価をいただいており、同じような商品がないことに優位性があって価値を認めていただいている。にんにくたっぷり白菜キムチも相変わらず好調で、パンチ力やアレルギー特定原材料28品目不使用といった特徴が伝わっている。差別化を図れる商品は安くしてほしいとは言われず、比較的商談もしやすい。このようなアイテムを持っているということは当社の強みでもある」
 ‐浅漬とキムチの売れ行きは。
 「浅漬は売れ行きが苦戦していて、アイテム数が減少傾向にある。逆にキムチは伸び続けていて、同じ素材を主原料とする白菜の浅漬は買われなくなってきていると感じている。だが、浅漬は回転率が高いため、キムチが伸びてもこれまでの売上をカバーすることは難しい。販促がマンネリ化してきている中で、浅漬はキムチや梅干しよりも鮮度感や季節感を出すことができるので、取組次第ではまだまだ可能性があると思っている」
【2024(令和6)年5月21日第5163号9面】

http://www.sekiguchi-01.co.jp/

株式会社ピックルスホールディングス 代表取締役社長 影山直司氏

既存分野以外の売場に展開 物流問題で漬物空白地帯発生も
 株式会社ピックルスホールディングス(埼玉県所沢市)代表取締役社長の影山直司氏に2024年2月期の決算や値上げの動き、今年12月に完成する茨城工場、漬物製造業の営業許可制度の完全施行などについて話を聞いた。2024年2月期決算は増収増益となったが、苦戦が続く浅漬の商品開発や今後も市場の拡大が見込まれる惣菜、冷凍食品を強化し、既存分野以外の売場への展開を行っていく。また、物流問題によって漬物の空白地帯が生まれる可能性を指摘し、改めて同社の強みであるスケールメリットの優位性を強調した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐増収増益となった2024年2月期決算の総括を。
 「増収増益の形となっているが、浅漬は苦戦が続いている。キムチは値上げを行っていないが、キャンペーンの効果などがあって数字を伸ばすことができ、惣菜も好調だった、資材、調味料、物流費、人件費などのコストは上がっているが、増収効果によって増益となった。ただ、食品全般で値上げが続いており、消費者の考えとして、必要なものとそうではないものの線引きがはっきりしてきていると感じる。一人当たりの買い上げ点数は減少しており、その減少する中に浅漬が入ってしまっている、という印象だ。惣菜はおかずとしてすぐに食べるもので、キムチは様々なメニューへの汎用性が高い。浅漬は主菜として食卓に上がる頻度は高くないので、料理の素材として利用できるものやおかずになるような製品の開発が必要になっている」
 ‐苦戦が続く浅漬の方向性について。
 「当社では賞味期限延長に向けて研究開発を続けている。賞味期限を長くすると逆に鮮度やシズル感が訴求できないため、工夫は必要だが、食品ロス削減につながる取り組みとして賞味期限を1日でも長く延長できればロスの削減に貢献できる。賞味期限の延長が全ての正解ではないかもしれないが、方向性の一つだと思っている」
 ‐今後の販売戦略は。
 「売上を増やしていくためには、既存分野以外の売場への展開が必要だ。それぞれの分野に対応した商品開発はもちろん、漬物を豆腐や麺コーナーで関連販売するなど、メニュー提案をしっかり行うことが重要だと思っている。部門が異なる商談は難しい面もあるが、クロスMDで上手くいっている小売店もあり、成功事例を紹介し、販売計画に落とし込んだ提案を行い、販売先を拡大していきたい。精肉や鮮魚など、漬物以外の売場に飛び出していくことが重要だ」
 ‐値上げについて。
 「主力商品はまだ値上げを実施していないが、このままずっと値上げをしない、ということではない。製造コストは上がり続けており、商品の価値に見合った価格で販売していかなければならない。今期は主力商品の価格の見直しを進めていきたいと考えている。これまで主力商品は通年で販売しているので、価格の見直しの機会がなかった。価格が見合っていない商品については価格改定を実施していく。時間がかかるかもしれないが浅漬は価格改定をお願いしているところで、キムチについてもタイミングを見て判断したいと考えている」
 ‐輸入キムチについて。
 「輸入キムチは為替の影響が大きく、値上げを実施した。だが、消費者の反応はシビアで、売れ行きは悪くなった。現在も値上げ前までの水準には戻し切れておらず、トータルで見ても厳しい状況となっている。海外製品、海外原料を使用している商品は値上げを実施せざるをえないのだが、消費者の理解を得るのは簡単なことではない」
 ‐惣菜と冷凍食品の市場について。
 「どちらの市場もまだまだ拡大していくと見ている。惣菜は量販店における生鮮3品の次にくる柱と見ており、各チェーンの顔になっている。新店の売場を見ると、充実しているのは惣菜と冷凍食品。冷凍食品はお取り寄せ感覚で全国の美味しいものが並び、高価格帯の商品も販売されている。品揃えも豊富で買い物が楽しくなるような売場となっている。また、人口減少、少子高齢化が加速する日本の状況を考えれば、惣菜も伸びるだろう。食べたい時に食べたい量だけ購入することができ、作る手間も省ける。単身世帯や共働き世帯が増えることを考えても惣菜市場の可能性はまだまだ大きい。当社では惣菜事業が柱の一つになっている」
 ‐茨城県に新工場を建設している。
 「白菜の産地に白菜専用工場を建設しており、今年12月に引き渡し予定となっている。特徴としては機械化を進めて労務費を削減することに加え、既存工場より少ない人員で2倍の生産ができること。白菜専用工場なので首都圏の工場においては主力のキムチ製品の生産機能が移管される。既存工場の空いたスペースでは惣菜や冷凍食品などを作れるようになる。東は茨城の工場が新たな生産拠点となるが、西については、当初は新たな工場建設を計画していたが、茨城の新工場にコストがかかったこともあり、スペースに余裕があるグループ会社の工場に設備投資を行い、集中生産できる西の拠点になればと考えている。また、当社と漬物製造に限らず、協力してやっていただける工場があれば話をさせていただきたいとも思っている」
 ‐企業の倒産、廃業が続いている。
 「コロナ後は漬物以外の企業でも倒産、廃業があった。この後のことは分からないが、代替わりする時に大きなマーケットが広がっている状況ではなく、現状維持では投資もできない。事業をやめる、という判断を下す企業は今後も出てくるだろう。これからは物流の課題も増えて、遠くまで商品や荷物を運べなくなり、価格が合わなくなるケースも出てくることが想定される。場合によっては漬物の供給が難しいことで発生する空白地帯が出てくる可能性もある。当社は全国に製造拠点があり、自社製品だけではなく仕入れ商品も供給することができる」
 ‐漬物製造業は6月から営業許可制に完全移行する。
 「道の駅や野菜の直売所などを見ると、個人で作っている漬物も多く見られるが、6月以降はかなり減少すると見ている。売場からなくなった商品を誰がどのようにカバーするのか分からない。道の駅や直売所は個店対応になるので、きめ細かく対応することは難しい。ただ、このような店舗は野菜を作って加工品も販売することに加え、地域特産品の継承も担うなど、和食を支える大事なポジションにあると考えており、当社でも協力できることがあれば対応を検討していきたいと思っている」
【2024(令和6)年5月21日第5163号12面】


5月21日号 食品資材特集インタビュー「トップに聞く」

株式会社エコリオ 代表取締役 浦野 由紀夫氏

揚げカスにスポットライト
SAF生成できる原料として
 株式会社エコリオ(東京都千代田区)が取り組む揚げカスを活用した資源循環システムへ大きな注目が集まっている。同社が開発した揚げカス搾り機“エコリオ”は、揚げカスを搾り油と搾りカスに圧縮分離し、リサイクルプラントである「エコリオステーション」で、今まで“ゴミ”として扱われていた揚げカスを“資源”に変える機器。政府が2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2030年に国内のジェット燃料使用量の10%を持続可能な航空燃料(SAF)に置き換える目標を設定する中、SAFを生成できる貴重な原料として“揚げカス”にスポットライトが当たり始めた。同社は、こうした状況の中、機器をいかに導入するかではなく、いかに揚げカスを集めるかに目標を変え、国や大手企業と一体となった資源循環システムの構築に取り組む。代表取締役の浦野由紀夫氏に現状や今後の見通しについて聞いた。(藤井大碁)
ー揚げカスに注目が集まっている。
 「この一年間で、カーボンニュートラル実現への具体的なロードマップが制定され、SAFの原料となる揚げカスへの注目度が一気に高まっている。現在、経産省、商社、石油メーカー、航空機リース会社など様々なパートナーと共に、次世代の理想的な資源循環システムを構築するための仕組みづくりを行っている」
ー具体的な進捗状況は。
 「日本中で様々なプロジェクトが進行している。あるコンビニチェーンへ納入する複数の惣菜メーカーが一つのグループとして協力してマテリアルリサイクルに取り組む計画や、冷凍食品メーカーが独自にエコリオステーションのようなプラントを建設し、自社で資源循環を始める予定もある。エコリオはオンリーワンの技術だが、その技術を社会に活かすためには、今までのように我々が先頭に立ってプロジェクトを進めるのではなく、皆様がプロジェクトに参加しやすい器を作り、我々はそれに対して技術的なアドバイスやサポートをしていくことが理想であると考えている。そのため、川上である工場や外食、スーパー、中間の物流、川下の航空会社を含めてコンソーシアムを形成し、国には一事業者ではなく、その事業体全体に支援をしてもらう仕組み作りを行っている」
ー地方自治体もプロジェクトに参画する予定だ。 
 「行政と連携したプロジェクトも増えてきている。ゼロカーボンシティ宣言をした自治体が、地域にエコリオステーションを建て、民間企業の協力も受けながら揚げカスや廃棄物を集めて有効資源化していくというプロジェクトだ。ステーション建設費は国の補助金で賄うことができ、地元に雇用が生まれ、環境に優しく、ゼロカーボンのテーマにもマッチしているので、現在様々な自治体でこうした話が持ち上がっている。どこかで成功事例が出てくれば、それをモデルケースとして、一気に日本中に広がっていくのではないか」
ー新たに日本惣菜協会に加入した。
 「コスト削減でき、環境に優しいということで、エコリオに会員の皆様から大きな関心を持って頂いている。少し前まで、廃油はお金を払って処理してもらっていたが、今は買い取ってもらうことが当たり前になり、それがSAFの原料になっている。一方で、揚げカスはまだ処理をするために、お金を払っており、我々以外に買い取る業者がいないのが現状だ。会員の皆様にはまず、“揚げカスを買い取ります”というキーワードによりエコリオ導入へ興味を抱いてもらいたい」
ー将来的にエコリオを無料で貸し出す計画もある。
 「国が掲げるカーボンニュートラル実現への道のりを考慮すると、一刻も早く日本中の揚げカスを集めることが最も重視するべきミッションとなる。そのため、ユーザーの経済的な状況によりエコリオの導入が進まず、国内の揚げカスを30%しか集められないという状況より、無料で貸出すことで、揚げカスの回収率を少しでも高めることに軸足を置くべきだと考えている。食用油の卸売会社との連携などにより、無料貸し出しプランを実現できるよう現在知恵を絞っているところだ。是非、エコリオの今後の展開にご期待頂きたい」
【2024(令和6)年5月21日第5163号5面】

エコリオ HP

5月11日号 漬物グランプリインタビュー

株式会社雄勝野きむらや 代表取締役 木村吉伸氏

『みずの実っこ』が漬物GP
秋田漬物文化の価値向上へ
 漬物グランプリ2024「法人の部」において、グランプリに輝き、農林水産大臣賞を受賞したのが株式会社雄勝野きむらや(木村吉伸社長、秋田県湯沢市)の『みずの実っこ』。秋田県では初のグランプリ受賞となり、東北の漬物メーカーとしては2017年に青森県の有限会社いしたが『あんず梅(しそ巻)』で受賞して以来、7年ぶりの快挙となった。秋田県漬物協同組合の理事長を務める木村社長は今回の受賞が秋田の漬物文化全体の価値向上につながることを期待したいと語った。

‐『みずの実っこ』が日本一の漬物に輝いた。
 「もともと秋田県の夏の風物詩であり9月から10月初旬のほんのわずかな時期にしかとれない珍味である〝みずの実〟を、できるだけ長い期間食卓で楽しんでもらうことを目的に、約30年前に弊社が初めて漬物として商品化した製品だ。みずの実の美味しさは、秋田県民なら誰もが知るものだが、なかなか手に入らないため、県内の農産物直売所などで販売されれば、すぐに売り切れてしまう人気の山菜だ。近年は、異常気象による高温障害や、クマ被害が増えているために収穫のため山に入る人が減ったことなどにより、さらにその希少性が増している。今回のグランプリにおいて、秋田の郷土食であるみずの実の素朴で自然な味わいをご評価頂いたことに心より感謝したい」
‐5年前に味わいをリニューアルした。
 「素材自体の味わいを楽しんでもらうため、漬物でありながら極力控えめな味付けに変更した。みずの実は、秋田ではおひたしや浅漬けとして食べるのが最も人気のある食べ方であり、その味わいに近い素朴な醤油漬に仕上げている。みずの実を使用した漬物としては、みずの茎や他の食材と混ぜた漬物もあるが、『みずの実っこ』は、100%みずの実を原料として使用しているため、みずの実の風味や噛み込んだ時の粘りをダイレクトに楽しんでもらえる特長がある」
‐原料確保が難しくなっている。
 「みずの実は、もともと希少な山菜であるが、近年は山菜の採り手の高齢化や前述の通りクマ被害の増加、異常気象による高温障害等により、収穫量が減少している。今回のグランプリ受賞を機に、様々な地域の課題に向き合いながら、看板商品の一つとして原料の価値が伝わる商品製造・販売に取り組んでいきたい」
‐秋田の漬物と言えば、いぶりがっこのイメージが強い。
 「近年、いぶりがっこの知名度が上昇し全国的な人気を博するようになった。それは大変有難いことであるが、県内には他にも魅力的な漬物がたくさんある。今回グランプリを受賞した『みずの実っこ』の他にも、菊を使用した県南地区伝承の漬物『花ずし』や、大根のこうじ漬け『なた漬』など個性豊かで魅力的な秋田漬物が揃っている。今回の受賞を良い機会として、全国へと発信していけたらと思う」
‐「みずの実っこ」と共に漬物グランプリ2024に出品した「なた漬」は銀賞を受賞した。
 「厚刃のナタで大根をひび割れさせながら削り、米こうじを主体に加えて重石を乗せて漬け込んだ『なた漬』も、県内では人気の高い漬物だ。是非、この機会にその美味しさを味わって頂きたい」
‐最後に。
 「漬物グランプリ決勝大会のプレゼンテーションは、とても緊張したが楽しむことができた。商品をどう売り込むか、ということについて改めて勉強させてもらう良い機会になった。今回のグランプリ受賞を社員・関係者一同、大変喜んでおり、今後の地域活性化にもつながると考えている。『みずの実っこ』という地域性の高い漬物が受賞したことにより、いぶりがっこ以外の秋田漬物にも光が当たり、秋田県の漬物文化全体の価値向上につながることを期待したい」
(東京本社・藤井大碁)
【2024(令和6)年5月11日第5162号3面】

5月1日号 漬物の素・夏の甘酒特集インタビュー

日本いりぬか工業会 会長 足立昇司氏

「ぬか漬けの日」CPを実施
東西の交流復活へ
今年3月の総会で留任し、3期目を迎えた日本いりぬか工業会の足立昇司会長(株式会社伊勢惣専務取締役)にインタビュー。今年度の活動については、昨年度に続いて5月8日の「ぬか漬けの日」に合わせて本紙を始めとする業界紙のSNSを活用し、プレゼントキャンペーンなどを実施して新規ユーザーの獲得を目指す。また、コロナで交流が途絶えていた全国ぬかづけのもと工業会(山西健司会長)との交流を再開し、結束を強めていく方針を示した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐ぬか床の売れ行きは。
 「今年は厳しい状況が続いている。ぬか床は野菜が高くなると売れなくなる、というのが通説となっているのだが、年明けくらいから野菜価格の上昇が顕著となっていて、通説通りの動きとなっている。コロナ禍ではメディアで健康効果や美容効果が広く紹介されたことで、家庭でできる趣味としてぬか漬をやる人が増えたのだが、巣ごもり需要が落ち着いた現在は新たにぬか漬をやる人が増えておらず、全体的な数量としては苦戦している。ぬか床は手入れをすれば長く使用できるため、いつもぬか漬をしている方でも新しいぬか床を購入したり、頻繁に買い替えたりする商品ではない。そのため、新規ユーザーを獲得しないと数字としては伸びない」
 ‐会長として3期目を迎えた。
 「工業会の会長の任期は1年なので、今年3月の総会で3期目を迎えた。一昨年はコロナの影響もあって思うような事業をすることができなかった。昨年はコロナが落ち着き、会員企業との話し合いや新しい取組を行うことができたが、やり切ったという気持ちはなかった。事業についてもまだ中途半端な部分もあったこともあり、しっかりとした形を作ってから次の会長にバトンを渡したい、という気持ちが強かったので留任させていただいた。皆さんの協力をいただきながら少しでもお役に立てるよう頑張っていきたい」
 ‐5月8日の「ぬか漬けの日」について。
 「日本いりぬか工業会ではぬか床やぬか漬のことを一般の方に認知してもらうため、5月8日を『ぬか漬けの日』に制定した。工業会としては昨年、業界紙の電子媒体やSNSなどを活用してキャンペーンを実施した。今年もSNSを活用し、これまでぬか床やぬか漬に興味がなかったり、やったことがないという消費者にPRしたいと考えている。一般的な胡瓜や茄子などの素材ではなく、変わり種の素材だけど美味しいぬか漬を募集し、面白くて魅力的な素材を投稿してくれた方にプレゼントを送る、という内容。我々としても新しい食材の発掘につながる可能性もあり、広く消費者から募集することで掘り起こしにもつながると考えている」
 ‐今後の活動について。
 「今年3月に大阪で開催された全国ぬかづけのもと工業会の総会に甲斐義人前会長が来賓として出席した。コロナ前までは合同で展示会に出展したり、研修活動を行っていたが、コロナで交流が途絶えてしまっていた。コロナも落ち着いたことで、東西の交流を復活させたいと考えている。具体的な内容はこれから検討していくが、まずは懇親を図るところからでも再開し、結束を強めていければと思っている」
【2024(令和6)年5月1日第5161号4面】

調理食品特集インタビュー

第33回調理食品青年交流会神戸大会 実行委員長 柳本健一氏

「神戸大会」9月11日に
講演や工場視察で深い学びを 
 「第33回調理食品青年交流会・神戸大会」が9月11日に神戸ポートピアホテルで開催される。当日は大会セレモニーや代表者会議の他、株式会社神戸物産の沼田博和社長の講演が行われる予定。神戸物産は〝業務スーパー〟のフランチャイズ展開を中心に、事業成長に成功しており、その成長の秘訣や、食品業界の展望について耳を傾ける。翌日12日は、神戸の有力食品メーカーへの工場視察が実施される。実行委員長の柳本健一氏(マルヤナギ小倉屋常務執行役員)に見どころを聞いた。(大阪支社・高澤尚揮)
◇    ◇
 ー13年ぶりの神戸大会。
 「神戸での青年交流会は今回で3回目となる。初回は1997年に開催され、当初は95年の予定だったが、同年に阪神淡路大震災が起きたため、2年後の復興が進む中の開催となった。2回目は2011年に開催された。3月に東日本大震災が発生した4か月後の開催で、参加者で被災地の復興を祈り、業界に携わる人々の結びつきの強さを確かめ合う大会になったと聞く。前回から13年が経ち、青年交流会の運営者や参加者の世代交代が進み、多くの顔ぶれが変わっている。だが、参加者同士が交流すること、業界の未来について語り合うことの意義はより高まっている」
 ー神戸大会の見所について。
 「学びを持ち帰ってもらえる大会にしたい。講演では、神戸物産の沼田博和社長より、業務スーパーのフランチャイズ展開の成功の秘訣について、お聞きする。神戸物産は実は小売業ではなく、卸売業・食品製造業で、業務スーパーはフランチャイズ展開で運営されている。業務スーパーにフランチャイズ加盟したいと思ってもらえるよう、神戸物産では魅力的なPB商品開発を行っている。私たちメーカーが同社から学べることは多い。また、フランチャイズ加盟店を海外に増やす取組も進めていて、日本食の海外輸出のエピソードについても聞けそうだ」
 ー講演後の懇親会での主な話題は。
 「商品開発、人材開発、海外展開が主な話題になるのでは。年々、消費者の志向が多様化しており、消費者が何を求めているか見えづらくなっている。商品開発は、メーカーにとっては要であり、どんな商品が売れているのか、どんな商品を開発すべきか、最も情報交換したいはずだ。また経営者や管理職でチームの作り方や人材確保に悩む人は多いので、人材開発の悩みも共有してほしい。国内の人口減でマーケットが縮小していく中、業界メーカーの販路拡大は課題で、海外展開への関心は高まっている」
 ー大会翌日は工場視察へ。
 「二班に分かれてもらい、神戸の有力な食品メーカー、カネテツデリカフーズとロック・フィールドの工場視察を行う。人手不足の中でも両社は、付加価値の高い商品作りと自動化を両立させ、工場運営から学べることは大いにある。カネテツは魚肉ねり製品を主とした水産加工品を、ロック・フィールドは惣菜を製造し、オリジナリティ豊かで、バラエティーに富んだ商品を開発・製造している。社長自らが案内していただける予定だ」
 ー大会・視察の申し込み方法。
 「参加者が手軽に申し込めるよう、昨年の東京大会時に、神戸大会用のLINEグループを作成し、そこから申し込みできるようにした。最終出欠はLINEで実施する予定だ。従来通り、案内FAXもお送りしており、FAX貼付のQRコードからの申し込みもできる。大会前・大会後も同グループで交流を深めていただきたい」
【2024(令和6)年5月1日第5161号8面】

全調食東日本ブロック会 会長 菊池光晃氏

ベストな配送方法を模索
 同業他社と協力しコスト削減
 全調食東日本ブロック会の菊池光晃会長(菊池食品工業社長兼COO)に、昨年のおせち商戦や通常品の動向などについてインタビュー。菊池会長は物流費が上昇する中、他の食品メーカーとの共同配送を実施し、厳しい環境を乗り越えていきたいと語った。
◇    ◇
 ‐昨年のおせち商戦。
 「値上げにより単価が上昇した分、数量が落ち込み、売上は前年並で着地した。事前に分かっていたことではあるが、その通りの結果となった。数量が下がることで、工場の生産効率が落ちている」
 ‐値上げの影響。
 「内容量で調整して価格を変えなかった商品については、売れ行きにさほど影響はなかった。弊社の売れ筋である『栗いっぱい栗きんとん』は値ごろ感を維持するために内容量を減らしたが、影響は限定的だった。一方で、価格を上げたものに関しては、顕著に売上が鈍化した。重詰めも値上げした商品については動きが悪かったと聞く。消費者は可処分所得が増えない中、限られた予算内で生活費を切り詰めており、現在は中身より価格にニーズがあると感じている。通常品も同様に売価が重要になっている。だが、コストが大幅に上昇する中、値上げをしないわけにはいかない。自社努力による経費削減を徹底しながら、状況を見極め、慎重に対応していきたい」
 ‐今年のおせち商戦の見通し。
 「円安による輸入原料の高騰、物流2024年問題による物流費上昇など引き続き厳しい環境だ。節約志向が強まる中、昨年の経験を踏まえ、基本的には価格は変えずに規格変更で対応していく必要があると考えている。物流に関しては、同業者を始めとした食品メーカーへ現在、共同配送の打診を行っている。配送については、同業他社と協力することで、コストを削減し、厳しい環境を乗り越えていきたい」
 ‐小売店の配送にも変化の兆しがある。
 「物流2024年問題を機に、リードタイムを1日から2日に延長する企業も出てきており、これまでの商習慣が変わりつつある。賞味期限30日以上の食品は、隔日配送に切り替えるなど、配送の在り方をさらに工夫していくことで、物流の効率化や二酸化炭素排出量の削減にも繋がる。物流に関してはまだまだ改善点が多くあり、引き続き取引先と連携し、ベストな方法を模索していきたい」
 ‐佃煮や煮豆の通常品の動き。
 「節約志向の影響もあり、昨秋から動きが若干鈍化している。値上げにより特売や増量などの販促がかけられていないため、売場で訴求力が少ないことも動きが良くない理由の一つと分析している。ここにきて、お弁当やおにぎり具材としての引き合いが増えてきているので、今後の需要の高まりに期待したい」
 ‐今後について。
 「様々なコストが上昇し、人口減少も進む中、今までのビジネスモデルが通用しなくなってきている。規模を拡大し、売上を追い求めてきた時代から、規模を縮小し利益を重視するスタイルへの転換が求められている。配送についても、利便性を追求し、これまで配送頻度を上げてきたが、本当に必要なものなのか再考する時に来ている。過剰なサービスが世の中に溢れ、そのひずみが環境破壊にもつながっている。今後、さらに人口が減少していく中、時代を巻き戻すことも考えていかなければならないのではないか」
(東京本社・藤井大碁)
【2024(令和6)年5月1日第5161号9面】

全調食東海北陸ブロック会  会長 平松賢介氏

商品価値をいかに高められるか
販売チャネルの多角化問われる
 全調食東海北陸ブロック会の平松賢介会長(平松食品社長)にインタビュー。円安やコスト増が続く中、メーカーが難局を乗り切るには、いかに商品価値を高められるか、さらには販売チャネルの多角化を行えるかが問われていると語る。また平松食品では、昨年11月に発売した「本まぐろ煮」が、2月の全国水産加工たべもの展2024で、水産庁長官賞を受賞。栄えある賞を獲得した。(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
 ー年末商戦から現在の市況まで。
 「〝おせち〟の形が、私たちの得意とする単品の世界から『お重』というオードブルへと変化し、異分野の事業者も加わり乱戦模様となってきた。中身も和洋折衷、言い伝えも薄れてきて、食文化のパラダイムシフトが起きていると言っても過言ではない。昨年末の動きからは、その『お重』マーケットも安泰ではなくなった姿を見ると、総合的に取組むことのできる企業は、角度を変え新たなアプローチが求められている。特徴ある単品を持つ企業はその素材を深掘し、品質はもちろんのこと、その素材が持つ地域的、文化的背景を含め総合的に発信し、ローカルだからこそ地域にかかせない製品を送り出すことが求められる時代となったことを実感した」
 ー2月の節分いわしの動きについては。
 「節分に鬼除けでいわしを食べるという習わしは関西発祥と言われているが、近年、関東や九州も含め全国的な広がりを見せている。当社では年々、節分時期のいわし系つくだ煮商品の売上が前年比越えを達成しており、手堅い需要がある。これは、いわし商品を扱うメーカー同士で意見が一致している。価格より価値で購入してもらえる一例であり、どうすれば消費者に商品価値を感じてもらえるかが重要。イベントごとに留まらず、常に価値を提供し、価値を高めていけるかがメーカーに問われており、消費拡大のキーである」
 ー次に、今年の東海北陸ブロック会の活動は。
 「全調食の総会が今年5月にハワイで開催されるため、当ブロック会でも参加を呼び掛けてきた。現地では、当会の会員だけで集まる懇親会〝東海北陸ナイト〟を企画しているので、ご家族とともに有意義な交流の場になることを期待している。また、当会では毎年、秋の研修会を実施しているが、今秋は全調食本部が秋季大会を大阪にて開催するので、こちらの出席を薦めるため、今年は研修会を実施しない。ただ例年、研修会で、おせちや年末商戦の情報交換のリクエストがあるため、その場に替わる場は、適宜セッティングしたいと考えている。その他の活動は、例年通り実施予定だ」
 ー4月16日のブロック会総会では補助金の講演が催された。
 「毎年の総会では、有益で時節に合った情報提供を行いたく、講師をお招きし講演会を実施している。今回は、経産省と日本政策金融公庫の方をお招きし、『令和5年度の国の施策と支援制度』をテーマに語っていただいた。経産省では、IoTやロボットなどを活用し、足元の人手不足に対応するための省力化などを目的とした補助金『中小企業省力化投資補助金』を公募中であること、政策公庫の方からは、公庫の集約した食品業界の景況感や、国産原料活用に伴う優遇金利などの話をしていただいた。各社の事業発展のためには、国の施策などを活用し、補助金申請の機会を事業計画立案の機会と捉え、活用することを理解していただいたと思う」
 ー自社では「本まぐろ煮」が、たべもの展の水産庁長官賞に。
 「本まぐろの尾肉を秘伝のタレやオリジナルの本醸造うすくち醤油等を使用し、伝統的な竹籠製法で炊き上げた商品で、昨年11月に発売を開始した。たべもの展の審査講評で、見栄えする外観、コラーゲン豊富なまぐろテールのプルプルとした食感、まぐろの旨味をご評価いただき、商品開発のコンセプトや想いが伝わり嬉しい。前回に続き2回連続、栄誉ある水産庁長官賞を受賞でき光栄だ。励みになる」
 ー海外輸出にも積極的だ。
 「従来の販売先にとらわれない販売チャネルの多角化が、メーカーとしてビジネスチャンスをつかむためのキーだろう。当社では、欧米、中華圏等につくだ煮の輸出実績があり、中でも近年、力を入れているのがベトナムを始めとした東南アジア地域だ。ベトナムに出店している、ある日本の大手スーパーでは、現地の全店舗で当社のつくだ煮を販売していただき、スーパーの出店数拡大に伴い、年々取引数量が上昇することを期待している」
 ー最後に。
 「業界全体としては、30年続いたデフレからインフレにシフトし、造り手も売り手もこれまで価格を下げることが大きなウエイトを占めていたが、価値を付加する考え方に切り替えなくてはならない環境になった。つまり、より造り手の思いが必要な時代になってきたと思う。その矢先に原材料の調達が不安定となったことはもちろん、様々な課題が顕在化してきて、その課題を乗り越えて行くために時代が私たちへ『Think(考えよ)』と言っているかのようであり、ある意味、やりがいのある時代になったと言えるのではないだろうか」
【2024(令和6)年5月1日第5161号10面】

全調食近畿ブロック会  会長 阪田嘉仁氏

融和の精神が繋がり深める 
イベントや企画で消費拡大図る
 4月16日に神戸市内で開催された全調食近畿ブロック会の総会にて、西友商店株式会社(滋賀県高島市)の阪田嘉仁代表取締役社長が、近畿ブロック会長に就任した。ブロック会員同士の更なる交流の活性化に励み、「融和」の精神を大切にした会の運営に努めたいと語る。自社では、うなぎ蒲焼、うなぎ茶漬、湖魚佃煮の製造・販売を行っており、伝統的な食材を大切にしながらも、顧客が求める商品作りや魅せ方のアップデートを行い続けている。(大阪支社・高澤尚揮)
   ◇    ◇
ー近畿ブロック会長に就任した。
 「前会長の野村啓介氏、その前に会長を務められた柳本一郎氏といった業界の諸先輩方の名前が並ぶ中、このような重責を拝命し、大変恐縮だ。諸先輩方は、会員同士の交流、有益な情報の交換を大切にされてきて、しかも堅苦しくなく、遊び心のある会の運営や研修会の実施に尽力されてきた。ご指導いただきながら、継承していきたい」
ー新会長としての抱負や近畿エリアの特色。
 「会員同士の交流の深まりは『融和』(ゆうわ)という言葉で表すことができる。融和の精神で、当会会員が繋がり、また各ブロック会とのより一層の交流が深まるよう、場を設けるよう取り組んでいきたい。近畿の会員企業は、兵庫のいかなごのくぎ煮、大阪の昆布佃煮、京都のちりめん山椒、滋賀の湖魚佃煮と、各県バラエティー豊かだ。名産品は異なっても『もの作りへの想い』は一致している」
ー今年のブロック会の活動予定。
 「6月29日の『佃煮の日』は各県組合と協力して、私の地元である滋賀で、佃煮の無料配布を検討している。また、当会の名物は海外研修。世界のマーケットを肌で感じるため、現地のスーパーに訪れたり、工場見学を行ったりしてきた。本年度は台湾研修を予定している。台湾では日本の文化に関心を持つ人は多く、日本人の海外旅行先で台湾はトップクラスの人気がある。台湾の消費トレンドや最先端の食文化に触れることで、持ち帰れるものが必ずあるはずだ」
ー西友商店の歴史。
 「本社がある滋賀の近江今津は、古くから鮎漁を中心とした漁業で栄え、創業者の阪田嘉明は、川魚店ののれん分けから、昭和50年にうなぎ・川魚料理店として開業した。平成14年には京都市内の百貨店で、うなぎ関連商品や湖魚の佃煮を販売する専門店を出店し、そこから関西の有名百貨店を中心に多店舗運営を行ってきた歴史がある」
ー佃煮等の伝統食の売り方が変わってきた。
 「中元や歳暮の文化は減少してきたが、敬老の日や父の日・母の日、バレンタインデーといったイベントでの需要は手堅い。また、おつまみ需要も拡大している。企画性や限定性を打ち出していくことで、若年層の消費拡大も図れると期待している」
【2024(令和6)年5月1日第5161号11面】

ブンセン株式会社 代表取締役社長 田中智樹氏

ブランド再定着目指す 
「野村佃煮」の看板維持へ 
 ブンセン株式会社(田中智樹社長、兵庫県たつの市)は「アラ!」や「塩っペ」をはじめとした佃煮に加えロングライフ惣菜、デリカと多方面で活躍している。また、2月に民事再生法の適用を申請した株式会社野村佃煮(京都府宇治市)のスポンサーとなり、4月1日より新会社を設立。社名を引き継いで事業譲渡を受けて新・野村佃煮の社長には田中社長が就いた。佃煮・惣菜の有力企業2社の合流でシナジーが期待される。(大阪支社 小林悟空)
ーブンセンの取り組みは。
 「佃煮、日持ち惣菜、デリカが3本柱となっている。最も歴史の長い佃煮はブランドの再定着を図っている。食生活が変わり佃煮を食べる機会が減っている今、改めて若い方に知ってもらおうと努力しているところ。昨年は地元局のサンテレビとのコラボ商品で、勝利を呼ぶのりつくだ煮として虎柄模様の『アレ!』を発売した。その後地元球団が優勝、『アレ』が流行語大賞ともなり、本品も大変注目された。偶然だが、地元関西で認知していただけたのはありがたい」
ー日持ち惣菜分野は。
 「市場自体が成長しているが、その分ライバルも増え続けているので、当社ならではの強みを模索していかなければならない。この度発売した『ととのう』スープシリーズは健康と簡便性を訴求していく。味付けについても『酸辣湯』が酸味強めの本格的な味としているように、大手は手を出しづらい個性ある商品づくりを心がけている」
ー新事業にも取り組む。
 「2022年にペットフードの新ブランドを立ち上げた。当社は醤油醸造を祖業にその後佃煮、菓子、日配惣菜・弁当、日持ち惣菜、やわらか食……と食の力で人を笑顔にするため事業を広げてきた。この度、野村佃煮がグループに加わり人材、技術、販路等あらゆる面で相互連携がスムーズになるので挑戦の幅が広がると期待している」
ー野村佃煮について。
 「野村佃煮は京都錦市場の惣菜店として創業し、京都の食卓を支えてきた。一方ではおせち製造やお土産の分野でも活躍し、京都を代表する佃煮・惣菜メーカーとして日本中にファンがいて長年愛されてきた企業だ。その味を繋いでいくことは、京都の食文化を守ることに直結すると考えている」
ー改革の方針は。
 「現在は内情把握、引き継ぎを進めているところ。改革は必要となるだろうが、それは昨今のコスト上昇、人手不足が深刻な状況においてどの会社でも同じこと。野村佃煮の看板はしっかり守りながら、ブンセンとのシナジーを踏まえて取り組んでいくつもりだ」
【2024(令和6)年5月1日第5161号12面】

宝食品株式会社 代表取締役社長 三澤省一氏

新市場獲得へ商品開発
社員が活躍できる会社目指す
 昨年12月に宝食品株式会社(香川県小豆郡小豆島町)の社長に就任した三澤省一氏にインタビュー。同社は小豆島醤油を生かした佃煮に加え、佃煮の技術を生かした「めしの素」、「おもいやりごはん」など新たなジャンルへ挑戦し市場獲得を目指してきた。三澤社長はその動きを加速するため今期から企画課を販売企画部に昇格、また社員がやりがいをもって活躍できる会社づくりを推進していく方針を語った。
(大阪支社・小林悟空)
◇   ◇
ー宝食品について。
 「1948年に創業し小豆島特産の醤油を用いた佃煮製造を営んできた。その後OEM、業務用商材、レトルト商材へと業容を拡げ、2016年に佃煮・惣菜とレトルト食品用の第2工場を新設した。また2020年には『ちりめん山椒』がJAXAの宇宙日本食に認定、同年にFSSC22000を取得するなど、総合食品メーカーとしての道を歩み始めている」
ーユニークな商品が多い。
 「同じことをしているだけでは人口減少の時代を乗り越えられないので、積極的に新しい市場の獲得を目指している。今期から企画課を販売企画部に昇格し消費者ニーズに合った商品をスピード感を持って開発していく」
ー佃煮の動向は。
 「コロナ禍が明け土産需要が戻ってきた。しかし大局的には市場縮小傾向であることは否めず、また主力としてきた昆布、海苔、小魚ほかあらゆる水産原料が不足してきているため、変化を迫られているのは間違いない」
ー『宅杯瓶 ほたて 柚子唐辛子味』がたべもの展で大阪府知事賞を受賞した。
 「企画課(当時)が先頭に立って開発した商品。コロナ禍の真っ只中に、宅飲み需要を狙い、ハイボールやワインに合わせる、女性や若年層にも手にとってもらう、といった発想から始まり素材、味、デザインとも従来の佃煮に囚われないものを目指した。今後もこのように色々な方向性の佃煮に挑戦していく」
ーレトルト食品の動向。
 「佃煮で培った技術を生かした商品作りをしている。『めしの素』は佃煮に並ぶ柱へと成長してきている。昨年9月に発売したアウトドア用『soloメシのもと』のように、同じ炊き込みご飯の素であってもコンセプトを変えるだけで、全く違った層や売場へアピールできている。備蓄食の『おもいやりごはん』は医療施設等で採用いただいている」
ー今後の目標は。
 「弊社グループとなった醤油やぬか漬けの素等を製造する株式会社高橋商店、及び直売部門である有限会社京宝亭との連携を強化し挑戦の幅を拡げていく。3社共に風通しの良い、働きがいのある会社を目指していきたい」
【2024(令和6)年5月1日第5161号13面】

塩特集インタビュー

日本特殊製法塩協会会長(マルニ株式会社代表取締役社長)脇田 慎一氏

塩の高付加価値化が必要 懇話会と連携し効率的活動を
 特殊製法塩協会の脇田慎一会長(マルニ株式会社代表取締役社長)にインタビュー。脇田会長は、昨年7月頃に実施された価格改定は概ね受け入れられているものの、塩の消費量減は避けられないものとし、高付加価値化の必要性を指摘する。(大阪支社・小林悟空)
  ◇      ◇
‐特殊製法塩の動きについて。
 「昨年7月に当社を含め多くの企業が価格改定を実施した。原料塩や各種資材、電気代や輸送費などコスト上昇が襲いかかり、価格維持は困難な状況だった。大半のお客様には理解いただけているのだが、一部では実現できておらず、また売場価格にはあまり反映されていないのが実情だ」
‐各社の対応は。
 「人口減や家庭内調理の減少などは加速しており、家庭用塩の消費量を増やしていくことは容易ではない。付加価値を追求していく動きが強まっていると感じる。塩は安くていつでも手に入る物という感覚が根付いたままだが、その固定観念を崩せたこだわりの商品はよく売れているようだ」
‐御社の取組は。
 「同様に、高付加価値商品に注力している。中外食向けの小袋塩は引き続き成長している。当社は製塩を行わず原料塩を仕入れて、ブレンドすることを生業とする小規模メーカーだが、その分小回りが利く。顧客の要望に応じた小ロット生産も可能な点が評価いただいている。また今年7月から代表商品『エンリッチ塩』の生産設備を刷新し、商品包装もより使いやすいものへリニューアルする予定だ」
‐協会の活動は。
 「間もなく任期の2年問を終えようとしているが、全国塩業懇話会と連携する必要性を痛感した。当協会のメーカーが抱える問題は結局のところ、塩の流通全体に関わる。関連省庁への意見具申など実務的な活動は懇話会に集約していくのが効率的ではないか。当協会としては、加盟者の意見を残さず掬い上げて懇話会へ持ち込めるような仕組み作りと、『適塩』普及のための消費者向け活動に注力していきたい」
【2024(令和6)年3月21日第5157号9面】

日本特殊製法塩協会
https://www.tekien.net/

全国塩元売協会会長・塩元売協同組合理事長・全国塩業懇話会会長
株式会社ソルト関西代表取締役社長 山本博氏

塩消費量は減少を前提に 物流問題や災害時対応に指針
 株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして塩の各団体が垣根を越えて業界を取り巻く共通課題へ取組むべく結成された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めている。山本社長は塩の消費量は減少していくことを前提とした企業経営の必要性や、懇話会で取り組む課題について語った。
  (大阪支社・小林悟空)
  ◇      ◇
‐塩の出荷動向は。
 「当社の場合、出荷量の多い食品用、融雪用とも今年度は減少した。食品用に限って見ても昨年比95%ほどと厳しい結果となった。塩はあらゆる食品に入っているものであり、またその食品の質を大きく左右するため、これほどの減少幅は異例と言える。日本の人口減少と、フードロス削減の動きが影響しているのではないかと見ている。どちらも止めようのない問題であり、減塩化の逆風も重なり、塩の消費量はますます減っていくということを前提としなければならない」
‐御社の対応は。
 「塩以外の物、グルソーなどの調味料やマスク等の資材関係といった幅広い商材を扱うことで売上の維持拡大を図っている。塩と一括して納入できればお客様にとっても管理負担が軽減できる。飲食店から大規模工場まで食品事業者なら幅広くお取引してきた強みを活かせている。今後もお客様の要望があれば、扱う品目は増やしていく方針だ」
‐懇話会の活動は。
 「懇話会は日本塩工業会、塩元売協同組合、塩輸送協会、全国輸入塩協会、日本特殊製法塩協会5団体が連携した団体として、分野横断的に課題解決へ向け議論を重ねている。昨年10月には『物流の適正化・生産性工場に関する自主行動計画』を策定した。これは物流2024年問題による国内物流への影響を抑制し、塩の安定的な供給を守ることを目的としたものであり、物流業務の合理化、運送契約の適正化、労働環境改善などについて指針を定めている。また中期的課題として、カーボンニュートラル化を見据えた流通網の再整備やモーダルシフト、共同輸配送、物流DXにも言及している」
‐塩の地位向上は。
 「塩が人体に必要であることは各企業や『くらしお』の御尽力により、ある程度知られるようになってきたと思う。とはいえ塩の摂取基準(男性7・5g未満、女性6・5g未満)が緩和されることはないだろうし、先述の通り人口減少やフードロス削減といった社会的変化の影響もあるので、塩消費量を増加に転じさせるのは難しそうだ。しかし、日本の塩の品質の高さや、安定供給の価値をもっと知ってもらうという意味ではまだまだ余地はある。海外市場の開拓も視野に入る。日本の塩は異物混入や汚染がなく、世界トップレベルの品質を持つことを主体的に発信していけるような取り組みも考えていきたい」
【2024(令和6)年3月21日第5157号9面】

全国塩業懇話会
https://www.jp-salt-assoc.jp/

群馬特集インタビュー

群馬県漬物工業協同組合 副理事長 輸出委員会委員長 小山 勝宏氏

補助金で輸出事業展開へ 輸出重点品目に漬物追加を
 群馬県漬物工業協同組合(武井均理事長)では、組合員の海外輸出を後押しするため、2022年秋に輸出委員会を設立した。組合副理事長で輸出委員会委員長を務める小山勝宏氏(株式会社コマックス社長)は、委員会設立の経緯や、組合として補助金を受託し、海外での試食販売など輸出に関する事業を行っていく目標について語った。(藤井大碁)  
ー輸出委員会設立の経緯。 
 「将来的に人口が減少し国内マーケットが縮小していく中、輸出への関心は高まっている。2018年には、群馬県にも独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の貿易情報センターが開設され、県内メーカーにとって輸出はより身近なものになっていた。そのような中、群馬県漬物工業協同組合の会員の一部も加入している群馬味噌醤油組合が、輸出に関する補助金により海外で輸出の取組を行っていることを聞いて、漬物組合でも同じようなことができないかと考えたのが設立のきっかけとなった」
ー現在の取組。
 「定期的に輸出に関するWEB会議を実施し、情報交換を行っている。また2月に開催された組合新年会においては、JETRO群馬貿易情報センター所長の宮﨑了一氏に『群馬から世界へ~今だからこそ考える海外ビジネス~』という演題でご講演頂いた。世界経済の変化や、中小企業の海外展開の現状、今後の展望などについて分かりやすく解説してもらい、組合員から大変好評だった」
ー今後の目標について。
 「当面の目標は組合として補助金を受託し、海外での試食販売など輸出に関する事業を行うことだ。前期は2つの補助金に応募したが、残念ながらどちらも不採択となった。不採択の要因は一つではないと思うが、農林水産省が定める輸出重点品目(28品目)の中に漬物が入っていないことは、補助金の採択を難しくしていると考えられる。全漬連や漬物議連を通して、重点品目に漬物を加えて頂けるよう働きかけていくことが必要ではないか。また、漬物の賞味期限が短いことも輸出のハードルを高めていると推測している」
ー現在の輸出状況。
 「弊社ではJETROの商談会において、約20カ国のバイヤーと商談実績があるが、梅干は酸味が強く、輸出へのハードルは高いと感じている。だが、カリカリ梅は梅干ほど酸っぱくなく、味わいが受け入れられやすいことに加え、群馬県の生産量が全国1位であるため、そこを切り口に海外に群馬の梅ブランドを広めていくことができると考えている。現在、おにぎりが海外においても人気なので、おにぎり具材として、梅が人気になる可能性もあるのではないか」
ー最後に。
 「県内には賞味期限が一年以上あるロングライフの福神漬を製造している企業もあり、そうした商品をお手本にすることで、各社が日持ちする漬物の開発を目指していきたい。賞味期限の短い浅漬やキムチについても、冷蔵・冷凍で保存して現地に送るための技術や設備のための補助金を受託できる可能性もある。組合員一丸となり、JETROの力も借りながら、群馬の漬物を少しでも多く輸出できるよう取り組んでいきたい」
【2024(令和6)年3月11日第5156号8面】

群馬県漬物工業協同組合HP
https://guntsuke.com/

東京特集インタビュー

東京中央漬物株式会社 代表取締役社長 齋藤 正久氏

特産品の減少を懸念 インバウンド需要に商機
東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(東京都江東区豊洲)の齋藤正久社長にインタビュー。年末年始の売れ行きや値上げの動き、6月から完全施行となる漬物製造業の許可制などについて話を聞いた。許可の取得にはHACCPの考え方に基づく衛生管理を行うための設備投資などが必要になってくることから、特に地方の小規模事業者への影響を懸念。地方の特産品も多く取り扱っている同社の齋藤社長は、悩みを抱える事業者をサポートしていく意向を示した。(千葉友寛)
   ◇   ◇
‐年末年始の売れ行きは。
 「12月は昨年と同じくらいで推移したが、1月は少し下がって前年比99%となった。勢いが落ちたというよりは昨年の1月から3月が良かったという印象で、99%くらいが本来の数字だと思っている。昨年は値上げもあったが、値上げによって消費者の商品に対する目が厳しくなり、必要なものしか買わないようになってきている。少し前のことだが、自宅の近くにスーパーがオープンした。オープン直後は特別価格で販売していたこともあってすごい賑わいを見せていたが、少し時間が経つとあれだけいた人が全くいなくなった。買い物に対する意識はシビアになってきており、スーパーも新店を出しているところは売上が増えていると思うが、新店が出なくなるとより厳しい状況になっていくと感じている」
‐値上げの動きは。
 「昨年の11月上旬から見ると、2月から5月にかけて値上げの打診があったのは64社。その半分以上が業務用の商品だった。コロナの5類移行後、業務用関係が回復し、動きが良くなっていることも影響している。値上げの理由については4月からの物流費の上昇に伴うものもわずかながらあるが、全体のコストから見ると大きな割合にはならないため、多くのメーカーが吸収する動きとなっている。春夏は様子を見て秋冬のタイミングで検討するところが多くなる、と見ている。一昨年から昨年にかけて値上げを行った後もコストは上がり続けている。漬物もカテゴリーによっては3回、4回の値上げを行っているものもあるが、大体の品目は一巡していて二巡目をいつ行うか、というところがポイントだ」
‐6月から漬物製造業が許可制になる。
 「得意先の要望もあり、1月中旬から製造許可取得に関するアンケートを行っている。アンケートの回収率はまだ6割程度だが、その内の8割はすでに許可を取得しているか申請中ということだった。残りの2割はこれから対応する、ということだったが、小規模事業者については事業を継続しないところも出てくると見ている。後継者が不在、人手不足、設備投資といった問題に加え、持続可能な商売ができているのか、ということもある。利益を確保しなければ設備投資をすることもできず、製造許可が下りない可能性もある。地方の特産品は小規模事業者が製造しているケースが多く、製造許可が取得できなければ特産品の減少につながり、その地域における食文化が継承されなくなる可能性もある。当社は日本の伝統的な漬物を後世に残したいと思っており、そのような商品を取り扱えなくなれば当社の魅力もなくなってしまう。地方で眠っている商品を掘り起こし、流通に乗せていくことは当社の責務でもある。事業の継続や製造許可取得で悩んでいる事業者の方は是非、声をかけてほしい」
‐インバウンド需要は。
 「浅草や築地には多くの外国人観光客が訪れており、インバウンド需要は活況となっている。2月1日には当社が所在する豊洲に新しい商業施設『千客万来』がオープンし、国内外の観光客で連日賑わっている。この3カ所は、日本の文化を発信する重要な拠点だと感じている。日本の食は海外の人からも高く評価されていて、外国人も列を作って並んでいる。土産店よりも飲食店の方が動きが良く、そこに付け合わせや試食など、漬物を入れられないかと思案している。ピンチもあるが、チャンスもある。自分たちの強みを再認識し、商機を逃さないように取り組んでいくことが重要だ」
【2024(令和6)年3月1日第5155号4面】

東京中央漬物 電子版「地域セレクション特別会員」
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2月11日号 SMTS特別インタ

秋本食品株式会社 代表取締役社長 秋本 善明氏

食卓やニーズの変化捉える 「選択と集中」で商品見直し
 秋本食品株式会社(神奈川県綾瀬市)の秋本善明社長にインタビュー。浅漬やキムチの売れ行きなどについて話を聞いた。今年は原料や人手の不足、2024年物流問題など、対応しなければならない課題が山積しているが、「選択と集中」の取組を推進し、ブランド力を生かした展開を行っていく意向を示した。また、魅力ある売場を作るために見せ方や食べるシーンをイメージさせる提案の必要性を強調した。(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐浅漬とキムチの売れ行きは。
 「浅漬は年間を通して売れ行きは良くない。特に昨年10月からは野菜が安かったことも影響した。年末商材のなますや千枚漬もいまひとつだった。だが、年末だけはカップの白菜やゆず白菜、胡瓜、大根と全般的に動きが良かった。キムチは昨年12月までを見ると前年をクリアしている。10月以降は少し落ちているが、一昨年の動きが良かったこともあり、その反動だと見ている」
 ‐その他の商品の動きは。
 「POSデータを見ると梅干しは昨夏の猛暑の影響で売れたが、通年では微減となっている。本漬は良い動きが続いているが、酢漬や沢庵はやや減少傾向となっている。沢庵はカップのスライスが主流になったことによって復調してきており、容器革命によって活路を見出した。全体としては1%程度のマイナスとなっている」
 ‐ニーズの変化について。
 「物価の上昇に賃金のアップが追いついていないため、消費者の生活防衛意識はより強まっている。量販店では安いところやディスカウント店が好調だ。大企業は賃金のアップを表明しているが、我々のような企業はとても追いつかない。個人や企業だけではなく、産業としても格差の広がりを実感している」
 ‐売場によって異なる動きもある。
 「惣菜売場で販売されている漬物は比較的売れているようだ。目的を持って漬物売場に来る人もいるが、食シーンにマッチしているかどうかが重要で、惣菜売場に漬物があれば食べるシーンをイメージできて購入につながる。惣菜売場の漬物は液なしでスライスされたカップ製品が多く、蓋を開けるだけで食べられる簡便性や即食性の高い商品。液を切る作業や包丁を使うことは手間になるため、このようなニーズは以前よりも確実に強まっている」
 ‐漬物の食べ方や売場の変化について。
 「漬物は箸休めやお茶請けとしても利用されてきたが、いまの食卓にその要素が必要とされているのかどうか。世帯人数や食べる量、食生活の変化など、いまの食卓のことをもっと研究する必要がある。ご飯のお供という部分については、なくなることはないと思っている。1月7日にご飯のお供をテーマにしたテレビ番組が放送されたのだが、紹介された商品はかなり動いたと聞いた。量販店の売場でもご飯に合う商品やお酒に合う商品のランキングを作成し、消費者に情報を伝えるサービスがあってもいいと思う。画一化された売場でただ置いてあるだけでは売れない。美味しさや価値を伝え、食シーンをイメージさせることが必要だ。半期に一度売場を変えただけでは面白くないし、変化はほとんどない。売場に興味を持ってもらうためにも見せ方も含めた変化が必要だ」
 ‐2024年物流問題について。
 「物流費については一気に上がらず徐々に上がっていく流れになると見ている。物流費の上昇を製品価格に転嫁できるかということについては、トータルで見てどれだけ上がるかということにも関係するが、物流費が上がった分は製品価格に転嫁するべきだと考えている。企業の収益が落ちれば賃金が上がらず、物価高に追い付かないという流れになる」
 ‐値上げや今後の方向性は。
 「値上げをして売上が減った場合、それに見合った商売をしなければならない。市場性がなくなった商品を復活させることは至難の業だが、それでもメーカーとしては売れる商品を作り続けなければならない。当社としては選択と集中の取組で商品を見直し、主力の『あとひきだいこん』、『王道キムチ』、『オモニの極旨キムチ』を軸にそのブランド力を生かした姉妹品等の展開を行っていく」
 ‐漬物の魅力や強みについて。
 「漬物の最大の魅力は、植物性乳酸菌を豊富に摂取できる発酵食品であること。これは他の食品や業界にはないもので、漬物の特権とも言える。近年、キムチが大きく伸長した要素でもあるが、そのような情報をもっと発信し、腸活の観点からPRしていくことが重要だ」
【2024(令和6)年2月11日第5153号2面】

秋本食品 電子版 バイヤー必見!イチ押しページ
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株式会社五味商店 代表取締役社長 寺谷 健治氏

過去最多157社が出展 “こだわり商品”市場拡大続く
 『スーパーマーケット・トレードショー2024』(2月14日~16日・幕張メッセ)において、全国から厳選した食品を紹介する株式会社五味商店(千葉県我孫子市)の「こだわり商品コーナー」(会場9ホール)は、今回で25回目の出展となる。【小間番号:9‐102】
 同ブースには今回、過去最多となる157社が出展、全国各地からこだわり商品が集結する。現在の消費動向である“メリハリ消費”が追い風となり、こだわり商品の市場は好調をキープしている。五味商店の寺谷健治社長は、今後、ベースアップによる賃金上昇が進めば、こだわり商品の市場はさらに拡大していくとその見通しを語った。
(藤井大碁)
   ◇    ◇  
―SMTSへの出展は今回で25回目となる。
 「2000年からブースを出展し、様々なことを勉強させて頂いた。継続的に“こだわり”という言葉を使い続け、その価値を訴求し続けた結果、この25年間で“こだわり”という言葉が市民権を得た。生前、毎回ブースに足を運んでくださったセブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅俊名誉会長や全国スーパーマーケット協会の皆様を始め、たくさんの方々のおかげで今の五味商店があると感謝の気持ちでいっぱいだ」
―今回の見どころは。
 「昨年より15社増加し、過去最高の157社が出展する。そのうち行政関係の出展が58社を占める。能登半島地震により被災した石川県からは、7社が出展する予定だったが、そのうちの1社が震災の影響で出展できなくなった。まずは被災地の1日も早い復興を願うと共に、我々も展示会を通して、石川県の出展者と一緒に頑張っていくことでエールを送りたい」
―ブース内の特設コーナーについて。
 「特設コーナーでは、これから旬を迎える“初夏のレモン”と“新緑の抹茶”をテーマに関連商品を提案する。また、“TOPPIN’JAPAN”コーナーでは、ご飯のお供になる瓶詰商品、調味料、ドレッシングなど、ご飯や料理にプラスすることで食卓が豊かになるこだわり商品を紹介する」
―現在の消費者ニーズは。
 「アフターコロナになり、消費者のライフスタイルや価値観が大きく変化している。消費の二極化が進み、“メリハリ消費”が顕著になっている。安いPB商品が売れているが、高いこだわり商品も売れている。以前は、十人十色だった消費形態が、一人の消費者が、安いものを購入しながら、自分が美味しくて食べたいものは高くても購入する、という“一人十色”の消費形態に変化している。そのため、小売店では、両極のニーズに対応していく必要があり、PB商品の拡充などにより価格対応を行うと共に、1000円台などの高付加価値商品の取扱いを増やす店舗も出てきている」
―こだわり商品の動き。
 「弊社の直近3カ月の売上は前年比107%と好調に推移している。メリハリ消費が追い風になり、こだわり商品の市場は着実に成長している。今後のベースアップにより賃金が上昇していけば、さらにメリハリ消費が顕著になり、こだわり商品の需要は増加していくものと考えられる。そうした時代に向け、どういった商品を提案できるかが、小売店にとっては今後の重要なテーマになるのではないか」
―新たな取組について。
 「昨年4月にオープンした新宿高島屋の“Meetz STORE(ミーツストア)”に弊社から2アイテムを出品している。同売場は、購入前に商品を試すことができ、オンラインで購入するショールーミングストアで、雑貨や化粧品などと共に食品を取り扱っている。まだまだ売り上げは微々たるものだが、こうした新たな販売チャネルに積極的にチャレンジすることで、将来への種蒔きを行っていきたい」
―最後に。
 「我々の最大の目標は、『こだわり商品コーナー』から1社でも多くの成功企業を輩出し、地域活性化に貢献すること。その企業の売上が伸び、地元に新工場を建設することができれば、新たな雇用が生まれ、地域貢献につながる。実際にこれまで展示会への出展を機に、売上が20倍以上に拡大したケースもある。成功のために必要なのは、経営力・販売力・商品力の3つの力のバランスで、このうちどれかが欠けても競争に勝てない。逆に、この3つの力があれば、『こだわり商品コーナー』に出展することで、爆発的な売上増加のチャンスがある。今回も、展示会への出展を機に、地域活性化に貢献する企業が誕生することを期待し、全力でバックアップしていく」
【2024(令和6)年2月11日第5153号5面】

五味商店 電子版 地域セレクション特別会員
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株式会社山重 代表取締役社長 杉山 博氏

待ったなしの物流問題対応 消費者需要にマッチした商品を提案
 株式会社山重(杉山博社長、東京都葛飾区)は、漬物をはじめ日配のプロとして全国に物流網を持つ一次荷受問屋。取引先は全国44都道府県、仕入れ件数は346件と地方の名産品も数多く取り扱っている。同社は単に商品を物流に乗せるだけではなく、メーカーと商品を共同開発して企画・売場提案を行いながら量販店、外食、中食、ベンダーなど様々な販売チャネルに供給してきた。開発力と提案力を併せ持つ同社は業界内外から高く評価された歴史があり、厚い信頼を寄せられている。業界を取り巻く環境は厳しさを増しているが、杉山社長は改めてメーカーとともに消費者に求められる商品を作っていく姿勢を強調した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今期の業績は。
 「今期の売上は12月までで前年比増となっており、まだ2月と3月の動きは読めないが、通年で増収、利益は前年並みと予想している。消費者の需要にマッチした商品を提供できたことが結果的に増収につながったと考えている」
 ‐課題が山積する中、利益の確保について。
 「エネルギー価格や物流費の上昇で利益の確保は難しくなってきている。5月から再び電気代が上がる見通しで、これまで以上にコストダウンを図っていく必要がある。2024年物流問題は大きな問題で、運べる量が減って物流費が上がっても商品の価格に簡単には転嫁することはできないため、様々なことを視野に入れて取り組んでいきたいと考えている。当社は三郷に物流センターがあり、全国のメーカーの商品を一括管理して東日本を中心に全国へ供給できる。小分け販売や小回りの効く供給も可能だ。流通が短絡化にあると言われる今日でもメーカーだけではなく、問屋や流通からも山重が間に入ってくれている方がありがたい、と言っていただける企業で在り続けたい」
 ‐物流費上昇に伴う値上げの動きは。
 「1月下旬の時点で値上げの商談はほぼないので、春夏の棚割りで値上げは実施されない。次のタイミングは早くても秋冬向けとなる。漬物についてはこの数年で適正な価格になり、海外原料や海外完成品は2回、3回値上げした商品もあるが、国産や国内加工品も含めて一巡した流れとなっている。だが、その後も原材料や調味資材などのコストが上がり続けており、適正価格にするために2回目の値上げが必要な状況となっているが、競合の動きや消費者離れを招く可能性もあるため、慎重な判断が必要と考えている」
 ‐今後の値上げの見通しは。
 「数度の値上げを経ても売れ行きが落ちていないマクドナルドやパン製品の動きを見ても分かるように、必要なものや生活必需品、食べる価値のあるものは値上げをしても売れ続けるが、漬物は主菜ではなく副菜なので値上げをすると数量の減少につながりやすい。ブランド力のある商品でも値上げ後に数量が大幅に減少した例もあり、積極的に値上げに動いているメーカーは少ない。困難な状況下こそ『消費者が何を求めているのか』という構造を分析することが重要であり、必要とされる理由や食べる動機を消費者に訴求することが大切で、健康のために野菜を摂取するという観点の他、乳酸菌、発酵食品、食物繊維など有用なポイントをアピールしつつ、料理素材としても利用できることをPRし、用途の拡大を目指したいと思っている。若い人はテレビを見ないので、情報を発信するツールも考えなければならないし、売り方についても根本から見直す必要がある」
 ‐来期の見通しと抱負を。
 「昨年5月にコロナが5類に移行し、外食が回復してきていることから業務用にも力を入れていきたいと考えている。また、引き続きドラッグストアが伸びると見ている。薬品や化粧品といった主力商品に加え、食品の構成比も上がっているが、まだまだ伸びる要素はある。量販店の漬物売場は頭打ちで変化が求められている。我々も含めて消費者のニーズをキャッチして売場に落とし込んでいくことが重要で、商品を橋渡しするだけの問屋は必要とされない。日本は他国に比して商品が多品種小ロットが好まれており、ニッチな需要も今後増加すると予想している。消費者の需要が何かを調査し、その情報を関係各位にお伝えすることにより、商品を提供し続ける『新たな問屋』を目指していく」
【2024(令和6)年2月11日第5153号15面】

電子版 地域セレクション特別会員 山重

1月21日号 DTS特別インタビュー

(一社)全国スーパーマーケット協会 事業部流通支援課兼事業創造室 チーフディレクター 籾山朋輝氏

売場テーマは価値創出
おにぎり部門エントリー大幅増

 デリカテッセン・トレードショー2024(以下、DTS)が2月14日から16日まで幕張メッセにて開催される。DTSは中食産業の最新情報を発信する商談展示会。主催者企画「お弁当・お惣菜大賞」は近年注目度が上昇、売場の販促ツールとして大きな存在になりつつある。DTS会場内では今年も受賞商品の一部を実食できるフードコートを展開する予定だ。DTSを主催する一般社団法人全国スーパーマーケット協会事業部流通支援課兼事業創造室チーフディレクターの籾山朋輝氏にインタビュー。籾山氏は『お弁当・お惣菜大賞』の今年のエントリー商品の特徴について言及。商品開発の傾向が〝価格訴求”から〝価値訴求〟へ変化していることを挙げた。(藤井大碁)
 ーデリカ売場の販売動向について。
 「値上げが進んだことにより、惣菜カテゴリーの売上は、SM3団体統計調査の直近3カ月のデータを見ても、既存店で前年比3~6%増と好調が続いている。だが、同時に人件費や製造コストも上昇しており、利益面は売上ほどには伸びていないのが実情だ。全体的には、即食や簡便性を求める生活スタイルに加え、家飲みも定着しており、引き続きスーパーの惣菜への需要は堅調に推移していると言えるのではないか」
 ー今回のDTSの見どころ。
 「出展者数は前回よりやや増加し、50社・団体、238小間の規模になる。新規出展も10社程あり、中食産業に特化した様々な最新情報を発信するので是非ご注目頂きたい。『お弁当・お惣菜大賞』の受賞商品の一部を実食できるフードコートを今回も展開する他、デリカ関連のメニューを来場者に食べ比べしてもらう『食べくらべ体験 STAND』では、バックヤードでの導入が進むスチームコンベクションオーブンの活用メニューとして、注目が高まっている『ドリア』を試食して頂く予定だ」
 ー「お弁当お惣菜大賞2024」エントリー商品の特徴。
 「今回のエントリー商品を見てみると、極端な価格訴求型の商品が減っている。製造コストの高騰により、価格とクオリティの両立が難しくなった。その代わりとして、今回目立ったのが、メニューや食材に一捻り加えて、オリジナリティを演出した商品のエントリー。ご当地食材を使用したり、一つの弁当内で食べ比べが出来たり、様々な工夫を凝らすことにより価値を創出した商品が多く入賞している。またカテゴリーごとの特徴では、おにぎり部門のエントリー数が大幅に増加した。物価高で商品の一品単価が上昇する中、200~300円で一食完結できるこだわりのおにぎりのエントリーが増えた。一方、各国料理部門のエントリー数が減少した。コロナ禍で海外旅行に行けなかったため、家で海外の料理を食べて、旅気分を味わうというトレンドがあったが、そうした売場の企画が減少していることが見て取れる」
 ーデリカ売場の課題。
 「引き続き人手不足が大きな課題となっている。デリカ売場の商品を全て自社製造することは難しく、力を入れるもの、入れないものを見極めて、自社で作り切れない部分については、仕入れ商品をうまく活用していくことが求められている。また、コロナ前のデリカ売場でよく見られていた裸売りが未だ復活できないというのも売場にとっては課題の一つだ。裸売りができれば、華やかでシズル感のある売場が演出できるため、現在のテーマとなっている価値の創出にも繋がる」
 ー今後について。
 「即食や簡便性へのニーズは強く、惣菜への需要は引き続き高まっていくのではないか。近年、冷凍食品の進化も著しく、カテゴリーによっては惣菜と冷凍食品の棲み分けが進んでいく可能性もある。また、物価は今後も上昇していくと思うので、これまで以上に創意工夫を重ね、付加価値の高い商品の開発が必要になる。こらから先は、完全にコロナ明けの環境となるので、今年は、今後のデリカマーケットを占う意味でも重要な1年になると考えている」
【2024(令和6)年1月21日第5151号6面】

デリカテッセン・トレードショー公式サイト
https://www.delica.jp/

1月21日号 この人に聞く

神尾食品工業株式会社 常務取締役 神尾繁樹氏

漬物製造管理士1級合格
会社をブラッシュアップ
 全日本漬物協同組合連合会が昨年10月に実施した漬物製造管理士試験で1級に合格した神尾食品工業株式会社(神尾賢次社長、神奈川県小田原市飯泉)の神尾繁樹常務取締役にインタビュー。試験にチャレンジした目的や試験を通じて学んだことなどについて話を聞いた。また、小田原の名産である桜花漬や十郎梅の生産や製品の製造については、「共存の意識で対応していく必要がある」と強調した。(千葉友寛)
◇    ◇
 
漬物製造管理試験の1級に合格した。
 「これまで3級、2級の試験を受けて合格していたのだが、コロナの影響で1級試験が実施されず昨年10月に試験を受ける運びとなった。当社に1級の取得者は1人いるのだが、会社の経営に携わるものとして法令や品質管理、微生物、分析関係の内容を勉強したいと思っていたので試験を受けることはマストだと考えていた」
 
ー合格した時の心境。
 「やはり嬉しかった。試験に向けて半年くらい前から帰宅後や仕事の合間の時間を利用して勉強した。もちろん、毎日時間が取れるわけではないので、やれる時に少しずつ勉強していた。漬物は種類が多く、歴史もある。勉強を通じて目的としていたこと以外にも多くのことを学ぶことができた。衛生管理についてもHACCPの内容を知っているのと知っていないのでは製造現場を見る目が変わってくる。全て担当者に任せていればいい、ということではなく、経営者としても知識を持っていた方が様々な視点から会社をブラッシュアップすることができる。当社は梅干しの製造が多く、浅漬に携わることはないのだが、試験を通じて浅漬製造のプロセスなども学べたことは良かったと思っている。自分を磨きたい、知識を増やしたい、という意欲のある方は、経営者でも営業マンでも事務の方でも是非、チャレンジしてほしい。試験を通じて実務に活かせることは多々ある」
 
ー技能実習制度について。
 「現在、当社に技能実習生はいないのだが、日本全国で人手不足が叫ばれている中、今後は技能実習生の受け入れも視野に入れていく必要がある。技能実習生制度はこれからどのような形になっていくか分からないが、当社としても業界としても注視していく必要がある」
 
ー桜花漬の動きは。
 「コロナの5類移行でインバウンドも回復し、末端の製品が動き出している。原料の出荷は前年を上回っていて順調なのだが、生産者の減少や収量減などのため不足気味となっている」
 
ー小田原の梅について。
 「小田原の曽我梅林を代表するオリジナル品種の十郎梅は、手もぎのため収穫にも製造にも手間がかかる。十郎梅は皮が破れにくく、果肉が多いという特徴があり、産地性も合わせて紀州南高梅にはない部分をPRすることができる。しかし、他産地と同様に生産者の減少や高齢化が問題となっている。桜の花や梅を継続して生産していただけるよう、我々や流通も含めて共存の意識で対応していく必要がある」
 ー新年の抱負を。
 「私は入社12年目で、常務取締役に就任して6年目になるが、まだまだ実績がなく学ぶことが多いと感じている。現在は業務の全てを見ていて、人事、現場の合理化、社内の整備、原料の対応などに取り組んでいる。3月に34歳になるが、製造管理士の1級合格は一つのステップで、商品開発や実務に活かせるようにもっと力をつけていきたいと思っている。業界の皆様方におかれては、引き続きご指導、ご鞭撻をお願いしたい」
【2024(令和6)年1月21日第5151号6面】

神尾食品工業 http://kamio.co.jp/

株式会社天政松下 代表取締役社長 松下雄哉氏

SNS代行「ゼロべー」
認知度向上、人材採用で成果
 株式会社天政松下(松下雄哉社長、大阪市西淀川区)はSNS、特にYouTubeやTikTokといった動画サービスでの発信に注力し、認知度向上や人材採用で成果を上げてきた。この度その経験を活かし、動画制作・SNS運用代行を行う新会社「株式会社ゼロべー」を立ち上げた。松下社長は企業のリクルートやブランディングにおいて動画SNSの活用の重要性を語った。
(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 ‐自社のSNS運用について。
 「天政松下としてインスタグラムやX(旧ツイッター)は以前から運用していたが、2022年春から大学ベンチャーで起業したメンバーとYouTubeやTikTok動画にも着手した。動画は文字や写真と比べて手間はかかるが、その効果は十分にある。特にYouTubeショートやTikTokはバズりが起こりやすく拡散性が非常に高い。認知や興味の拡大という側面では非常に有効だ」
 ‐動画投稿の効果は。
 「一番顕著なのが人材採用への影響。動画投稿以降、求人媒体サイトからの応募率は全国平均の倍近くに跳ね上がった。動画で当社を知って検索して応募したと話す学生の子もいて入社した」
 ‐人材採用に効果がある理由は。
 「求職者の知りたい情報は業種、労働条件はもちろんだが、実は社内の年齢層や雰囲気といった働く環境を非常に気にしている。情報が求人記事とホームページだけだとどうしても得られる情報量が少ない。ライバル社と条件が同じだった場合、情報量が多く働くイメージができる企業が優位になる。つまり人材獲得競争において社内のリアルな情報をいかに開示するかが重要になる。新会社ゼロべーではリクルートの強化を考えている企業の力になりたいと考えている」
 ‐サービス内容は。
 「動画の企画から撮影、編集、アップロード、分析、アカウント管理まで全て代行させていただく。クライアントにやっていただくのは撮影の協力と投稿前のチェックだけ。YouTubeショートとTikTokへ週2本(月8~9本)投稿で、撮影時間は月一回で3時間ほどで済む」
 ‐料金は。
 「料金はYouTubeショート、TikTokを各週2本(約月8)月額25~28万(税抜)。SNSの運用代行としては低価格に抑えて顧客がチャレンジしやすい環境を一番に考えている。動画SNSを自社で行おうとすれば、時間もテクニックも必要で片手間では難しい。また離職リスクなども考えると中小企業にとっては現実的でない。外注するのが最も低リスクであると実感を持って言える」
 ‐今後の活動は。
 「12月に設立が終わったので、1月から本格的に活動していく。設立前から契約の話を進めていただいている企業もある。中小企業が発信力を強化するお手伝いができればと思っている」
【2024(令和6)年1月11日第5150号9面】

大和屋守口漬総本家 代表取締役社長 青木茂夫氏

伝統を守りつつ変化する
生産者の作りがい生む施策支援
 株式会社大和屋守口漬総本家(愛知県名古屋市)では、青木茂夫常務取締役が昨年8月29日に代表取締役社長に就任した。青木新社長は、外資系企業に25年務め、50歳の節目で2022年に同社へ入社した。守口漬を代表するメーカーの5代目社長として、自社の伝統的な味を継承しつつ、消費拡大にも取り組み、社員のモチベーションを高めたいと抱負を語った。
(高澤尚揮)
◇    ◇
 ―青木新社長の経歴は。
 「1972年生まれで、高校まで愛知県岡崎市で育った。大学は東京に進み、早稲田大学大学院経営管理研究科でMBAを取得。学生時代から、スポーツビジネスとマーケティングに関心があったため、ナイキジャパンには24歳で転職し、25年間務めた。同社では、スポーツマーケティングに長年携わり、ディレクター職を最後に、50歳で大和屋守口漬総本家に入社した。鈴木昌義現会長は義兄であり、入社前から同社の状況や将来について議論することもあった」
 ―社長就任での抱負。
 「鈴木昌義現会長は20年に渡り社長を務め、『節目の年から、会社に変化をつけたい』という想いで、社長職を私に譲った。伝統のある守口漬の味など守るべきことは守り、変えるべきことは変えていきたい。当社は『一灯をともす』という言葉を大切にしており、社員のモチベーションを上げる評価制度の確立、守口大根の生産者の作りがいが生まれる施策を実行していく」
―自社の強みは。
 「守口漬を代表するメーカーの一社として、歴史に誇りがあり、お客様にも、商品の品質・歴史で信頼していただいている。扱う守口漬は、漬物の中でも一目置かれる存在だ。また当社は、みりん粕漬のブランド『鈴波』と、粕製品の『八幸八』、鈴波と姉妹店でお弁当を扱う『六行亭』があり、相乗効果がある。シナジーを加速させたい」
―守口漬の市況は。
 「お中元、お歳暮の市場が縮小する中で、既存のお客様に引き続きご支持いただけるよう、新たな取組を検討する。一方で、地元でも若年層を中心に、守口漬自体の認知度が下がっていると感じる。若年層へ守口漬のおいしさ、伝統性などの魅力に興味を持ってもらえるようPRもしていきたい」
―業界へ伝えたいことは。
 「守口漬、奈良漬、粕漬のPRは一社だけでなく、業界単位で行う必要があり、当社からは鈴木会長や私を中心に引き続き参加して参ります。皆様、よろしくお願い申し上げます」
 【青木茂夫新社長の略歴】▼1972年愛知県岡崎市生まれ▼早稲田大学大学院経営管理研究科でMBA取得▼ナイキジャパン社に25年勤務し、ディレクター職、経営会議メンバーを歴任後、2022年に大和屋守口漬総本家に入社。2023年10月に代表取締役社長就任。
【2024(令和6)年1月11日第5150号12面】

大和屋守口漬総本家 

1月1日 新年号 トップ・インタビュー

東京中央漬物株式会社 代表取締役社長 齋藤 正久氏

売上は前期比106・6%で推移
2回目の価格改定を想定
 東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(東京都江東区豊洲)の齋藤正久社長にインタビュー。2023年の振り返りや、24年3月期の業績等について話を聞いた。今期の売上はキムチと沢庵の動きが良く、11月までで前期比106・6%と好調に推移。また、値上げが一巡したことで数量に大きな変化はないものの、値上げによる増収効果が出ている。2024年物流問題については、安定供給を果たすため共同配送の可能性を探る意向を示した。
(千葉友寛)
  ◇      ◇
‐昨年を振り返って。
 「コロナの5類移行で人が外に出るようになり、飲食店や観光関係の動きが戻ってきた。インバウンドも増えてきているが、お土産の購入数は増えておらず、業界でも動きが良いところとそうでないところの差がはっきりとしている。また、人の足が地方に向いていることで地方のSMも良くなってきた。業界の値上げについては一巡し、数量は同じだが値上げした分だけプラスになっている。当社は昨年度の売上が良くなかったが、値上げによって底上げできている流れだ」
‐24年3月期の売上について。
 「昨年の2月から良い数字となり、11月までで前期比106・6%と好調に推移している。数量は大きく変わらないのだが、多くの品目で値上げが実施され、その分がプラスになっていると感じている。あと、飲食関係の業務筋の数字が伸びている。売れているのはキムチと沢庵。キムチは漬物の枠を飛び越えた存在として食卓に浸透している。沢庵は重量が前年の8割となっているものの、金額はほぼ同じとなっており、個食タイプやスライスタイプが増えていることが分かる。一本物はお得感があるが、食べきれないという側面もある」
‐キムチや沢庵以外の動きは。
 「梅干しはトータルで103%と微増している。今年は猛暑と残暑の影響もあり、7月から10月まで動きが良かった。生姜も伸びている。売れているのは紅生姜。夏に冷やし中華や焼きそばが売れたことで数字が伸びた。また、新生姜は引き続き安定した動きとなっている。浅漬も微増となっている。SMでは増えていないと思うが、当社は業務関係の得意先が多いことや野菜高の影響もあってプラスとなっている。総じて言えることは、漬物の需要は落ちてはいない、ということだ」
‐値上げの動きは。
 「海外原料や海外完成品は数回の値上げを実施しているが、国内原料や国内加工品については大体の商品が1回は値上げを実施して一巡した。しかし、その後も包装資材や調味料、電気代などは上がり続けており、4月には物流費も上がる。今の価格では採算が合わなくなる可能性が高く、多くの品目で2回目の価格改定が実施されるものと想定している。小売店との商談については、ベンダーの力も問われている。採算が合わない商売をしても意味がないし、他と同じことをやっていても価格の競争になる。漬物以外の商品を見ても、値上げを数回行っても必要とされる商品は売れ続けている。漬物が必要とされるのか、されないのか。単純に価格を上げる、ということだけではなく、食べる理由や価値をPRしていくことも重要で、漬物は198円や298円でなければ売れない、という固定概念を変えていく努力も必要だ」
‐2024年物流問題について。
 「当社も物流費が上がっていて、大きな問題ととらえている。当社は物流機能がないので、得意先とも話をしていかなければならないのだが、共同配送の可能性を探っていく必要が出てくる可能性もある。物流費が上がることも問題だが、運べる量が減ってしまうことも大きな問題。一社だけで解決できる問題ではないので、安定供給を果たすために協力し合える部分は協力していきたいと考えている」
‐2024年の抱負を。
 「これまでの当社のノウハウを活かして得意先に合う商品をメーカーとともに開発し、新しい商品を作っていきたいと考えている。商品開発と言っても、ただ商品を作るだけではなく、どこの売場で売るのか、売り先も選定するところまで踏み込んでやりたい。SMで売れても市場で売れない商品もある。また、その逆もしかりで、どこから声がかかるか分からないが、社内でも部門の枠を飛び越えて商品会議を行い、必要とされる商品をメーカーとともに作り上げて売場に落とし込んでいきたい。定番商品だけでは数量を増やすことができない。ならばこちら側から『このような商品もある』と提案していく必要がある」
【2024(令和6)年1月1日第5149号3面】

東京中央漬物 電子版「地域セレクション特別会員」
https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/1293/

東海漬物株式会社 代表取締役社長 永井 英朗氏

キムチと沢庵が好調で増収
成長見据え世代交代を推進

 東海漬物株式会社(愛知県豊橋市)の永井英朗社長にインタビュー。第82期(2022年9月~2023年8月)を顧みて、第83期期首及び値上げに関する状況などについても話を聞いた。今期は選択と集中をテーマにアイテムの集約を図り、生産性を高めていく方針を示した。また、同社の新役員選任及びグループ会社の経営トップの交代で人事と体制が変わったことについて、次世代の成長を見据えて世代交代を推進していることを明かした。
(千葉友寛)  
  ◇   ◇
 ‐第82期決算について。
 「コロナで巣ごもり需要が増加し、過去最高の収益となった2021年8月期(80期)と比較すると、81期は減収減益となったが、82期は再び盛り返して増収となった。様々なコストが上がっていることもあり、利益については厳しい状況が続いているが、目標とした数字はクリアすることができた。増収となった主な要因としては、下期にキムチが伸長したことが上げられる。6月にテレビで『キムチ』が取り上げられたことや7月の増量企画が追い風となり、月間の売上で見ると7月は過去最高の数字となった。また、キムチに続いて沢庵の売れ行きも良かった。けん引しているのはカップのスライス沢庵」
 ‐83期のスタートについて。
 「キムチは引き続き好調だが、値上げした『きゅうりのキューちゃん』が非常に厳しい状況である。しかしながら数量は大幅に落ちているものの、98円の特売が減って店頭売価が上がっていることを考えれば値上げの効果は出せていると思っている。2月以降は新しいCMを入れたり、販促を行っていく予定だ。上期はまだスタートしたばかりだが、キムチと沢庵が引き続き好調で現時点では売上、利益ともに予算を達成している」
 ‐浅漬の動向について。
 「選択と集中をテーマに、数字が上がっている『ぷち浅漬』シリーズをしっかりと売り込んでいる。また、液なしでそのまま食べてもよし、ひと手間加えておかずになる新ジャンルの浅漬製品の第2弾を3月に発売する予定。この商品は当社の説明不足でコンセプトが伝わらず支持されなかったが、新しい需要の開拓を目指して再挑戦する」
 ‐本漬の動向は。
 「原料価格が上がっている部分もあるが、相変わらず為替の影響が大きい。直近では円高傾向になってきているが、1ドル110円の時と比較するとまだまだ円安である。『きゅうりのキューちゃん』は内容量を減らして価格も上げた。今後はきゅうりを中心に様々な海外原料手当てのやり方も変えていく必要がある。国産大根については、当社では昨年1月に沢庵の価格を約10%上げたのだが、数量は落ちなかった」
 ‐製造コストが上がり続ける中、今後の値上げの動きについて。
 「製造コストに加え『2024年物流問題』は大きな問題だ。漬物でも漬物以外でも日配の共同配送を希望している企業があれば、当社も検討していきたいと考えている」
 ‐原料面と製造面の課題は。
 「価格要因と天候要因の影響が大きくなるが、国内については産地を広げて選択と集中に取り組む。新しい産地については農業に進出する、ということではないが、拡大に向けて動いていく。製造面については人手の部分が大きい。当社では全体の約50%が中途採用。工場もパートの比率が高くなっている。設備投資をすることは可能だが、それを活用できるほどの生産量や人材を確保できるのか、という問題がある。近年は転職がスキルアップにつながるということもあり、ポジティブに捉えられている。そのような意味では中途で人材を確保しやすい環境でもあるということだ」
 ‐今後の戦略について。
 「営業面では売り込みたい商品をしっかりと売っていく、ということ。流通が目まぐるしく変化する中で、売価も含めてしっかりと対応していく必要がある。今期のテーマとしては選択と集中。利益至上主義ではないが、今後の展望が見えない商品は止める、という決断も必要だ。留め型やPBもあるが、最低でもここまでは利益が出ないとやれない、という線引きをしっかりやる、ということ。当社は浅漬の製造を行ったことでアイテム数が増えたのだが、今後はアイテムの集約を図り、生産性を高めていく。不得意な分野の商品については、他社の力を借りてOEMでの供給も視野に入れている」
 ‐御社をはじめグループ企業で新役員が選任され、人事と体制が変わった狙いは。
 「一言で言えば世代交代。私が考えていた計画よりは2年遅れたが、今回の人事で東海漬物の常務が2人退任し、新しく3人の取締役が就任した。グループ会社においては3社の社長が退任し、東海漬物の3人の常務がグループ会社の社長に就任した。いつの時代も同じだが、人の入れ替わりは必ずある。このタイミングを見誤ると大変なことになる。新体制で新たな追い風が吹き、グループ全体の成長につながることを期待する」
【2024(令和6)年1月1日第5149号5面】

東海漬物
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